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VUCA、産業革命、人生100年時代ー違和感の授業②

1年前、誰がこんな今日を予想していただろう? 3か月前のクリスマスには? VUCAの時代(Volatility(変動)+Uncertainty(不確実)+Complexity(複雑)+Ambiguity(曖昧)=よくわからない時代)になったと言われるけど、本当に、いまの時代「未来」はブカブカの袋みたい。何が投げ込まれるかわからない。

人は死ぬ。時代は変わる。このふたつの事実は、「人」を現生人類に限ったとしても、20万年前から変わらない。ただし現代に近づくにつれ、その「速度」と「規模」が大きく変化している。つまり、「あっという間に、ものすごく」変わるようになったのだ(この一文前に、「速度と規模が大きく変化している」と書かざるを得ないあたりが、顕著だよなぁと思ってます)。


▶ひとは何を仕事にしているのかー産業別に見てみると。

「産業」とは、人間が必要なものを生産すること。いまも学校で習うのかな、私たちの時代は「第一次産業は農業や漁業(自然からとってくる)、第二次産業は工業(とってきたものを加工する)、第三次産業はサービス業(相手がモノではなくてヒト)、という分類で学んだ。

森で果物を採ったりウサギを獲ったりしていた人間が、「自分で育てる」農業を始めたのが約2万3千年前。そこからずっと、人間社会の営みの中心(たくさんのひとが働く場)は、第一次産業だった。

やがて工場ができて大量に服や自動車をつくるようになって、第二次産業で生きるひとが増える。機械がモノをどんどん作るので、売る人は別の仕事だねということになり、モノの小売り(お店)とか、そういう情報自体のやりとり(新聞雑誌・テレビ・ウェブ)とか、お金を貸すとか預かるとか、教育とか介護とかエンターテインメントとか、「つくる」以外の仕事つまり第三次産業が増えてくる。

現在、といってもバシッと「産業(3部門)別15歳以上就業者数」が出てくるのが総務省統計局の2005年データしかないのだけども、日本では第一次産業5.1%、第二次産業25.9%、第三次産業67.3%らしい。(とはいえ、車をつくる会社に勤務していても、経営や人事や企画や営業や総務や経理や広報は実際には第三次産業なので、私の肌感覚では”第三次産業従事者が90%以上”です)


▶4度の産業革命ーもしもあなたがタクシー運転手なら。

ではいつ、こういう産業の変化が起こったのか。考えるヒントになるのが、「産業革命」=「人間が必要なものを生産するやり方が、その前の時代には想像もできなかったくらい変わった時」。これまで4度起こったとされる産業革命を、超ざっくり説明してみる。

・1800年頃に「工場」というものができて一カ所に集まって服や靴をつくるようになった(第1次産業革命:石炭燃料による軽工業)
・1900年頃に自動車など「鉄」の時代になる(第2次産業革命:石油燃料と電気による重工業)
・1995年頃に、コンピュータによる自動化が進む(第3次産業革命)。
・2011年、インターネットを活用するAIやIoTによる自律化の時代に突入(第4次産業革命)


たとえばあなたが馬車の御者だとする。第1次産業革命で、蒸気機関車が登場する。長距離ではかなわないから、近距離の仕事にシフトする。第2次産業革命で、自動車が登場する。もう”疲れる”馬ではかなわないから、タクシー運転手になるしかない。

第3次産業革命では、車自体の価格が下がった(トヨタカローラの場合、1995年発売の8代目が、同年の大学初任給比で歴代最安値らしい※リンク参照)。しかし第4次産業革命でUberが出て来て、タクシー運転手としての地位が危うくなる。えらいこっちゃ。2018年には、スペインのマドリードとバルセロナで、Uber等配車システムの導入に反対して、タクシー運転手(参加率100%)によるストライキがあり、幹線道路が封鎖された。

……と思っていたら、同じ年に、自動運転の実証実験が世界的に行われ始めている。もはや「タクシー運転手」という業種自体がなくなりかける予感しかいない……というのが、現在の状況。なんか、すごいよね。


▶「規模」の話ーそしてイエローキャブはUberに。

かつて蒸気機関車が現れても、馬車が一気になくなることはなかった。世の中に、そんなたくさん蒸気機関車はなかったから。だけど、自動車のタクシーが現れると、馬車はわりと急激になくなったと思う。自動車はたくさんあるから。でも値段が高いので、「急激ななかでも、ゆっくり」だっただろう。

ところが、Uberの場合、魅力は「安さ」だ。やっぱり安い方が、一気に市場を変えていく。では、次の自動運転ではどうなる? 「運転手の人件費」が、ついになくなる。もっと安くなるのじゃないかな。とすると、タクシーもバスも、運転手という仕事は、数年のうちに一気になくなるかもしれない。「安さ」が、ひとつのキーワードだ。(※興味ある人は『限界費用ゼロ社会』という本を読んでみて)

現代のキーワードは、もうひとつある。タクシーの歴史を遡ってみると、イギリスのロンドンでは1901年に、アメリカのニューヨークでは1907年に、そして日本では1912年に、始まったとされる。それぞれの土地の会社が打ち出した個性によって、ロンドンのはブラックキャブ、ニューヨークのはイエローキャブ、として知られてきた。(ちなみに自動ドアは日本だけだよ)

一方でUberは、2009年創業のアメリカの会社だけど、いま世界70の国と地域、450都市以上を走っているという(Wikipedia)。そういえば、私たちが日ごろ接するGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)も、ぜんぶアメリカの会社。こういうふうに、国境なく展開していく「グローバリゼーション」が、現代のもうひとつのキーワード。いろんな物事が「一気に」変わっていく背景にある。


▶平均寿命が急激に伸びている―ごめんね次世代。

ところで、人間の平均寿命って、何歳くらいだろう? と、私自身が調べながら書いているのだけど、WHOの最新レポート(2019年)によると、2016年の世界平均寿命は72.0歳。具体的には、日本や欧米など高所得国の平均寿命は80.8歳、アフリカなど低所得国は62.7歳なのだという(※日本経済新聞)。えげつないね。

そう、えげつない。『LIFE SHIFT』という本によると、いまの日本の20歳の半数以上は100歳以上まで生き、2007年生まれの場合は半数以上が107歳以上まで生きるだろうと言われている。(ただ、今後も日本が高所得国であり続けるかどうか、いまのままでは、私はちょっと疑問だけども)


ただそれは、「人間の歴史的な常識」ではない。江戸時代は、女のひとが20歳になったら年増、30代になったら大年増と言われていた。いまなら新垣結衣が大年増だ(※自分のことはさておき)。幕末には、坂本龍馬は31歳で死に、吉田松陰は29歳で死んでいる。そして第二次世界大戦中(1945年まで)の日本人の平均寿命は、約31歳だったといわれる。

日本で平均寿命が50歳を超えたのは1947年、終戦から2年後。そこから右肩上がりで寿命が伸び続けているというのが、世界的な傾向(※厚生労働省資料)。衛生状態がよくなり、健康状態がよくなり、新薬が開発されるので、当然なのだろう(※なお主要国でアメリカだけここ3年連続で短くなっています)。ひょっとしたら私たち、戦前ならとっくに死んでた中年も、この先100歳とかまで生きるかもしれない。ごめんね、次世代。


▶「速度」の話ーもしもあなたが1950年生まれのタクシー運転手だったら。

ここで産業革命の話に戻る。1800年に第1次産業革命、1900年に第2次、1995年に第3次、2011年に第4次が起こったのだった。とすると……

・もしもあなたが「1750年生まれの馬車の御者」で「寿命50歳」だったとしたら、第1次産業革命を知らずに(その年で)死んでいる。
・もしもあなたが「1800年生まれの馬車の御者」で「寿命50歳」だったとしたら、第2次産業革命を知らずに死んでいる。
・もしもあなたが「1850年生まれの馬車の御者」で「寿命50歳」だったとしても、第2次産業革命を知らずに(その年で)死んでいる。
・もしもあなたが「1900年生まれのタクシー運転手」で「寿命50歳」だったとしたら、第3次産業革命を知らずに死んでいる。

うん。誰もがだいたい、こどものときに見ていた社会のイメージのまま、仕事をして、死んでいっているのだ。


では、もしもあなたが「1950(昭和25年)生まれのタクシー運転手」、つまり今年70歳で、「寿命100歳」だったとしたら?

45歳のときに車が安く変えたと思っていた年は実は第3次産業革命だったらしく、そういえばwindows95が発売され翌年Yahoo! JAPANが始まり日本にインターネットが浸透しはじめたりしていた年でもあった。やがて、気づけば無線タクシーにカーナビがついていた。

58歳のときに日本でiPhoneが発売。なに大騒ぎしているんだろう関係ないねと思っていた翌年、実は海の向こうでUberというサービスがスタートしている。61歳で実は第4次産業革命を迎えていたという。そして70歳のいま、DiDiとかMovで配車案内が入り、決済はキャッシュレスになった。ちなみに孫からの呼び出しはLINEで、端末の位置情報でどこに行けばいいかすぐわかる。

このところ、Uber の登場によって客が減り、海の向こうの自動運転のニュースに「まあ自分の生きているうちは大丈夫だと思うけど」と感じたりしている……と思う(私はよくこれくらいの年代の方のタクシーに乗る)。



▶変化の時代、だからこそ「違和感」で軸を。

このように、個人の寿命が長くなる一方で、時代が変化する速度が増している。なので私たちは、ひとりの一生のあいだに、何度もの大きな社会の変化を体験しなければならない。社会とはつまり、「何をして生きていくか」ということだ。

これだけ大きく変化を続ける社会を的確に予測して準備しておくなんて、考えない方がいい。馬車の時代に、誰が自動車を想像しただろう? PCとガラケーの時代に、誰がスマートフォンを想像しただろう? 2019年末のクリスマス、あるいは遡って元号が変わるカウントダウンをしていた2019年のゴールデンウィークに、誰が、ほんの1年後にコロナウイルスでこのようになる日本や世界を想像していただろう??

人は死ぬ。時代は変わる。このふたつの事実は、ずっと変わらない。ただし現代そしてこれからは、その「速度」と「規模」がとてつもなく大きくなる。つまり、「あっという間に、ものすごく」変わるのだ。


そんなとき、どうやって「何をして生きていくか」を考えたらいいのだろうか。もしも「社会はどうなる?」と、自分の外側にあって自分がコントロールできないものを軸にしてしまうと、変化の大きさと速さにぶんぶん振り回されてしまう。それよりも、自分の内側にあって自分がコントロールできるもの、つまり「私はどう生きたい?」ということを軸にする方が良い。どうせ、未来なんて予測できないのだから。

この「私はどう生きたい?」を教えてくれるのが、「違和感」というセンサーだ。「連れションは嫌」というセンサーは、私の場合、「お金いっぱいもらえても心が病気になるのは嫌」、「死ぬリスクまで冒して外国に住み続けるのは嫌」、「組織のために個人の命を使うようなところは嫌」、「私が個人を搾取するような組織をつくるのは嫌」、そして「違和感をおさえて生きるのも嫌だし、ひとがそれを強いられるのを見過ごすのも嫌」というように、「自分はこう生きたい」を教えてくれた。


▶未来を予測する唯一の方法。

あ、ひとつ訂正。「どうせ、未来なんて予測できない」という文章には、誤りがある。未来を予測できるひとも、いたのだ。馬車の時代に、カール・ベンツとゴットリープ・ダイムラーは、自動車を思い描いていた。ヘンリー・フォードは、工場での大量生産で自動車社会を思い描いていた。ジョブズは携帯電話と音楽再生機とPCをひとつにしたスマートフォンを思い描いていた。

「つくる」ひとだけが、未来を確実に予測できる。たとえば今日の夕ご飯だってそうだ。つくるひとだけが、それを正確に予測できる。

急速に一気に変わり続ける社会のなかで、「自分はどうしたらいいんだろう?」と立ち尽くすのは、だいぶ不安だと思う。だから、どんな場所でも、まずは自分の未来を描けばいい。「自分はこう生きたい」とめいっぱいイメージしてみる。そして、その方向性を軸に、いまやることを考えてみたらいい。


あなたの未来は、誰の未来でもない。幸い、誰も答えなんて知らないVUCAの時代だ。どんな荒天でも、この先の景色はどうなるんだろう?とワクワクしながら、自分の道をしっかり歩めばいい。人生100年ある。あら、間違ったかなと思ったら、そこで方向を変えればいい。

そんなときに、姿の見えない”みんな”が「いまこっちへ行く流れだよ」とか「そっち行くなんて信じられない」と、絶えず話しかけてくるかもしれない。でもどの道を進むかを選ぶのは、自分しかない。そんな大切な選択のときに、きっと「違和感」というセンサーが、あなたを守ってくれる。私はそう、信じています。



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