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「だからこの人が好きなんだ」④前田敏康さん(株式会社前田畳製作所代表)

兵庫県の畳店の息子として生まれる。父の姿を見て、同志社大学卒業後、店を継がず大和銀行(現りそな銀行)入社。神戸市東灘区の寮で阪神・淡路大震災に遭遇し、避難所の状況を目の当たりにする。翌年、畳業界に入り畳の良さを広める活動を展開。東日本大震災発生後、災害時の畳店プロジェクト「5日で5000枚の約束。」を始める。

前田さんはいつも汗をかいている。単に汗かきなのかなと思っていたけど、そうじゃないと、ついこのあいだ知った。

<夏でも首元はタオル>


11年前の私が、人生賭けてやりたいことが見つかった! と、鼻息荒く始めた親子向け自由教育の教室・リベルタ学舎。もともと合気道の師・内田樹さんの道場に通って「こういう場所をつくりたい」と思ったから、畳は必須。ふんぱつして、素敵な畳を敷き詰めた。

<国産畳、18枚。>

1年後に夢破れて撤去するとき、でも、畳だけはどうしても処分できなかった。この畳さえあれば、いつかきっとリベルタ学舎を再開できる気がした。だから購入した畳店に事情を話して、「次に場ができるまで、なんとか預かっていただけないでしょうか」と相談をした。いま思えば迷惑な客だ。

すると畳屋さんから電話があって「ブログで、教室のお子さんたちが毎日、丁寧に雑巾がけをしてくださっていたのを見ていました。こんなに大切にしていただいた畳ですから、私たちも責任持って、なんとかさせていただきます」と伝えてくれた。本当に本当に嬉しかった。



退去当日、引き取りに現れたのが、まさかの社長さんだった。初めて会う前田さんは、汗だくで畳を丁寧にトラックに積み込んだ後、まっすぐにこちらを見て「状況、理解いたしました。いい加減なことを言ってはいけないと思いますが、きっと大丈夫だと思います。頑張ってください」と力強く言ってくれた。
さらになぜだかわからないけど、引っ越し蕎麦までごちそうしてくれた。「もう私にはなんにもなくなった」と思っていた、どん底の日。泣けた。

実はそのあと、固定費が払えなかったリベルタ学舎に、前田さんは3年間も畳のショールームを講座用スペースとして貸してくださった。

<だから「たたみ」の大きなのれんがあるのです。>
<赤ちゃんもいられる、やわらかであたたかな空間だった。>



おかげで2017年、リベルタ学舎は再び居場所をつくることができた。もちろん、畳にした。こんどは24枚になった!

<縁(ヘリ)のファーストバージョン。ちゃぶ台は大学生とDIY>
<2024年、セカンドバージョン。畳の裏返し時に、色で遊んでみた>



前田さんについて、話したいことはいっぱいある。たとえば東日本大震災をきっかけに、災害時にその地域の畳店が避難所へ無償で畳を届ける、それを全国の有志の畳店が支える「5日で5000枚の約束。」プロジェクトを立ち上げていま全国で500店以上が参加する仕組みをつくっていることとかも、けっこうな偉業だと思う。

だけどそんな「良いこと」を声高に言わず、「いや、偽善です。畳を使っていただきたい下心がある以上、偽善以外の何物でもありません」と言い、本当に恥ずかしそうにひっそりとやり続けていることこそが、前田さんの凄みだと思う。

前田さんの仕事に触れるたび(ってオフィスにいるといつも目に入るのだけど)、相手のことを徹底的に考え抜き、プロとして最高の仕事をして「当然」なのだという、仕事の根幹のところを思い出す。


「誠実に勝る強さはない」ということは、前田さんから学んだんだな、きっと。
前田さん、本当にありがとうございます。負けへんでー!!


前田畳製作所
http://www.maeda-tatami.com/

5日で5000枚の約束。
http://tataminoyakusoku.net/


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