高齢者対象の特殊詐欺対策の決定打

昨年の特殊詐欺被害額は約282億円、企業であれば東証プライム上場基準楽々クリアといったところでしょうか。しかし、この額は氷山の一角、実際はこの10倍以上の被害額だと思っています。なぜかと言えば私の経験上、孤独死などの現場で預金通帳を確認したところ、数千万円単位のお金が無くなっていたり、いわゆる詐欺口座に振り込まれていたりと本来あるはずの現金がなくなっているケースを多々見てきたからです。ご本人はすでに死亡しているため被害届を出すこともできず、結局は解明されないまま終わってしまいます。また、特殊詐欺を未然に防げたケースでも、「この金を振り込まないと息子が大変なことになる」と制服の警察官が説明しても聞き入れない方もありました、また、悲しいことに息子さんは既に他界しており仏壇の笑顔の写真が今も心に残っています。

また、特殊詐欺には分類されないのですが、悪質商法も大きな問題です。
地方を中心に最も多いのが「SF商法」または「催眠商法」と言われる悪質商法です。


これは、閉め切った会場に人を集めて日用品などをただ同然で配って雰囲気を盛り上げた後、冷静な判断ができなくなった来場者に高額な商品を契約させる手口です。会場内にはサクラも混ざっており、熱狂的に購入したりして場を盛り上げたりします。
 SF商法の販売員は、来場者に思いやりのある発言や親切な態度で接し、面白い話をして楽しませるなど、高齢者の心理を巧みに利用して信頼関係を作るため、周囲や本人が被害に気付いても解決は簡単ではありません。なかには被害に遭ったことにすら気づいていない高齢者もいます。

つぎに多いのが「点検商法」と言われるものです。手口としてはセールスマンが、「床下が湿気ています。」「地震が来たときに大変だ。」などと、不安感をあおり、不要な内容の工事を不当に高額な金額で契約させるやり方です。これらは「床下の点検に来ました」など、「点検」を口実にすることがあることから「点検商法」と呼ばれていますが、「水道管の高圧洗浄をします」とか「下水マスの掃除サービスをします」など、セールスの切っ掛けは必ずしも「点検」に限られません。したがって、「点検」を口にしないセールスマンが来たときにも注意が必要です。

さらに「送り付け商法」または「ネガティブ・オプション」と言われる、注文していない商品を、勝手に送り付け、その人が断らなければ買ったものとみなして、代金を一方的に請求する商法も存在します。ただし、この商法については昨年7月に特定商取引法が改正されて、契約に基づかない商品が送られてきた場合、その商品を直ちに処分して代金を支払う必要もなく、もし間違って支払っても返金するように要求することができるようになりました。
ただ、実際に商品が送られてきた場合には混乱してしまうことも多いと思います。もし自分で判断できないような時には、お近くの消費生活センターや警察に相談してみて下さい。

 また、悪質商法ではないのですが、訪問販売や電話勧誘販売などで商品等の購入契約をした後でも、これを解約することができるクーリング・オフという制度があります。
クーリング・オフには、期間の制限があり、契約書面を受け取った日から8日以内であれば、書面によって解約ができます。買ってから失敗したと思ったら、期間内に手続きをしましょう。
 ではなぜ、このような高齢者を狙った悪質商法が存在するのでしょうか。
その背景には、高齢者が健康への不安や経済的不安、日常的な寂しさ等があるといわれています。自治体や民間において高齢者に対して、これらの不安を少しでも和らげられるように頑張ってはいるのですが、完ぺきにとはなかなか行かず、悪質商法や特殊詐欺は跡を絶ちません。
 そこで、高齢者の財産を守る決定打として「成年後見人制度」があります。これは家庭裁判所の指定を受けて対象者の財産管理や身体監護を行うもので、いわば高齢者の個人マネージャーといったところです。


「成年後見人制度」は介護保険制度と同時の2000年に施行された制度で、まだ20年ほどしか歴史がありません。そのため制度の改正が度々行われており2015年には成年後見人の促進法が制定されて市民後見人の育成にも力が入れられるようになりました。
 では、後見人とは何をするのかを簡単に説明します。
 まず第一に後見を受けるご本人の財産管理があげられます。要するにご本人の財布を預かるといったイメージでしょうか。
後見人に指名されると預金通帳もご本人と後見人の連名で作成でき、後見人はご本人の財産を自由に出し入れできるようになります。もちろん後見人がご本人の財産を勝手に私的に使えば、通常の窃盗や横領よりも思い刑罰が科せられます。そのため後見人の選任には家庭裁判所が審査して弁護士や司法書士、社会福祉士等の専門職や一定の研修を受けた市民後見人、実は私も一定の研修を受けた市民後見人なんですが・・・ ご家族も後見人として指名される場合があります。
 次に後見人はご本人に代わり各種の契約を締結できます。そもそも後見人が付けられるのはご本人の認知能力が低下している場合で、一般の契約でも認知能力が低下していた場合は締結できませんので、例えば、ご本人が施設などに入居して住まなくなった家屋の処分や保険の契約等、ご本人に代わって契約することができます。また、ご本人が締結した契約についても取り消す権限があります。
 さらに後見人はご本人の身体監護を行います。これは後見人本人が直接的な介護等をするのではなく、ご本人に対して適切な施設や病院へ入居・入院させることができます。もちろん入居時の保証人にもなれますし、その後の転院などについても判断することができます。もちろんご本人の意向が大切なのは言うまでもありません。
 また、「成年後見人制度」には「補助」「保佐」といった権限を限定した制度もありますが、本日は割愛いたします。
 以上のように高齢者保護の観点から非常に優れた「成年後見制度」ではありますが、問題点もいくつかあります。

 そのひとつとして、後見人は他人の財産やご本人の身体監護をあずかる非常に重要な職務となります。そのため高度な知識と法を守る順法精神が要求されます。よって対応できる人材が限られており、家庭裁判所も後見人の指名に苦慮しているところもあるようです。

 さらにもう一つの問題として、これだけの責任をもって活動してもらうためには報酬付与が必要となってきます。もちろんこの制度で儲けようと考える人はいませんが、どうしても活動経費が必要であり、最低限でも報酬を支払わなければならないと言うことです。残念ながら「成年後見人制度」は法律に基づく制度なのですが、その維持には各々契約者が報酬を支払わなければなりません。そこで私は個人的な考えではありますが後見人に対する報酬は税金で賄われるべきではないかと考えています。今後の超高齢化社会に対応し、年間何億円にもなる特殊詐欺や悪質商法の排除のためにも「成年後見制度」は最大の予防策であることを理解していただき、完全な公的制度として確立していただきたいなと考えています。

 さいごに「成年後見制度」には申立人の申し出により家庭裁判所が審査して後見人を付与する「法定後見人制度」とご本人があらかじめ後見人を指名しておく「任意後見人制度」があり、更にお亡くなりになった後の財産処理等を委任する「死後事務委任契約」等の制度もありますので、お元気な今、これらの制度について調べられるのは、究極の終活と言えるかも知れません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?