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浅草芸人列伝 この芸人はスゴイ!〜ゆめ子&やすこ

【漫才協会所属。誰よりも舞台袖で他の芸人のネタを見てきた男が綴る意外な芸人のスゴイところ】

毎回漫才協会のメンバーを紹介している「浅草芸人列伝 この芸人はスゴイ!」。
本日ご紹介するのはこの二人。写真右「新山ひでや・やすこ」のやすこ師匠。そして写真左「東京太・ゆめ子」のゆめ子師匠。

お二人とも夫婦漫才の奥さんの方。そして二人とも元々は普通の主婦だったのに、結婚してから舞台デビュー。夫が漫才師だったために自分も同じく漫才師になっちゃったという、変わり種。特殊な経歴のお二人です。

まずは「ひでや・やすこ」のやすこ師匠。元々、夫であるひでや師匠は「ひでや・えつや」という漫才コンビを組んでおりました。

ところが相方のえつや師匠が病で倒れ、急遽ひでや師匠はピン芸人に。ところがこれが上手く行かない。ひとりで舞台に立っても反応がない。

笑いもねえ。仕事もねえ。お金も全然入らねえ、オラ、ピン芸人嫌だー。と、くすぶり出し、酒や女に溺れるひでや師匠。
そんな沈没寸前の夫に、救いの手を差し伸べたのが愛妻のやすこ師匠。
「じゃ、あたしがあんたの相方になる!」と素人からの芸人宣言。「ひでや・やすこ」誕生の瞬間です。

はじめて「ひでや・やすこ」師匠の舞台を見たとき「この奥さん、めちゃくちゃ声デカいなー。言葉もハッキリして聞きやすいなー。何者だろ?」と思い、後に普通の主婦から転身したって話を耳にしたので、直接本人に聞いてみました。

「なんでそんなに声出るんですか?昔何かやられてたんですか?」
返って来た答えは「そりゃ練習したのよー、必死でー。もう最初なんか全然声出なくて、何言ってんだか分ーかんねーって怒られたのよー。ほんとウチの人、他人には優しいけど、身内にはキツイのよー」と、聞いていない家庭の内情まで教えてくれました。

「初めのうちなんか舞台に立つのが恥ずかしくて恥ずかしくて『なるべくお客さんが来ませんように!できれば誰も来ませんように!』って祈ってたわよー」

そんな過去などみじんも感じさせぬ貫禄。どん底のひでや師匠を救った愛妻やすこ。ドラマのような話です。

一方のゆめ子師匠。こちらも同じく漫才コンビ「東京二・京太」を解散し、ピン芸人となった夫の京太師匠。
ところがピン芸人として溺れかけたひでや師匠とは異なり、順風満帆スイスイ泳ぎ始めた京太師匠。
「解散してからの方が仕事増えたっぺよ」「むしろ漫才の時より自由にやれて調子よかったっぺ」京太師匠自ら語る通り、誰に聞いても「京太さんの漫談は凄かった」と口にします。溺れるどころか誰よりも自由自在にスイスイ泳ぐスイマー。

そんな個人自由形スイマーとして活躍していた京太師匠。ならば何故、夫婦漫才を始めたのか?奥さんであるゆめ子師匠の口から真相が語られます。

「あたしさーなんだか京太が舞台立ってるの見たら、自分もやりたくなっちゃって『あたしにもやらせてー』って言ったのよ」

さすがは夢みるゆめ子ちゃん。やりたくなったからやる。人間の本能全開です。

そして舞台でもやりたい放題。京太師匠以上に自由形。普通の芸人なら絶対やっちゃいけない事ばかりをやります。

「ちょっと京太、あの面白いハナシして!」
いきなりハードルを上げる、ゆめ子師匠。
「この後、オチですからねー。ちゃんと聞いててね」
お客さんにオチをバラす、ゆめ子ちゃん。
「あら何でウケなかったのかしら?何か間違えた?」
お客さんに聞いちゃう、ゆめ公。
「ハイ、面白くない。じゃ次」
相方を見捨てる、ゆめの字。

そのすべてに対し、瞬時に切り返して笑いに変える京太師匠。
相方であり愛妻のゆめ子師匠以外全員が、京太師匠の実力に驚愕しています。唯一それを知らないゆめ子師匠。でもそんなゆめ子師匠が可愛くてしかたがない京太師匠。そんな二人のやりとりは会場を優しい空気に変えます。

愛する妻の夢を叶え、得意なピン芸を封印し、ギリギリのところで漫才を成立させる京太師匠は…スゴイ!

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