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座敷わらしと一緒にトイレに並んだ話

僕は小さい頃、座敷わらしとトイレに並んで用を足していた。
そして、トイレから出ると、そこには子どもたちの行列ができていた。
これが当時は普通であり、まったく不思議に思わなかった。

僕は夏休みに、親戚の家に預けられていて秩父の田舎で過ごすことが多かった。親戚の家は農家で、昼間は外で遊び、夕方になったら食事をして、そのあと宿題を片付けたらすぐ寝た。

眠りにつき、ふと目が覚める事がある。
だいたい、誰かに布団をたたかれる。そして、目が覚めると猛烈にトイレにいきたくなっていた。おねしょの寸前である。

誰かに起こしてもらったら、トイレに駆け込む。
その時トイレの前に、子どもがたくさん並んでいるのだが、どういうわけか、すり抜け可能である。悪いなと思いながらも、漏れてしまってはマズイのでそのまま先頭に割り込んでいた。

周りには、僕と同じくらいの背丈の子どもたちがいたのだが、とくに僕を気にする様子はなく、そのまま順番に並んで用を足している。
特に話したりとかもなく、静かに並んでいるだけ。急に目が覚める時は、いつもこのような光景を見ていた。

ある日、母屋の家で薪のお風呂に入っている時に、親戚のおばあちゃんに、この家には、子どもがいっぱいいるんだね!と聞いた事がある。
そうした所、おばあちゃんは、

「それは、座敷わらしけ。オレは見えなくなったけんども、あんたには見えるんだねぇ」

座敷わらし。
僕はその時初めて、その言葉を聞いた。昔は、おばあちゃんも見て、遊んだことがあるけど、ある日を境に見えなくなったと言っていた。

「何も悪い事をしないから、そのままほっておけばいいさ」

そう言われたので、そんな物かと思い、当時の僕は気にもしなかった。

そして、その日の夜も、おねしょ寸前に起こされて、トイレに並んでいた子どもたちを無視して用をたさせてもらった。もし、この子達が僕を起こしてくれなかったら毎日おねしょを親戚の家でして、立派な世界地図を描いていただろう。

それから、しばらくして、僕が小学2年生の夏休みだろうか。天気のいい日に、親戚の家で飼っていた犬のタロウと遊んでいた。その際に、タロウが突然静かになり、しっぽを振りだした。
不思議に思い、タロウの目線を追うと、茂みを見つめていた。

僕もその茂みをじっと、見つめる。
すると、そこから、ヘビがたくさんでてきて、すごい勢いで僕のそばを横切った。その中で覚えているのが、真ん中に真っ白なヘビがいて、一瞬ちらっとこちらを見たような気がした。

僕はビックリして、そのまま立ちすくんだ。
犬のタロウは、そのまま尻尾を振り続けている。白ヘビの御一行は、そのまま向かいの裏山に消えていき、夏場の乾いた地面の匂いだけが残った。

その夜から、布団は叩かれて目が覚めるのだが、子どもたちの姿が見えなくなった。そして、足音だけが聞こえる。不思議だなと思いながらも、いつものように用を足し、布団に戻った。

それからしばらくすると、誰も僕の布団を叩く事は無くなり、僕も寝る間には必ずトイレに行くようになったので、おねしょの心配もなくなった。

あれ以来、ずいぶん経ったが、子どもたちをトイレで見た事がない。
おばあちゃんも亡くなってしまったので、話の続きを聞くことが出来ないが、怖いと思った事は一度もない。むしろ、座敷わらしのみんなと一緒にトイレで用を済ませた後は、とにかく、ぐっすりと眠れて次の日が健やかに目が覚めるのだった。

あの目覚めの良さは、今どんなに眠りが深くても味わった事がないかもしれない。田舎で思いっきり外で遊んで、その後に大きな部屋で、みんなに見守れて安心しきっていたからだろうか。

いつかまた、座敷わらしさんたちと遊べる時があったら、ちゃんとお礼を言いたい。

「おかげさまで、おねしょはなくなりました。ありがとうございます」

(おしまい)

この作品は、ムーPLUS × noteコラボコンテスト『#私の不思議体験』にて推薦作品に選ばれました。雑誌『ムー』(2020年7月号)にも名前と記事タイトルが掲載されました。皆様、本当にありがとうございました。


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