杉山久子の俳句を読む 23年06月号②
珈琲におぼるゝ蟻の光かな(句集『泉』所収)
蟻はさまざまな俳句で溺れてきた。まず、これまで詠まれてきた溺れっぷりをいくつか見ていきたい。
ほとけの水に溺るゝ蟻を出してやりぬ 林原耒井
おそらく墓石の手前にある窪みの水受けに溜まった水だろう。他の水ならば救わなかったのかもしれないが、正に仏心か。
閼伽桶に溺るゝ蟻を吾れ見たり 森田峠
「閼伽桶」は仏に供える水の器である。殺生を禁じる仏教の観念から見ると、仏のために蟻が溺れているような矛盾を錯覚する。
打水や溺るる蟻