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杉山久子の俳句を読む

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俳人の杉山久子さんの俳句を不定期に一句ずつ鑑賞します。 【プロフィール】 山口市在住。「藍生」「いつき組」所属。山口新聞俳壇 選者。俳句甲子園地区予選審査員。 1997年 第三…
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#季語

杉山久子の俳句を読む 23年06月号②

珈琲におぼるゝ蟻の光かな(句集『泉』所収)  蟻はさまざまな俳句で溺れてきた。まず、これまで詠まれてきた溺れっぷりをいくつか見ていきたい。 ほとけの水に溺るゝ蟻を出してやりぬ 林原耒井  おそらく墓石の手前にある窪みの水受けに溜まった水だろう。他の水ならば救わなかったのかもしれないが、正に仏心か。 閼伽桶に溺るゝ蟻を吾れ見たり 森田峠  「閼伽桶」は仏に供える水の器である。殺生を禁じる仏教の観念から見ると、仏のために蟻が溺れているような矛盾を錯覚する。 打水や溺るる蟻

杉山久子の俳句を読む 23年02月号①

氷海に果てあり髪をたばねけり(句集『春の柩』所収)  歳時記に掲載されている季語は日本の風土に根ざしたものであるが、例外がいくつかある。「氷海」もその一つ。厳冬期の北海道の気温でも、波の立つ海が凍りつくことはない。氷海は、氷山や氷塊が浮かんでいる海も意味するようだが、掲句では見渡す限り一面純白に凍りついた氷海であろう。とはいえ、作者が砕氷船に乗って北極海まで辿り着いたわけではあるまい。  台風や津波、煮え滾り爆発するマグマのような動的なものだけが、地球のエネルギーではない。