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19℃一金木犀になりたい

微かな、でも芳醇な、そんな香りが私のところへ届いた。
今年も彼の季節がやってきたようだ。

彼とはもう、長い付き合いになる。
いつから彼のことを知っていたかは定かではないが、物心ついた頃にはすでに、私は彼の虜だったような気もする。

彼に憧れた中学生の私は、彼について何度も調べた。
彼の内面に迫りたかった。
そして得た結論、それが「私は彼のようになりたい」ということだった。

そんな彼だが、実はとても忙しいらしく、一年でたった1週間程度しか出会うことができない。
こんなに彼を愛しているのに、去っていってしまう。鮮烈な印象だけを残して。
とても名残惜しい。私のことを魅了するだけしておいて、すぐ雲隠れするというのか。許さんぞ。
なんて、思うこともあるけれど、正直なところ数ヶ月もすれば彼のことはまたすっかり忘れてしまう。不思議なものだ。

そして、月日は巡って一年後。9月末か、10月頭か、不意にぶわっと吹いた秋風に乗って、彼は再びやってくる。
そして、こう言う。
「私のようになれたかな?」と。



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