学費が特別受益になるか否か、及び寄与分の有無・その額について判断した事例

  1. 取り上げた裁判例
    大阪高決H19.12.6家月60巻9号89頁

  2. 事案の概要等
    (1)事案の概要

     被相続人は、平成14年○月〇日に死亡。
     相続人は、被相続人の長女D、次女H、四女A、長男C、五女Bの5人で、法定相続分は、各5分の1。
     Aは、平成14年○月○日、被相続人の遺産分割を求める調停を申立てが、平成16年○月〇日に調停不成立となり、原審判手続に移行した。
     Cは、平成16年×月×日、寄与分を定める処分に係る審判申立てをした。
     Hは、平成16年×月×日に死亡し、その夫であるE、その長女であるFが各2分の1の割合でその相続分を承継した。
     D、E及びFは、平成16年×月×日、その相続分をCに譲渡して原審の手続から脱退した。
     その結果、各自の相続分は、Cが5分の3、A及びBが各5分の1となった。
     Aは、原審判を不服として、即時抗告。

    (2)A(原審申立人)の抗告理由の要旨
     ①CとAとの教育出費には歴然たる差があり、Cが中学校・私立大学を通じて受けた学費・生活費の援助は、特別受益とすべきである
     ②Cの寄与分を30%としたのは過大である

    (3)①学費が特別受益に含まれるか否かについて
     被相続人の子供らが、大学や師範学校等、当時としては高等教育と評価できる教育を受けていく中で、子供の個人差その他の事情により、公立・私立等が分かれ、その費用に差が生じることがあるとしても、通常、親の子に対する扶養の一内容として支出されるもので、遺産の先渡しとしての趣旨を含まないものと認識するのが一般である。
     仮に、特別受益と評価しうるとしても、特段の事情のない限り、被相続人の持戻し免除の意思が推定されるものというべきである。

    (4)②寄与分の有無及びその額について
     被相続人は平成10年頃からは認知症の症状が重くなって排泄等の介助を受けるようになり、平成11年には要介護2、平成13年は要介護3の認定を受けたもので、その死亡まで自宅で被相続人を介護したCの負担は軽視できないものである。
     また、Cの不動産関係の支出は、本件の遺産の形成や維持のために相応の貢献をしたものと評価できるけれども、本件建物の補修費関係の出費は、そこに居住するC自身も相応の利益を受けている上に、遺産に属する本件建物の評価額(44万6788円(本件建物の評価額合計)。原審判の「理由7」部分の記載を引用。)を考慮すると、その寄与を支出額に即して評価するのは、必ずしも適切でない。
     さらに、農業における寄与についても、Cが相続人間では最も農地の維持管理に貢献してきたことは否定できないが、公務員として稼働していたことと並行しての農業従事であったことをも考慮すると、専業として貢献した場合と同視することのできる寄与とまでは評価できない。
     また、Cは、もともと、親族として被相続人と相互扶助義務を負っており、被相続人と長年同居してきたことにより、相応の利益を受けてきた側面もある。

  3. 結論
    したがって、
    ①の抗告理由は、認められないと判断。
    ②の抗告理由は、Cの寄与分が遺産の15%であるという限度で認められると判断。

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