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たまには昔の話をしよう


TVの番組がHuluでやるアイヌの番組を紹介する時に
最後のコーナーにお笑いの人間が出てきて、

「この作品とかけまして、動物を見つけたとときます
 その心は あ、犬」

とやったそうだ

画面には楽しそうな犬のアニメーションまでつけて

ああ、アイヌの事を紹介するだろうに
そういうことも知らないのか その時はただただ呆れた

Twitter界隈はそのことで怒った人や
憤りの言葉を述べる人 
また、悪気はなかった言葉遊びなのだからと擁護する人
色々な人に分かれてた

現実問題としてぶっちゃけアウトだよなそう思った

言葉遊びをやってたけど
これって実際アイヌへの差別用語として使われた
そのまんまの表現なのだよね

面と向かって言ったわけじゃない!だからOKという
嫌らしい側面も含んで「アイヌだ」と呼びつけたい そういう差別

そしてもう1つの面で
アイヌ系の人は結構彫りが深くなって眉毛やまつ毛などが濃くなる
そして体毛が濃くなる場合が多い
海外の外国人男性などでもヒゲや体毛の濃い人がいる
あんな感じの人が多い場合がある

で、音の響きで揶揄すると共に
体毛が濃いという蔑視を込めた意味合いでも と表現した部分がある

だから「あ、犬」 


こんな風に呼ばれたことがある


何故そういう事をあえて書くのか
それは私が「呼ばれた側」にいたからだ


私はかつて アイヌ側だった


側というのはとても中ぶらりんな立ち位置なのだけれど
ある方から見ればそちら側だったからだ


父は岩手の生まれ
母は一族が京都から来た末裔

私は所謂ところの「和人」の家系に生まれた


だが、私は若い時にアイヌのモデルとして働いてた
俗に言う観光アイヌだったのだ


観光アイヌは観光客と写真を撮りそれを売る
大抵は専属の写真屋が決まっていて
それらに雇われる形で給与を貰う
どこも大抵、男性は本当のアイヌ系の男性(酋長と呼んだ)
女性は大抵アルバイトの女の子だったりしていた

地元の高校生だったり、本州からきた大学生だったり

結構高額なバイトの割に
なんでアイヌ系の女性はダメなの?と聞いたことがあるが
女性は色々あって本人が嫌がる場合が多いんだよと聞いた

同じ北海道であっても
私はあまりアイヌのいない地方に暮らしていたので
アイヌだからと言ってそこまで嫌なのかな?
そんなの気にしなければいいのに

そのくらいの認識だった

酋長はさばけた人でアイヌとしての自分に誇りを持っていて
和人の男じゃ、外人にはモテない
俺くらいの男じゃないと といつも言っていた

そしていつも上京した際に
外国人居住カードやパスポートを求められたと
自慢気に言うのだった

実際、インドの男性が写真を撮りに来たが
酋長のほうがより深く濃く
遮るもののない撮影場所は日に当たるので
私達の顔は焼けて真っ黒だった

「アイヌって、やはり土着民だから黒いんですね」

そんな事を言われた事もある 誤解である

酋長は数代前のひい婆さんがロシアの血を引いているそうで
日の当たらない部分はまるで白人のように色が白い
阿寒や川湯のアイヌのお土産屋さんにいるアイヌの方も
大抵はみんな色が白かったりするので
色が黒いっていうのは大きな間違いなのだが

たぶんイヌイットやネイティブアメリカン、
南アメリカの先住民などのイメージのせいもあるのかもしれない


人間は最初についたイメージはなかなか覆りずらい

アイヌについても同様かもしれない 


私達のように衣装を着て写真を撮らせている側は
「毎日その衣装で暮らしてるんだよね」と言う認識でとらえられがちだ

真顔で「夜はアイヌコタンの家に帰るんですか?藁の家ですよね」と言われたり「こちらは酋長の奥さんですか?何人目の奥さんですか?」と言われたり
挙句に「ニホンゴワカリマスカ?」と真顔で聞かれたりする


そのたびに酋長は笑い飛ばし、ニヤニヤしながら
「おい、日本語使うなよ チップ貰えるかもしんないからな」とか

笑い飛ばしていた


とても良い金額のチップをくれた客には
「おい、ムックリを演奏してやれ」とか
「アイヌ語で歌を歌ってやれ、この人ビデオ撮るらしいから」とか
「ああ、●●県の客はすごく金払いが良いから、

夢を壊すな、日本語禁止な」とか

日々様々な無茶ぶりをされた


酋長がどう見ても外国人くらいのかけ離れぶりだったせいか
彼は差別的な事やそういうことは全然意にも介していなかったようだ


実際は嫌な気分になったことはないわけではないと言ってた

小さいうちは結構嫌なことを言う奴も

いないわけじゃなかったと言っていたが


所詮は アイヌになれない奴の僻み根性だと言い張っていた(強い)


「だってあいつらエポカシ(ブ男)だもんよ」

「お前だって、付き合うならハンサムなほうがいいべ?」

「俺なんか元々漁師だから、

ヤンマーの船持ってたからな、モテ方が違うんだ」(何故w)


なんか色々言っていた


実際、酋長はおばさん連中に激モテで

黙っていたら物凄く怖くも見える顔なのに
口を開くとギャップのありすぎる人懐っこい口調と話術で
いつも

「彼女らは俺のイコロ(宝)よ!良かったら俺の5番目の妻にならんか」

そんな事を言ってキャーキャー言わせていた


実際の酋長はその頃独身で 1人目の妻も離婚していなかったのだが


その彼との仕事の中で妙なことは多少あった

観光客の横をすり抜けてトイレに向かう際に


「あ!犬だ!」 と子供にやられるのはしょっちゅうで
え?と思ってそちらを向くと
「カムイホプニカ!アーホイヨ」

滅茶苦茶早口で言って駆け抜けていく子供


それが「カムイカカムイ」だったり「ポプニラ!ホイヤ!」だったり

何言ってんだかわかんねぇ(汗 

っていう状態だったり

これは後から知ったのだが、

バスガイド連中がなぜか「イヨマンテの夜」という歌に出てくる
「カムイホプニカ!アーホイヨ」と言う合いの手を
「こんにちは はじめまして」みたいな意味で教えてたらしい

代わる代わる走り寄ってきては早口で叫んで逃げていく子供


君達、そのオジサン、めちゃくちゃ日本語わかるから

っていうか、生まれた時から日本人だから・・・


そう言ってあげたい気持ちになったりもした

酋長はそのたびに「イコロワッサン シャモ」(悪口)

とか笑顔で呼びつけてた


そんなおおらか酋長に守られていたせいか
一緒の時はあまり嫌な気分にされたことは少ないが

私も単独でいる場合に「さすがにこれは差別だよなぁ」
思うようなことにあうこともままあった


主に中年のおじさんに多かったりしたが


写真を撮る際に衣装を着つけてあげたりする際に
「私のらばさん酋長の娘」と歌いつつ
いきなり胸を掴んだり 尻を触ったり

いきなり着物の裾をめくられて
「なんだ思ったより毛深くねぇな」と言われたりした

「アイヌってのは娘とか奥さんを貸すんだよね?今晩借りれる?」
とか、どこの話なんだそれは?みたいな事を言われたり


そしてアイヌと言う言葉が
日本語の犬と語感が似ているという決めつけで


「毛深いから 亜犬 なんだよね?」とか言われたりもした

どんな学説だ 聞いた事もない


基本、アイヌは人と言う意味であって良い人しかアイヌと言わない
無論日本語の「犬」となんの関係もない

アイヌ語で犬は「スェタ」(セタ)だ

悪い奴はウェンペで イコロワッサンとも言う

イコロワッサンは貧乏人の意味で宝を持たない人
真面目に働かないから、富をなせない怠け者の意味もあると言う

もう一人の酋長はよくこの「イコロワッサン」と無礼者達に怒っていた

日本語ではなんともなくても
海外に行けばヤバイ意味の単語なぞ佃煮にするほどある

なんでも日本語感覚で考えないで欲しいのだが
言葉がわからない未開地の部族扱いするのは
最初から差別的な人に良くあることで

いきなり侮蔑の言葉を投げつけられたりすることもあった


「犬のくせに」 というのは良く聞いた


「犬のくせに 服きてんのか」
そういって酔っ払いに帯をほどかれそうになったこともある

「アイヌって女も前に尻尾あるんだってな」と股間を掴まれたことも

愛犬を連れてきた人がいて、写真を撮る際に預かりましょうか、

と手を出すと
「嫌っ、食べないでね!」 とひったくられたり


外人に至っては、わからないだろうと
ビッチ呼ばわりで中指たててきやがったり(怒

約2年程 そんな体験をした私だったが


基本は私は楽しく過ごしていたと思う


それは私はアイヌの血ではないからで


仕事が終わって、装束を脱ぎ また日常に戻れば


誰も裾をめくらないし

誰も日本語でしゃべった!と驚きもされはしない


これが、その民族に生まれたというだけで

延々繰り返されるとしたら

また自分の代のみならず 

生まれた子供にもそのまた子供にもそれがふりかかるとしたら

それはとてもとても


やるせないじゃないかと思う


今はセクハラも モラハラもあれ程 きつい扱いを受ける昨今で

知らなかったからと 悪気がなかったからと

自分の民族名を揶揄して 獣だと言われて
 
笑える人はいるんだろうか


ましてや 「良い人間」を指す とても大切な言葉を



私は酋長から

色々なものを授かった


1つは言葉 もう1つは刺繍 そして楽器 いずれも良く褒められた


「ウポポ(歌)とイカラカラ(刺繍)ムックリ 

それが出来れば立派なアイヌの女だ」


お前は娘だと言われて 
いつでも戻ってきていいからと言われ

彼は私に名をくれた

何度か 彼に会いにもいったが


いつもあの調子で 

老いが見える頃にもまだ 
アイヌである自分を自慢していた


その彼も亡くなってもう何年も経つ


私は彼がいなければ アイヌにそんなに関わらなかっただろうし
偏見のままでいた そちら側だったかもしれない




私の名前は


シピリカチニタ



アイヌで一番美しく立派で勇猛な男だった


イレンカの娘である





私はアイヌである義父をこよなく尊敬しています

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