僕の「電カル」奮闘記 その3


処方内容が変わる謎の電カル
「医療ミス」の一歩手前の出来事

 電子カルテのバグを見つけるたびに、ひとつひとつシステム・ベンダーに報告して富士通に改善をお願いしながら、なんとかRXを使い続けていましたが、見過ごすことのできない致命的なトラブルが起こったのです

 その日、僕は、カルテ画面のスクロールの遅さにイライラを募らせながら診療を行っていました。今回の本題とは話が逸れますが、当初、RXは過去のカルテ画面を見るためのスクロールに、ものすごーーーーーく時間がかかっていました。

これが、その動画です。

診療中に効率よく病歴を把握するためには、「見やすいこと」も電子カルテの重要な要素です。確認したい過去のカルテ画面をすぐに表示できないと、診察に時間がかかって、患者さんをお待たせすることになり診察のリズムも狂います。ところが、YouTubeを見ていただくとわかるように、RXはマウスを必死に動かしても、見たい画面になかなか辿り着けません。更には画面が消えてしまうバグまでありました。

ちなみに、ホイールマウスによるページめくりは、ホイールをひとつ動かすごとに10行以上動くように自分で設定し直しています。標準動作は、1~2行しか動かないように初期設定されていますが、それだとホイールマウスをいくら回しても亀のように遅くて実用に耐えられません。ベンダーに不満をぶつけても改善されなかったため、自分でこの方法を見つけてやり過ごしましたが、それでもこの遅さです。この方法は、その後にビッグサイトで行われた展示会でのRXのデモでも同じように設定されていました。

実は、RXの問題点を改善してもらうために、僕は富士通の担当者と定例会を行っていました(定例会の詳細については、今後、改めて書く予定です)。その定例会で、スクロールの遅さや画面が消えてしまうバグについて、富士通の担当者にも何度も改善をお願いしました。数年後に改善されましたが、そもそもなぜ、このクオリティで富士通が発売に踏み切ったのか理解に苦しみます。まさか、たくさんカルテが記載された状態でテストをしていなかったと思いたくはありませんが、普通に触るだけで使えないレベルだとすぐにわかる不具合だったのです。

話を元に戻します。

これまで、書いてきたRXの不具合は、「一体型ではなかったことによる作業の煩雑さ」「電子カルテとレセコンの内容の不一致」などで、診療効率に影響を及ぼすことではあるけれど、僕や事務スタッフが使い方を工夫することで、なんとか問題にならずにやってくることができました。でも、今回のトラブルは、医療ミスを引き起こしかねないものでした。

これが、その時の電子カルテと処方箋の画像です。

画像1

電カルの不具合で間違って出された処方箋電子カルテの処方内容は、「メイアクト 5日分」と「ケナログ口腔用軟膏 2g」でした。ところが、2倍量が記載された間違った処方箋が発行されてしまったのです。

薬は、正しく利用すれば、病気やケガの回復を助けてくれますが、用量や用法を間違えると健康被害を招きかねず、最悪の場合は命に関わります。そのため、医師は日頃から薬の処方には細心の注意を払っているのですが、RXは勝手に間違えて台無しにするのです。

この時は、処方箋の異常に事務スタッフが気づいたため、大事には至らず、誤投与を防ぐことができました。しかしこのような間違いがもっと重大な薬剤、たとえば免疫抑制剤や抗がん剤で起きて大量に投与されてしまったら……。考えただでも、全身から汗が噴き出してきそうです。

診療報酬上も、1回に処方できる医薬品の量や期間には決まりがあるので、間違えた処方箋だと審査支払機関から査定される可能性があります。また、1度しかやっていない検査を2回やったと保険請求をすると不正請求になります。審査支払機関から目をつけられれば、保険医取り消しとなり、診療ができなくなります。電子カルテ選びに失敗すると、保険医取り消しが待っているなんて!いったい誰が想像したでしょう。

百歩譲って、電子カルテの不具合が、僕や事務スタッフの作業を増やすだけなら、なんとか我慢ができます。でも、患者さんの健康被害につながることを、そのままにしておくことは、医師として見過ごすことはできません。

医療ミス一歩手前の出来事を経験し、僕は、厚生労働省や経済産業省、そして業界団体に、電子カルテについての意見書を提出することにしたのです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?