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フリーランスが受けているハラスメントの実態と防止対策の現状

本記事は、「産業保健法学会誌」第3巻第1号に掲載予定の原稿をメンバー向けに先行公開するものです。

要約

一般的にハラスメントは、社会や組織の中で弱い立場に置かれた人々が被害を受けやすいことが明らかになっている。フリーランスもまた、その契約上の不安定な立場から弱い立場に置かれやすい状況にある可能性がある。そこで本稿では、フリーランスを対象に近年行われた調査結果を紹介し、フリーランスを対象としたハラスメント対策の現状と展望について考察する。

本文

1.はじめに

一般的にハラスメントは、社会や組織の中で弱い立場に置かれた人々が被害を受けやすいことが明らかになっている。例えば、日本の労働者代表サンプルを用いた調査からは、派遣社員や学歴が低い者、主観的社会階層が低い者がハラスメントに遭いやすいことが報告されている[1]。

この観点から考えると、フリーランスの立場で働く者もまた、その契約上の不安定な立場から弱い立場に置かれやすい状況にあることが推測されるが、果たしてどのくらいの人がハラスメントに遭っているのだろうか。本稿では、フリーランスを対象に近年行われた調査結果を紹介し、フリーランスを対象としたハラスメント対策の現状と展望について考察する。

2.フリーランス協会のハラスメント実態調査(2019年)

2019年7月16日~8月26日にかけて、日本国内で働いた経験のあるフリーランスを対象にしたハラスメントの実態調査が行われた[2]。なお本調査におけるフリーランスには、個人事業主、法人経営者、委託就労者、すきまワーカー、副業従事者を含む。また個人事業主には、事務所所属の個人事業主を含む。

調査はインターネットで行われ、有効回答数は1,218名であった。回答者の68.7%が女性、29.7%が男性であり、最も多い職種は「俳優・女優」(20.9%)、次に「編集者、ライター、ジャーナリスト、翻訳者、通訳、校正者」(14.8%)、「声優」(10.7%)、「アートディレクター、デザイナー、イラストレーター」(8.0%)、「演奏者、音楽家、音楽講師」(7.3%)、「映像製作技術者・スタッフ」(6.2%)、「脚本家、作家」(3.9%)、「プロデューサー、ディレクター」(3.9%)、「ビジネス系プロフェッショナル」(2.8%)、「ITエンジニア」(2.8%)等であった。

ハラスメントの被害についての結果を見ると、「パワーハラスメント(パワハラ)を受けたことがある」と回答した人は61.6%「セクシュアルハラスメント(セクハラ)を受けたことがある」と回答した人は36.6%と、多くの回答者が何らかのハラスメントを経験していた。

ハラスメントの被害実態は、期間をいつからいつまでに設定するか(生涯での経験か、過去1年間での経験か等)で大幅に数値が変化することが知られているが、少なくともこれらの数値は、厚生労働省のハラスメント実態調査で過去3年間にパワハラやセクハラを受けた労働者の割合(それぞれ31.4%、10.2%)よりも大幅に多い[3]。

体験したり見聞きしたりしたことのあるハラスメントの内容を見ると、最も多くの回答者が経験していたのは「精神的な攻撃(脅迫/名誉棄損/侮辱/酷い暴言等)」(59.4%)であった(図1)。「過大な要求(不要/遂行不可能なことの強制)」「経済的な嫌がらせ」についても、4割が経験していた。また、「性的関係を求められた・迫られた」も2割弱が経験しており、「レイプされた(同意のないセックスをさせられた)」「性器/自慰行為を見せられた」等の深刻な性被害も3~4%が経験していた。

行為者に関しては、最も多かったのは「監督、演出家、スタッフ」(37.1%)、次に「所属先の上司・先輩・マネージャー」(36.1%)、「発注者・取引先・クライアントの従業員」(35.8%)、「発注者・取引先・クライアントの経営者」(34.5%)、「所属先の経営者」(23.1%)、「プロデューサー」(19.2%)、「所属先の同僚・後輩」(9.6%)、「取材対象者、監修者、著者など」(8.2%)、「スポンサー」(4.2%)、「その他」6.7%)であった。

このように、本調査からは、フリーランスの多くがハラスメント被害に遭っていること、中には深刻な被害が含まれていること、そしてフリーランスに対して指示や指導する立場にある、つまり優越性を持つ者からハラスメントが行われていることがわかっている。

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