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エピソード4(日進月歩 輝&輝の15年)

よく「津軽三味線奏者ってどうなったらプロなの?」という質問を投げかけられます。大学生の我々にとって「プロとはなんぞや」という問いにすぐ答えることはできませんでした。「えっと、、、自分でプロだと言ったら、もうそれはプロですね、、」というような曖昧なことしか言えないでおりました。

津軽三味線の業界では「何か資格を取ったらプロ」とか「大会で優勝したらプロ」とかそう言った決まりはありません。今でも、社会人の大会入賞者はたくさんいますし、この人にはかなわないなあと思わせる技術を持っている人はたくさんいます。と、なるとプロ奏者とはいったい。。。

今回は、私たちがプロになる決断をした時のお話です。

卒業したらどうするの!?

私たちが「二人で輝&輝でプロになろう」と決意した日がありました。それはある日ぴーちゃんから発せられたこんな会話から始まりました。

「この先どうする?就活とか。」

ここで、私とぴーちゃんの中で津軽三味線を演奏する未来像がちょっと違ったんだということにお互い気づきました。

そもそも私は14歳の時にプロになるために津軽三味線を始め、それ以外の選択肢がなかったので、この時自分よりも実力もあり経歴が長いぴーちゃんが就活をすることを頭に入れていたということに驚きドギマギしてしまいました。でも、確かにそれは夢でしかなく、現実的な行動を全く考えていなかったことは事実でした。

話を聞くと、ぴーちゃんは小さい頃から自分は働きながら三味線のお稽古に通い、休みの日に演奏活動するもんだと思っていたと言うのです。また、通っている大学の友人たちが今までチャラチャラしていたのに大学3年になった途端に髪を黒に染めて、何社も履歴書を出し面接に通いつめてもなかなか就職が決まらず、本当に大変そう、しかもその中の1人に「ひかりは三味線っていう逃げ道があっていいよね」と言われて、非常に悔しく、自分の進路を悩んでいる、と。

私は、気づいていなかった。この就職氷河期と言われる時代に「プロになれそうにないから就職でもしとくか」と言う甘い考えは大学を卒業した後では通用しないことを。一気に現実を突きつけられました。

プロになりたいとは思ってましたが、そうなれる保証は今のところどこにもなく、もし食いっぱぐれた時に就活を始めているようでは、到底生きて行けそうにはありませんでした。

そんなことを考えていると、本当にプロになれるのだろうか…と不安でいっぱいになりました。周りの同世代奏者を見ると、輝かしい人たちばかりですでに各地でコンサート活動をしていたり、民謡酒場で毎日ステージに立ってたりして、自分はこの先篩にかけられた時に振り落とされずにいられるだろうか、、、と。

2人で話す中で、私達だけにできることってなんだろう、津軽三味線2人って何ができるんだろうとカフェで頭をかかえましたが、全く答えは出ませんでした。

でも、その時に「プロでやるなら輝&輝でやりたい」と言ってくれたぴーちゃんの言葉がとても嬉しく心強くて、2人でプロになろうという決心をしたのでした。こういう時、本当に2人でよかったなと思います。この時、ちゃんとプロとは何かということを意識していなかったら、私は大学卒業後路頭に迷って東京の大都会で野宿、なんてこともあったかもしれません。

これを書いていて当時「東京に住み続けて家賃が払えなくなったら三味線を辞める時だ」と誰が言ったわけでもないのに、そう自分にプレッシャーをかけて生きていたことを思い出しました。

その日の後、ちょっと不安になって就活本を買ってみたりもしたのですが、完全に気持ちは輝&輝でプロにという方向を向いていて、いっさい開かずにその本とはさよならしました。

プロ奏者として演奏するということ

プロになると決めてから私たちは三味線を弾いて生活をするには!?ということを考え始めました。

そう、三味線を弾いてお金がもらえなければプロになったとは言えないのです。どうしたら仕事がもらえる?と考えた時に、私たちの頭に浮かんだのは、事務所に入ることでした。

その当時、私たちの持っていた人脈の中でここなら話を聞いてくれるかも、と希望の持てる某事務所に足を運びました。「何かお願いする時は、手土産手土産」と菓子折りを包み、その頃の私たちにとってできる最大限の準備をして。

いざ、事務所の門を叩く!!

「輝&輝を所属させてもらえませんか?」

まだまだお子ちゃまだった私たちは事務所のAさんにど直球でこう言ってしまいました。まだ業界の中でさえも名前も売れてない、これから世に出て成功する保証もない小娘を前にきっと、Aさんは頭を抱えたことでしょう。

もし、自分が事務所の人間なら「無理だから出直しなさい」と追っぱらっていたと思います。
でも、その時Aさんは優しく業界の厳しさを説明し、これから輝&輝がどうすると良いかということを教えてくれました。

「演者が舞台に立つためには、多くの人が携わってやっと演奏できるということを知るといい。まずは全部自分たちでやってみて、スタッフの苦労を知りなさい。それを知ってるか知らないかで、後々いろんな人が一緒に仕事したいと思えるかが決まると思いますよ。」

その時は、私たちは受け入れてもらえなかった、と落ち込んで帰りましたが、今になるとこの時のAさんの言っていたことが身に染みます。全員がそうというわけではないのですが、若い頃はなかなか周りが見えなくて自分のやっている目の前しか見えなくなってしまうものです。私たちも、すぐに行動に移せたかというと全くそうではなく、失敗の連続でお叱りを受けることもしばしばでしたが、この時の助言はしっかり輝&輝の脳裏に焼きついて自分たちで何かを企画する度に、周りで仕事をしてくださる方々の動きに目を向けることができました。

イベントやコンサートを作るために、どれだけ多くの人が動いているのか、一つのものを作るためにどれだけの業種のスペシャリストが集っているのか、この人たちのしてくれた仕事を取って変わってできるだろうかと思うと到底無理です。

だから、せめて輝&輝の代わりはできないと思ってもらえる存在になりたい、と。

今ではリスペクトできる仲間や先輩方と色々なことを企画し、自分たちで仕事を作ることがやり甲斐になっています。

自己満足のその先へ

それから私たちがしたことは、自分たちのカラーの探求でした。上手な人たちがたくさんいる中でどうしたら唯一無二になれるのだろう…ということを考えていました。

「女性2人って珍しいから絶対いいよ」とよく言われたものでしたが、簡単に言ってくれるな。この女性2人組というのは単にオプションでしかなく、これが核となる自分たちの武器とは言い難いものがありました。(師匠たちから言わせると、女性的な魅力で売るのは無理ということでしたので。笑 スポーティーデュオという感じでしか見られてませんでした。)

なので、私たちは輝&輝2人でガツガツ演奏する津軽三味線デュオの活動を続けながら、唯一無二のカラーを探すべく、ゆるくて楽しいユニット「猫舌屋四重奏」の活動を大学時代の延長線上で行っていました。

まずは、この猫舌屋四重奏について説明したいと思います。

猫舌屋四重奏は津軽三味線 輝&輝、サックス 池原亜紀、パーカッション 辻田佳代子による4人組のユニット。演奏曲はかっこいいかは置いておいて、4人で演奏できそうな曲を弾く。作曲とかアレンジとかよくわからないけど、ノリよく元気にやらせてもろてます。

こんな感じでした。

この猫舌屋四重奏の演奏は無条件に楽しいものでした。楽器が弾ける友達4人で好きなことを好きなようにやる、競争心もなく笑えるなんの苦しみもない時間。

しかし、猫舌屋四重奏を見た時によく言われたのが「学芸会みたい」でした。かつてはそれに反発して怒っていましたが、今になると確かにそうだった、と思います。私たちがやっていたことはただただ自己満足でしかなかったのです。

ある時、先輩和楽器奏者が猫舌屋四重奏のライブを見に来てくれました。先輩がいるからと言って、かっこつけることもなく私たちは全力で学芸会をしました。そして、それを見た先輩から後からこっぴどくしかられ、先輩の企画するイベントには「輝&輝2人で出るように」と釘を刺されたのでした。しかし、その先輩は怒りもしましたがこんなアドバイスもしてくれていました。

「この楽器4人でやる意味は何?」
「何か効果を狙ってるならいいけど、理由がないなら変な編成だよ」

それを機に私たちは、楽器の役割をよく考えるようになりました。ちょうど、その頃1人のメンバーの妊娠が発覚して音楽活動をお休みするという事で私たちは輝&輝+αの編成を考え直すことにしました。
ちゃんとグループとして音の土台ができて三味線がリード楽器として存在するためには…
楽器編成も大切だけど、三味線のことをよく理解してくれる奏者が必要。。と考えた時にできたのが輝&輝バンドでした。

その時に集まったメンバーがとても個性的且つストイックで輝&輝バンドの活動が刺激的なものになったのは言うまでもありません。

色んなジャンルの音楽に出会わせてくれて、輝&輝の三味線をかっこよくし、闘志をバリバリに燃やしながらの音楽活動になりました。

そんなこんなで、輝&輝はプロとして求められる他の楽器とのコラボレーションの仕方を学んで行くことになります。

バンドの時の見せ方と2人の時の見せ方の違い、エレキと生三味線のそれぞれの工夫…。この自己満足にならない音楽活動をするためには、基本的な楽器のテクニックの上達以外に本当に色んなことに目を向けておくことが必要でした。

例えば、今現在津軽三味線が求められていることを常にキャッチしておくこと。

昔だとイベントに出かけると割と津軽三味線らしいと思われるオリジナル曲を弾いても「民謡以外は邪道だ!」と言ってくるおじちゃんがいたのだけど、今だと「民謡とかはいいからみんなが知ってるカバー曲でセットリスト組んでくれない?」と言ってくるおじちゃんがいるのです。時代は変わったものだなぁと思いますが、私たちが好きなのは津軽三味線を津軽三味線らしく弾くことなので、それからかけ離れたことはしないというモットーがあります。じゃあ、津軽三味線2人で演奏して違和感のないカバー曲ってなんだ?と探すことが必要になってきます。(ここ最近の大発見は、歌謡曲の異邦人が津軽三味線で演奏するのにとてもかっこいい楽曲だということです)

また、バンドで新しく作る曲も使うサウンドやミックスする音楽ジャンルはこれでいいのか?と考えることも必要です。最近は15年前と比べると本当に多くの手段で新しい音楽を探すことができます。私たちが学生の頃は、TSUTAYAに行ってとりあえず色んなジャンルのCDが並んでいる棚の前に行き、よくわからないので気になったジャケットのCDを片っ端から借りて聴いてみる、という手段くらいしかありませんでした。その他は詳しい人におすすめを聞くという感じでしたが、まずそういう人に何人も出会うのが難しい。今では、iTunesやSpotifyにジャンル別に今おすすめの楽曲がまとめられてるので、ものすごく手軽に色んな楽曲を知ることができるなと感じます。まだまだ私なんかは勉強不足ですが、新しいものに目を向ける気力だけはちゃんと備えておこうと思うのでした。

あとは、輝&輝2人で演奏することについて。今までの経験上、津軽じょんがら節を超える楽曲がありません。海外で演奏をしても、知っているどんな曲よりもじょんがら節がウケるのです。最初は技術の応酬、自分の満足のために演奏していた気がしますが、この15年間演奏して来た中でこの自己満足を超えるじょんがら節をずっと追い求めている気がします。どうやったら聴いてる人がワクワクするかな?熱くなるかな?と探し続ける日々。
難しいのが、わかりにくいことをすると技術的にすごいことをやっていてもお客さんは冷めてしまうという点です。どうゆうポイントで人って良い音楽だと思うんだろう。それはトライエンドエラーでしかわからないのでとにかく場数なのですが、音を発するベクトルはプロであるならば、自分ではなく聴き手に向いていなくてはならないものだと思いながら日々演奏をしています。


おまけ


昨年、私たちは夏から冬にかけて全10回、輝&輝のレパートリーを全部演奏するコンサートを開催しました。その中には、猫舌屋四重奏でしか演奏できないお気に入りの曲もありました。なので、10年ぶりの猫舌屋四重奏の復活!


我々はちゃんと大人になっていました。元々音楽好きな4人ですし、こんな風にいうのもなんですが、自分の楽器の分野では割とちゃんとした勉強をしてきている4人なんです。この離れていた年月で共に音を出していなくとも、それぞれがそれぞれの形で音楽とふれあい、音楽で仕事をすることの意味をちゃんと理解していました。

今では、輝&輝以外の2人は子育てをしながら立派なママになっているので、忙しい中で改めて音楽に真剣向かい合い、奏者として人前に出てくれたことに感謝しかありません。(人前に立つって本当に準備が必要だし、家庭がある中で練習や自分と楽器のメンテナンスの時間を確保することは本当に大変な作業だったはずです)

リハーサルをしている時2人は「時が止まってるー」と笑っていましたが、10年前とは違いみんな自分の楽器の役割を理解して音を出せていた気がしました。

今ではどうやってかっこいいものを作るか、良い仕事をするか、という事ばかりを考える時間が多くなっている中で、気心知れた友達と何の欲もなく自分が奏られる楽器を持ち寄って音で会話する時間は本当に贅沢で幸せでした。こんな気持ちは大学生の時は気づかなかった。

これが、音楽の原点かもしれないと思える尊い時間。昨年のライブを通して、今なら猫舌屋四重奏も自己満足のその先へきっと行けるんだと思えました。


宣伝させてください!

只今【ちょー必死コンサート宣伝月間】なので、コンサートお知らせをさせてください!ぜひ足を運んでいただけたら非常に嬉しいです!!!

よろしくお願いします(土下座)

津軽三味線 輝&輝 15周年コンサート 「日進月歩」  東京公演 太陽編  


日時:2023年7月23日(日) 13:15開場/14:00開演

場所:紀尾井ホール小ホール 

チケット:一般5000円 学生(小〜大学生)3000円 *未就学児無料


出演:輝&輝(津軽三味線)

   福士豊桜(民謡)

   瀧北榮山(尺八)

   佐々木忍弥(津軽三味線)


■イープラス購入ページURL

https://eplus.jp/sf/detail/3840860001-P003000

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津軽三味線 輝&輝 15周年コンサート 「日進月歩」  名古屋公演 

日時:2023年8月27日(日) 15:00開場/15:30開演 

場所:のぶながホール 

チケット:一般4000円 学生2000円 *未就学児無料


出演:輝&輝(津軽三味線)

   正調津軽三味線(津軽三味線)

   福士豊桜(民謡)

   伊藤辰哉(キーボード)

   鈴木良教(パーカッション)

■イープラス購入ページURL

https://eplus.jp/sf/detail/3848820001-P0030001