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どうしても倒れたくないんだ!

部活動。

もしオレに「熱い気持ち」なるものがあるとすれば、この部活動で培われたものだろう。

小中はサッカー部、高校はボクシング部だ。

ボクシング?おいおいオマエ嘘ついてんなよ、だってなんかアカウントの写真も弱っちそうだし、ヒゲだって濃いじゃん、と思ったことだろう。でも確かにボクシング部だったのだ。
オレのステップ見たら驚くゾ。

ボクシングを始めた理由は単純だ。

中2の冬のことだ。当時はサッカー部に所属していた。ただ日が落ちるのが早い冬はサッカー部の練習は早く終わってしまう。
物足りないなあ、と思っていた。

そんな時にHEY!HEY!HEY!を見ていると、浜田さんがジムに通っていると話されていた。

「え?!ジム?!チョーかっこいい!オレもオレも!!」

と思ったオレはその場で親にお願いして、サッカー部の練習の後にボクシングジムに通わせてもらうことになった!

わかるよ。
浜田さんが言ってるジムってさあ、ボクシングジムじゃなくてスポーツジムじゃね?!
って言いたいんだよね?

オレだって今ならわかる。成長したからな。
でも当時は茨城の中学生だ。完璧に勘違いしてボクシングジムに通い始めたのだ!!スポーツジムなんてないもん茨城に!

そしてそのままどっぷりとボクシングにハマったオレは、高校ではボクシング部に入ることを決意する。


地元の茨城を離れ、千葉の木更津にある高校で寮生活をすることになるのだ!

今回はその高校で出会ったボクシング部の1個上の先輩の話を紹介しようと思う。


その先輩の名前はタメイケ先輩という。

タメイケ先輩の特徴はというと、目がギョロっとしていて、顎はシュッとしていて、坊主だ。

オレの母親が試合会場でタメイケ先輩を見たときに、

「やっぱり減量すると頬がこけて宇宙人みたいになっちゃうんだね!」
と興奮していたがそれは違う。

タメイケ先輩は通常時からかなりの宇宙人顔なのだ。

あのタコタイプの宇宙人じゃなくて、グレイタイプの宇宙人。

ただタメイケ先輩の最大の特徴は外見ではなく、「試合で1度も勝ったことがない」ということだった。


そして1度も勝ったことがない状態で先輩にとって最後の大会を迎えてしまう。夏のインターハイ予選だ。

みんなからかわれたりするが、そんな時も笑顔で返すタメイケ先輩。そんなタメイケ先輩がオレは好きだった。

好きが故にどうしてもオレは最後に1回勝って欲しかった!ここで1回勝つかどうかで今後の人生変わりそうじゃない?!なにより勝ちを味わって欲しかった!

オレは聞いた。

「タメイケ先輩、インハイ予選どの階級で出るんすか?」

タメイケ先輩が答える

「フェザー級で出るよ」

は?!バカじゃん!だってフェザー級と言ったら激戦区なんだから!強い人ばっか集まる階級なんだから!勝ちたくねえのかよ!もっと減量して階級下げたらいいだろこのグレイタイプ!

と心の中でディスっていると先輩が続けて言った。

「ずっとフェザーでやってきたから最後もその階級で勝負したいんだ」

ごめんなさいと。そんな熱い気持ちあったんですねと。グレイタイプとか言ってごめんなさい。
心の中で謝った。

そして組み合わせ発表の日。

自分の組み合わせを確認したあとにタメイケ先輩に聞きに行く。

「相手誰でした?!」

タメイケ先輩は黙っている。

なんだ?と思いつつ用紙を見て確認してみる。



終わった。

タメイケ先輩の対戦相手はフェザー級の優勝候補。叔父がオリンピックの金メダリストで小さい頃からボクシングの英才教育を受けてる超エリート。

だから言ったじゃねえかよフェザーでいいのかって!もう知らないよ!黙っちゃってんじゃん!諦めちゃったんだろどうせ!それとも黙ってたら勝てるのか?!いや勝てやしないよ!もう勝手に宇宙人ぶっててくれ!

といつも通り心の中でディスっているとタメイケ先輩が言った。

「オレ勝つわ」

ごめんなさいと。諦めてなかったんですねと。勝手に宇宙人ぶっててくれはさすがによくわからないですよね、と心の中で謝った。


試合までの期間、先輩は必死だった。

水色のシャカシャカの練習着が汗で濃い青になるまで動いていた。

練習後は真夏にもかかわらずストーブの前で毛布を被って体重を落とす。

徐々に頬がこけていく、その様子が試合が近づいてることを示していた。

オレも日に日に勝ってほしい気持ちが募る。


そして試合の日が訪れる。緊張の面持ちで先輩がリングに上がる。もちろんオレはリングサイドで試合を見守る。




ゴングが鳴った。

1ラウンド、、、 







なんとか生き延びた!かなり打ち込まれたが、相手だって打ち疲れてるはずだ!この先チャンスがくるはず!

とかすかな望みを持ちながら見ていた2ラウンド目に事件は起きた。

2ラウンド開始早々、やはり打ち込まれる。そして会心の一撃がタメイケ先輩のボディを襲う。

顔を歪めるタメイケ先輩。その時だった。








ん?

 









なんか方足を上げてるな?!









膝でボディをガードしてるんだ!!!

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プロでもアマでもボクシングの試合でそんな格好してる選手見たことないんだけど!!!









ちょっと待って!!!











反則じゃないのそれ?!!










反則っぽいってそれ!!!!なんかずっと足上げてるけど!!

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最後の試合、勝つどころか反則負けになっちまうって!!!!




そう思ったオレは審判の顔を見た!

審判も反則かどうかよくわからないようだ!!反則の判定を下すことはできない!それぐらい意味不明で見たことのない行為なのだ!!

反則負けは免れた!良かったあ!!反則負けはシラけちゃうもんね!!

いや「良かったあ!」じゃないんだよ!



なんとかギリギリ試合は続く!

ずっと片足を上げて打ち込まれるタメイケ先輩。

しばらく経って審判もようやく異変に気づく。選手2人の間に割って入り、試合を止める。




タメイケ先輩はKO負けした。

リングから降りてくるタメイケ先輩に、

なに反則まがいの行為してんすか!




なんて言えるワケもなく、オレはただただ大泣きしていた。そんなオレを見て先輩は「ありがとう」と少し笑いながら言った。。

なにがなんでも倒れたくないという気持ちから出た膝ガード。タメイケ先輩は負けたが確実にオレの心を熱くした。

負け続けたけど逃げはせず、最終的にこうやって人の心を動かした!

それは「勝ち」と言ってもいいんじゃないかな!!




高校を卒業してからはタメイケ先輩とは会っていない。

なにしてるかなあ。

街で誰よりも宇宙人顔をしてる人がいたらそれがタメイケ先輩なので、そのときはオレに知らせてください!!

また書きますんでよろしくお願いしまス!!

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