「鍛冶スキルと採掘スキルで掘り当てたのは人間と世界最強の称号でした」第2話
ゴールディア領内 ボックスの町へ向かう馬車の中
「はぁ、はぁ、はぁ!本当にたまらない!」
馬車の中、地味な格好の男と派手な格好の女が乗っている。女は煌びやかな装飾が施された刀の鞘に頬擦りをしていた。
「あのジェリー様?何をしているんですか?」
「刀の味を体に擦り付けてるのよ!」
(この人やべぇ)
「ランもやる?」
「やりません!というかジェリー様も運んでいる最中の宝刀にそんな事しないで下さい!」
「イヤよ!何でこの私が運搬なんて地味な仕事を引き受けたと思う?」
「聖武祭で展示される宝刀を運ぶという栄誉ある仕事だからですか?」
「んなわけないでしょ!私くらいの貴族じゃ、こんな武器普段は触れる事すら許されないのよ?それを直接運搬出来るなんて最高の仕事じゃない!レロレロ……」
(この人マジでやべぇ)
宝刀の鞘をペロペロし始めた主人に引く従者だったが、突然事件は起きた。馬車の外から馬の嘶く声が聞こえたと同時、軽快に道を走っていた馬車が止まる。
「ジェリー様大変です!盗ぞ……」
馬車の扉を開き注意を促そうとした男が殴られ横に倒れた。ランと呼ばれていた男が、主人を守ろうと前に出るが、その顔面にも拳が入り後ろに倒れ込む。
「邪魔するぜぇ」
顔を隠し、口だけを出した人物が馬車に乗り込んでくる。
「な、何よアンタ!」
「ちょっと用事があってね」
「ま、まさか……」
何かに思い当たったようにジェリーと呼ばれていた女が口に手を当てる。
「私の体が目的!?」
(何だこいつ)
(やっぱりこの人マジでやべぇ)
乗り込んで来た人間と、従者の考えが奇跡的にシンクロした。
「まぁ何でもいいわ。さっさと終わらせんぞ」
馬車に乗り込んで来た人物、その口元は悪魔のような笑みを浮かべていた。
「パンパカパーン!」
「へ?」
真っ暗な空間。その中央だけが劇場のスポットライトのように照らされている。
そこには黒髪の優しそうな瞳を持った少年が座っており、目の前には孔雀の羽が付いたド派手なサンバ衣装を着た女性が立っていた。
「誠に残念ながらあなたは死んでしまいました!」
「え?」
女性にそう言われた少年は、咄嗟に自分の右手を確認する。その顔は悲しそうにも、悔しそうにも、何処か安心したようにも見える複雑な表情だった。
「……」
「どうしました?」
まだ右手を見続ける少年に女が問い掛ける。
「あっ、いや何でも」
「……?」
「そうかぁ。俺死んじゃったかぁ……」
震えた声色で少年が呟いた。見ていた右手を力強く握り締めた後、彼は女性と向き合った。
「それで、あなたは誰なんですか? それにここは」
「私は!か!み!です!」
そう叫びながら、女は両手を広げカッコ良くポーズを決める。
「……ちらっ」
「……」
「……ちらちらっ」
「わ、わぁー!び、びっくり」
「そうでしょうそうでしょう!」
少年の反応に満足したのか、女がポーズを解き、笑顔になる。
「ここは何処なんですか?随分真っ暗ですけど」
「ここは神界です」
「神界?へー!神界って勝手にキラキラした所を想像してました」
「あーこれは節約です」
「世知辛い!」
少年は思わず叫んだ。
「神界ですら節約しないといけないんですか!?」
「そうですね。電気、神様パワーにも限りがありますので」
「今電気って言いませんでした?神界も電気使うの!?」
「まぁ、そんな事は置いておいて、あなたをここに連れてきた理由を説明しましょう」
「は、はい」
「大釜才屈君。あなたは残念ながら元いた世界で死んでしまいました。本来なら同じ世界で生まれ変わる所をなんと!なんとなんと!」
(近い)
女神がこれでもかと少年の顔に近付いていく。
「この私がそれを止めて、記憶そのままで別の世界に転生出来るようにしました!」
凄いでしょ?と言わんばかりに、自分の胸に手を当てながら、ウンウンと頷いている。
「……ちらっ」
「……」
「……ちらちらっ」
「わ、わぁー!す、すごーい」
「そうでしょうそうでしょう!」
彼女はまた満足したのか、ウンウンと頷くのを止め、少年に一歩近付いた。
「それでは、記憶そのままで赤ん坊に転生して別の世界の両親に育てて貰うか」
少年が右手をまた力強く握った。
「それともその見た目と記憶のままで、別の世界に転生するか」
「そんなの決まってます!このままで!」
「分かりました」
最初からその答えが返ってくると分かっていたのか、女神はとても優しく穏やかに微笑んだ。
「その体に異世界で生きるためのスキルだけを足して転生する事も出来ますが……。今の状態ではオススメ出来ませんね」
「そう、ですよね」
女神が未だに座ったままの少年の体を指差す。悲しそうにする少年の顔を見て、彼女は急いで話を続けた。
「なので、要らない物だけ取り除いた前世とほぼ同じ体に、スキルを足して転生しましょうか」
「そんな事も出来るんですか!」
「はい!何たって私は神ですから!」
「ありがとうございます!」
嬉しそうにする少年を見て、女神も微笑む。
「では最後に、あなたはどんなスキルが欲しいですか?」
「スキル?」
「新しい世界でどんな事をしたいかって事です」
「……」
少年は少し悩んだ後、直ぐに答えを出した。
「自分で材料を手に入れて、それを使って誰かの役に立つ何かを作れるようになりたいです!」
彼の脳裏に浮かんだのは、材料まで拘ったと自分の作った玩具の話を楽しそうにする父の姿だった。
「……ふふっ。良い答えです!」
その答えを聞いて満足したように優しい笑顔になった女神が頷く。
「ではっ!」
――パチンッ!と女神が指を鳴らす。少年の体が白く光り輝き、足元から徐々に消えていく。
「神は汝に試練を与えん!」
両手を広げながら、高らかに宣言した女神は言葉を紡いでいく。
「スキルの効果を確かめられるように、転生場所は洞窟に」
「向こうについたらまずは能力確認(ステイタス)と呟いて下さい。その魔法で自分が持つスキルなどが確認出来ます」
「あなたが転生する世界で、あなたの持つスキルはきっと大きな苦労を生むでしょう……」
「ですが、前世のように強く、強く生きて下さいね」
女神は微笑みながら、少年を鼓舞する。
「はい!女神様ありがとうございました!」
少年の体が完全にその場から消え去った。
「ふぅ、ところで」
「彼には少しでも明るい気持ちで旅立って欲しかったのですが、やはり難しいものですね」
その為にわざわざ孔雀の羽が付いたド派手なサンバ衣装を用意したらしい女神は、何処かずれていた。
そして……。
そんな女神とのやり取りを終え、洞窟内に転生して冒険の第一歩を踏み出した少年の現在はと言うと。
(女神様が言っていたのはこういう事か)
新しい世界にやって来た彼、本来なら今も楽しく冒険している筈だが、そうは行かなかった。彼は現在牢屋の中にいる。
(鍛冶鑑定スキルで折れたナイフと俺が修理した物の名前が同じかは確認したんだけどな)
牢屋の窓から暮れる空を眺めながら、少年は考えていた。
(武器を直しただけなのに……はぁ)
「八釼さんは大丈夫かなぁ?」
ボックスの町 領主ポンチョの邸宅
豪奢な部屋の一室に恰幅の良い男と、髭を貯えた男が向かい合っている。
「それでどうじゃった?」
「はい。あの才屈という少年が修理したというナイフですが、鑑定にかけた所、やはりギルドが配布している武器と同じ名称でした。ですが」
恰幅の良い男が紙を読みながら続ける。
「ナイフの性能はギルドの10倍以上に……」
「10倍?」
髭の男が驚いた顔をしたと同時、バンッという音を鳴らしながら、部屋の中に男が走り込んでくる。
「ポンチョ様大変です!」
「何故だ、何故聖武祭直前に我がゴールディア領内でこんなに問題ばかり」
男から報告を受けた髭の人物が頭を抱えている。
「シルバーは?」
「聖武祭に向けて2週間前から工房に籠ってます」
「邪魔は出来んな。どうしたものか……」
自分の髭を引きちぎらんばかりの力で鷲掴みにしながら男が思案している。
「……そうじゃ。使える奴がいるではないか!」
(どうしよう。魔法で工房を出して、刃を使えば脱出は出来るだろうけど)
少年が心配していたのは銀髪の少女、八釼白愛の事だった。
(俺が迂闊な事をしたばっかりに、八釼さんまで巻き込んでしまった。もしこれで俺だけが逃げるような事をしたら)
洞窟の外で死刑を宣告されてから、彼は彼女とは一度も会えていなかった。
(いったいどうすれば?)
「おいっ!」
「はい?」
少年が振り返るとそこにいたのは看守。
「ここまで来て両手をこちらに向けろ」
言われるがままに行動すると、少年は両手に木の手枷が付けられた状態で牢屋から出され、ある場所まで連れてこられた。
「ここは……工房?」
埃だらけの炉や、傷んだ槌があるそこは寂れた鍛冶工房だった。
「才屈さんよくぞ来てくれました」
工房の奥から出てきたのは恰幅の良い男。少年に死刑を宣告した人間だ。その手元には古い巻物のような物が握られている。
「とりあえずこれをご覧下さい」
男の態度の変わりように怪訝な顔をしながらも、少年は開かれた巻物を覗き込む。
(龍神の里……宝刀?)
その巻物には材料や工程など、刀の作り方が細かく書かれていた。
「この刀作れますか?」
「えっ?多分作れるとは」
「そうですかそうですか!」
質問の意図が分からず困惑する少年をよそに、男が笑顔で話続ける。
「我が領主、ポンチョ様も鬼ではありません。これを作れば死刑を撤回すると仰られました」
「え!」
「それだけではありません。一緒に捕まった女の罪もなかった事にしても良いと」
「本当ですか!」
「は、はい!可能なら明日の朝から作業を」
(信じていいんだろうか)
牢屋に戻された少年は考えていた。そこに窓の外から声が掛かる。
「よぉ!」
「え、誰?」
「お前、俺と亡命しないか?」
少年にいきなりそう語り掛けて来たのは、悪魔のような笑顔の人物だった。
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