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やろうと思ったときにずっとやれなかったことを、やる【金曜の夜エッセイ】

描いていたもの、想像していたものを、実際の形にするのはとても腕力がいる。


結婚式で流れた映像で、夫がこう言っていたのを思い出す。

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「かなちゃんは農業で、ゼロからお米やさつまいもを生み出している。だから自分も何かを生み出したいと思った」

そうして建築家の夫は、↑マイバイクに乗って酪農家をたずね乳搾りをし、鶏小屋から卵を調達し、それらを抱え高校のときにバイトしていたケーキ屋さんでウエディングケーキを作った。(ちなみにケーキ入刀用のナイフも自作していた)

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懐かしい…泣ける…

でも実際は、何か生み出すことが好きな私も、その過程では全然能力が足りないときもあり、荒れに荒れたり、イライラしたり、ギャーギャー言ったり落ち込んだり引きこもったりしながら、そんな小鬼と化した私のそばにずっと夫がいてくれた。

ずっと夫の方が、立派に思う。


大地の力を借りて、ゼロのフィールドから何かを産む農業や
今まで作ってきたいろんな商品たち。
生み出してからも、ひとつひとつ、なんか違う、なんか違う、と感じながら、もっともっといいものを、もっとイメージに近いものをと改良ばかり続けてる。



そうやね、こうやって答えや終わりがないから、農業って面白い。

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そんな私の農業も、また違った腕力を使う年を迎えた。
食品加工所の竣工まであと2週間となった。

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2013年から始めた干し芋づくり。
とうとう今年から、十日町で生産ができるようになる。

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8月に第三子を出産したことが、まるでまばたきくらいの一瞬の出来事だったかのように感じる…「どうしよう」と悩んで立っていた場所から、「よし、加工所建設、もう一回チャレンジしてみよう」と具体的に手を動かし始めた去年の冬から、怒涛のようにいろんなものをさばき、ホームランバッターよろしく、来る玉来る玉必死に打ち返してきた。

これをクライマーズ・ハイならぬ、ファーマーズハイと言う人もいるが、まさにそれだ。


今まで使ったことない頭や、苦手なこと、初めての経験を驚くほどのスピードでさせてもらっていて、まさにゼロから生み出す中で、とてつもない腕力を使っている……その腕力に、市の担当の方や融資の方も伴走してくださっていて、我らガッチリとスクラム組んだ腕力仲間だと勝手に思ってる。本当にありがたい…


大きなものだと一般競争入札の段取りや融資の手続き。小さなものだと9年前、就農2年目のときに「加工やるか分からんけど、時間あるうちに」と取得した衛生管理責任者の資格を、9年の時を経て昨日、修了書の再発行手続きをした!

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君!!
やっと日の目を見ることになったね…まだ干し芋さえ始めていなかった9年前の私、本当にありがとう!!😭今じゃ忙しすぎてとてもじゃないけど、資格なんて取りに行けないよ!


そんなこんなで加工所の工事も、私自身も急ピッチ。


そうして嵐の中にいるとふと、3年前に加工所が着工直前で中止になり、諦めかけたとき、農業の師匠の橋場さんが畑で言った言葉がいま、あのときの秋の冷たい空気と眩しい夕日の光とともに、ジンジンと私の心に蘇る。

「やろうと思ったときにやらないと、ずっとやれないんだぞ」


私は結局、もう一度立ち上がるまで、3年かかった。


あのときにはなかった新しい仲間が増えたり、新しい商品ができたり、いろんな変化があったけど、少しはパワーアップできただろうか。結局同じようなことで悩んだり、苦しんだりもしているけれど、1mmくらいはあの頃の私より前に進めてるんだろうか。

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昨日、日本農業新聞の方からの取材で
「これからどうしたいとか、ありますか?」とzoomの画面越しに聞かれた。


うーん、と見上げた。
これから?どうしたいかって?
今までなら色々夢を語っていたのだろう。「里山農業から生まれる価値を、届けたい」「農業を通じて地域を繋げたい」とかキレイっぽいものも言ってただろう。でも今私たちは、夢を現実にする渦中にいる。


そうしてふとよぎったのは、
「私自身にケリをつけることです」

だった。
あのときダメだった自分。
あのときどうにもできなかった自分。
なのに、まだまだ成長が足りない自分。


私は私に勝負を挑んで、決着をつけようとしている。
あのときの私に戻らないぞ。私は諦めないぞと。
(この心境、今日最終回を迎えた「おかえりモネ」の百音とすごく似てる)
十日町にとうとう工場ができて、農家の冬の仕事としてみんなで取り組むこと、ここからもっと新しいものが生まれる場所ができることは、まだまだ新しいスタート地点なんだけど、めいっぱい走ってみて、今をやり切ってみる。

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加工所竣工にあたり、お世話になった関係者向けの加工所見学会のチラシを、農業の師匠たちや、今は高齢になって辞めたけれど、干し芋を始めたとき一緒に栽培してくれていた生産者さんに渡しに行った。


玄関に入ると
「おう、久しぶりだな」とにこやかな笑顔に出会った。

「今日はお招きしたいものがあって来たんです。

やっと加工所が」

とチラシを出しながら言ったところで、涙が不覚にもこみ上げてきた。
全然そんなつもりもなかったし、毎日忙しすぎて少しだけ感情が鈍くなっていたのに。マスクが、どんどんどんどん、滲んで冷たくなってゆく。


私、やっとこの言葉を言えるようになったんだ。
あのとき、辞めようと思ったとき
「辞めてもいいんだぞ」と言ってくれたり「大丈夫だよ、やってみれ」と言ってくれたり、農業の師匠たちはいろんな声をかけてくれた。そしてずっと、立ち上がれるまで、そっとしてくれた。もう一度、がむしゃらに走ってみた。

そしてやっと、この言葉を言えるようになったんだ。


「やっと加工所が、できるんです。あれから時間がかかったけど、なんとかできそうなんです」と。

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新しいオンラインストアオープンまで、毎週金曜日に【金曜日の夜エッセイ】として、加工所ができるまでや、干し芋や新しいさつまいもスイーツの開発の様子など、農業まわりのいろいろをお届けしたいと思います。

いただいたサポートは、里山農業からの新しいチャレンジやワクワクするものづくりに投資して、言葉にしてnoteで届けてまいります!よろしくお願いします。