【小説】マザージャーニー / うごけ、春 5
「おはよう」
朝ごはんの食卓に、お父さんがのそりとやって来た。
「……はよ」
気まずい。いや、分からない。
お父さんはあべこべなのか、私があべこべなのか。昨日から、はずかしい気持ちと、分からない気持ちがごちゃまぜになって、どうしたらいいか分からなくなった。
「昨日は、」
とお父さんが言いかけたところで、ごちそうさま!と早口でかぶせて、私は逃げた。
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ふう、とため息をした。まだ胸がどきどきする。深呼吸しながら作業場脇の畑に行くと、ワラのすき間から首を曲げて開きそうな、大豆の芽を見つけた。
「わ……!」
なんで?
袋の中だとただの豆なのに、土をかぶせたとたん、芽を出すなんて。これは私だけが見たまほうだ、秘密にしようと思った。
「豆がすごいのか、土がすごいのか……しんでるんじゃなくて、生きてたの」しゃがんで、開きかけの大豆の葉をながめる。
「だよなぁ、すごいよなぁ」
頭の上から声がして、わっと尻もちをついた。ケンさんが上から顔をのぞきこんでいた。
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