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「結婚はなんのためにするの?」に答えてくれた、ある農家さんの回答から数年後、私たちに起きたこと…

その夏は、雨が多かった。

だからこそ、久しぶりの晴れの日にする草刈りは本当に気持ちよかった。草刈りのあと、汗でびっしょりになったまま、軽トラのタイヤに背中を預けて、その陰に座り、綿あめのような雲が流れていくのを、ただただ眺めた。沢から流れてくる風も冷たくて、気持ちいい。


だけど、私の心はどこか、寂しかった。
当時、私は独身だったのだが、地方ほど「独身」ということが際立った。好きなことをしていると、たくさん言葉が溢れてくる。「こんなことがあったよ!」「こんなことが起きて…」ぐったり疲れた帰宅後、それを誰かと共有したかった。

結婚は、なんのためにするの?

ある夏の日、集落のある夫婦が晩ごはんに呼んでくれた。
二人は、その年、金婚式を迎えていた。
そんなこともあり、話題は結婚の話になった。2人がこの集落で出会ったこと、そしてそのまま「2人」になったこと。

「50年経って、半世紀も歳が違うかなちゃんに、こうやって結婚したときのこと話してるので、ほんと不思議な気持ち」

おばあちゃんが言った。


羨ましかった。すぐそばで、運命の人に出会えたことが。
私は(当時)25年も生きてきたのに、なかなか出会えたように思えなかった。
「自分が好きな人が、私のことも好いてくれる」という奇跡なんて、本当に起きるのか。そんな何万分の1的な奇跡、私だけ訪れないんじゃないか。ましてや山奥で農業することを選んでしまった私……。やりたかったことだけど、本当によかったの?


ふと、好奇心からこんなことを聞いた。
「あの、結婚ってなんのためにするんですか」

おぉ、とおじいちゃんが口をすぼめた。
口を開いた。

「あのな、お前」
手に持っていたコップを下ろす。

「20代までは、自分で解決できる問題が多いけど、大人になると1人ではどうしても解決できないものが多くなる。それを2人で乗り越えるために、結婚するんだよ」


「そっか…」

私は、ぐっとのけぞり少し上を見た。
その当時、私はまだはっきりその意味を実感することが、できなかった。

「私と結婚したせいで……」

その後、びっくり仰天なのだが、私は無事に結婚できてしまった。
奇跡が起きてしまった。(この話は後日…、って前も後日って書いたような。汗)

何度も「お前にはもったいない」と言われてしまった。本当にそう思う。なんで今まで独身でいらっしゃったのか、そんな今の夫の存在こそが奇跡に感じた。


さて、その後出産し、農業は継続してきた。夫は、工務店経営していたのだが、農繁期などは時間を作り、よく手伝ってくれた。

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そんなある日、とある事件で、そのご夫婦が言っていた意味を痛感するようになる。

以前の記事に、3年前、地域トラブルにより加工所建設が着工直前に中止になってしまい、いろんなことが起きたというのを書いた。

干し芋の加工所を建設する、という数千万の大きな投資に、大きな一大事に、夫はいつもそばにいてくれた。集落説明会もそばにいてくれた。なかなか分かり合えない地域の人との対話にも、同行してくれた。

「ここでは無理だ」
「子育てに専念しろ」
「そんなんで、農業も家のこともできるのか」
「なんでも自分で勝手に決めるな」「だからお前は…」

夫の前で何度も人格否定され、いろんな言葉を投げかける地域の方へ、私の隣から
「私が支えますので、大丈夫です。どうかお願いします」と夫は、一緒に頭を下げてくれた。


それでもなかなか対話さえしようとしてくれない方もいた。
「もう一度、家に行ってみよう」
そう夫に手を引かれたが、私は心臓が高鳴り、吐きそうになり、足がすくんでしまった。この頃、何度も過呼吸になっていた。その時もまた、息が苦しくなってきた。だめだ……私にはもうだめだ。


「ごめん、私のせいで、私と結婚したせいで、幸治くん(夫)にも辛い思いさせて。多分私じゃない人と結婚した方が、幸治くんはもっともっと幸せになってたと思うし、いい暮らししてたと思う。私みたいに農業なんてしてなくて、ちゃんと幸治くんの家業を手伝って、同居もうまくやって、家事育児もちゃんとやる人と結婚した方がよかったと思う。

私と結婚してしまったせいで、幸治くんは不幸になってしまう」

何度も泣いた。
何度も、もう生きるのが辛いって思った。
そして私にとって、もうこの地域で生きる意味はないと、思っていた。


「かなちゃん、俺はかなちゃんと一緒になったおかげで、1人じゃできない、いろんな経験させてもらってるよ。俺と一緒になった、その理由でいいから、それがかなちゃんがここにいる意味にしてほしい」

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結局、干し芋加工建設は中止になり、計画も白紙になった。


それから、夫はずっと私のそばにいてくれた。
まるで私が変なことをしないように、見張っているようでもあった。
私がぼうっと何もできない日も、急に泣き出してしまう日も、私が浮き上がってくるまで、ずっとずっと耐えて待っててくれていた。

そしてまた突然、過呼吸になった時は、すぐ駆けつけてぎゅうと抱きしめてくれた。


私は1人では、何もできなかった。
でも2人だったから、壊れてしまうのをなんとか踏みとどまれた。
夫がいたから、やっとこうして笑えるようになり、そしてまた、自分の夢に向かって、できることを踏み出す勇気が出た。

この↑話の最後には、サイドストーリーがある。
この日の、初めてさつまいも生産者全員が一堂に会した慰労会で、1人一言を言う場面。夫の番が来た。夫は何を言うだろうか……緊張した。


「夫の佐藤幸治です。

本当に、皆さんのおかげで……」


しんとなった。
次の言葉を待っていたが、なかなか出てこなかった。
夫の方を見ると、夫は肩を震わせ、目を押さえていた。

ずっと夫が隣にいてくれた日々を思い出し、私もまた涙が溢れてきた。

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