急いで食べる

急いで食べるメシが好きだ。
急いで食べたメシは記憶に残る。
「急いで食べるごはん」とは言わない。
「ごはん」なんていったら、丁寧な感じがするし、急いで食べるものではないからだ。「ごはん」を急いで食べる時、「メシ」となるのだ。


先日、新幹線の発車まで20分もない状況で、改札外の立ち食いそば屋に入った。正直、一人だったら入るのに躊躇しただろう。
しかし、いっしょにいた斎藤さんがやたら元気に「いけるいける!!」というので、なんだかいける気がして入ってしまった。
何の根拠もなくいけるって言える斎藤さん、すげぇなと思う。
一緒にそばを食べたことはないのに。私が欧米人くらい麺をすするのが苦手だったらどうするつもりだったんだろう。じっさい、麺をすするのが苦手なことに加え、けっこうな猫舌で温かい麺類の早食いには自信がなかった。


店に入った瞬間から、勝負が始まっている。まずは、券売機で食券を買う。悩んでいる暇はない。斎藤さんが「みしまコロッケそばがある…」といったので、コロッケそばのボタンを押した。
おばちゃんがそばを作っている間に、手を拭き、お水を飲んで喉を潤し、割り箸を割ってスタンバイした。さぁ、いつでも来い!そばよ!
斎藤さんが小さい声で「え、もう箸割る…?」と言った。


普段は自意識過剰で、人前でそばをすすれない。一人で外食していても、すすれない。唯一すすれるのは、家で一人で麺類を食べている時だけ。確実に誰もいない空間でしか麺をすすれない、悲しき自意識過剰人間なのだ。
しかし、今日は違う。私は自意識過剰人間である以前に、目的のためなら手段を選ばない人間である。新幹線に間に合うためならそばだってすすってみせる!
そんな思いで私はそばをすすり続けた。たまにコロッケも食べた。みしまコロッケというのは三島産のメークインをつかったコロッケのことだそう。お芋自体の甘みがいきているのが特徴なんだって。甘みはもちろん、モチっとしていて、スープに溶け出しづらくてそばに合うぞ!!うまい!そばのゆで具合も最高!プツプツ切れそうで切れないこの感じ。かといって柔らかすぎもせず、細さの割にはコシがあるんじゃない??そうそう!立ち食いそばのこの感じ!こういうのを求めていたんだ!最高!あとこのネギも最高!青ネギもいいけど、私が一番好きなのって若くて細めのネギの白い部分なんだよね。それを、これでもかってくらい薄く切るの。最高!!
そんなことを考えているうちに完食。なんと、斎藤さんより先にすすり切った。


しかし、勝負はまだ終わっていない。新幹線に乗って初めて、すすった甲斐があるってものよ!
改札を通って、小走りでホームへ向かう。しかし、ホームまでが遠い!三島駅、そんなに大きくないんじゃんと舐めてました。
響き渡るアナウンス。足を速める我々。いや、速めるどころではなく本気で走った。間に合うのか?!間に合わないのか??いや、いけそう…!

ぜんぜんいけた。

発車の2分ほど前にホームに辿りついた我々。
席に着き、勝利の喜びに酔いしれながら水を飲む。

上あごの皮がべろべろにやけどしていた。

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