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インドで物乞いを見つめる私はきっとごみくずだった。


2019年末、私は歯医者に向かうためタクシーに乗っていた。
歯医者のためにタクシーなんて贅沢だなって思う人もいるかもだが、
運賃は1時間程乗って300円程度。

そう、場所は日本ではなくインドなのだ。

インドには色んな人がいて、色んな宗教があって、色んなヒエラルキーがあって、そういう現実を知っている人も多いと思うが、目の前にすると驚くことも多い。

インドでの生活も2ヶ月目くらいで、一人であちこち出歩くのにはもうなんの抵抗もなかったし、土地勘もついていた。

当時転んだ表紙に前歯を折るという珍事件をおこし歯医者に通うことになった。

歯医者までの車中1時間、案の定渋滞で、クラクションの騒音がすごいすごい。渋滞の原因はいろいろあるけど、牛の団体が道路を横切る時はなかなか面倒だ。牛にクラクション鳴らしてもなんの意味もないのに。

運転手は今まで乗ったタクシーの運転手たちと比べると若くてイケメンだったのでまぁよしとしよう。

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車が進まない中、前方の車に物乞いが近寄っているのが見えた。
インドではよくある光景だ。
渋滞をいいことに、物乞いがかたっぱしから車の窓を叩きお金を求める。

外国人が乗っているとわかるとその粘り具合が4倍になる。

災害や何か地球の問題に募金はすれど、物乞いに直接何かを渡したことは一度もないので、今回もスルーすると決めていた。

ただ、ちょっと気になることがあった。

彼らはああやって実際お金を手に入れることができるのだろうか?
毎日ああやって暮らして行けるのだろうか?

いよいよ物乞いが私の乗る車にやってきた。
私の座席の窓を叩き、何度も金をくれ金をくれと訴えてくる。

私はここぞとばかりにさっきの疑問を運転手に投げかけた。

「彼らは何をしているのか。こうすることで生活をきちんと送れるのか。」

特に深い意味もなく、聞こえは悪いかもしれないが私にはただの暇つぶし程度の質問だった。

すると運転手は思いもしない行動に出た。

「じゃあ彼に自分で聞いてみなよ」と言って窓を開けたのだ。

当然困惑する私。

「いや!いいよ!!大丈夫!怖いから窓閉めてよ!」

突然のことでパニック状態だ。
ただ忘れてはいけないのは、車の外にいるのはゾンビでもなく猛獣でもなく人間だということ。

そんな慌てふためく私をみて、運転手はため息をつき、心底呆れたという表情で物乞いに何ルピーか握らせた。

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彼の目には私は高飛車なアジア人の小娘に見えただろう。
私の質問は、別に本当に興味があるわけでもなく、ただその人を馬鹿にするような質問に聞こえたのかもしれない。
(実際はそんなつもりは1ミリもなかったが)

その物乞いは、生活に困っているかもしれないが、人間なのだ。
私はそんな当たり前のことを忘れて、彼の存在を無意識に酷く下に見ている自分に気づかされた。

お金があろうとなかろうと、物乞いしようとしなかろうと、ブランド品を持っていようとなかろうと、誰も人の尊厳を傷つけることをしてはいけない。

そんな当たり前のことに気づかないどころか私は、この事件の前まで自分を人徳者だと信じて疑っていなかった。

実際インドにはとても助け合いの文化がある。
インドにいたのはたった3ヶ月だが、数え切れないほどの優しさに触れた。

それは私が外国人だからだというわけでは決してないと思う。
インド人同士の助け合い、優しさもたくさんあった。
事実、彼のようにホームレス・物乞いに寄付するインド人を私はたくさん見た。

さらに私が驚いた経験の一つに、あるひインドのチェーン店ピザ屋さんに一人でご飯に行った。
お会計の時に財布を忘れたことに気づいた。
う〜わこれはやったわ と思いつつ、店員さんに事情を話すと、
「じゃあ後で払いにきて!ニコッ」という反応をされた。

え?私はそのとき持っていた携帯やパスポートを人質として置いていく覚悟はあったし、そもそも友達に連絡してお金を借りる心算だったのだが、店員さんの反応には拍子抜けだ。

その後もちろんお金を返しにいくと、店員さんは私の顔を見るやいなや爆笑しつつ、「ありがとね〜!」って感じ。私が返しにくると、信じて疑っていない笑顔だった。

助けあう、持てる者が持たざる者を支える。
そんなことを大切に毎日生きよう。と誓う。ここに。