短手数詰将棋本レビュー

1. はじめに

 みなさんこんにちは、もかと申します。突然ですが短手数詰将棋本をレビューします。

 浦野先生のハンドブックシリーズや高橋先生のn手詰将棋シリーズなど、巷には短手数の詰将棋本がたくさん出ていますが、作家別でレビューして難易度や作風を比較できれば面白いと思いました。詰将棋本が欲しいけどどれを選べばいいかわからない、というアマ将棋指しに本記事が届けば嬉しいです。

 取り上げる作家は、浦野真彦高橋道雄勝浦修森信雄中田章道原田泰夫です(以下敬称略)。短手数の詰将棋本を複数出版されている棋士を取り上げました。

 本記事の正確性については大目に見てください。難易度や作風といった定量化できないものを比較するので、どうしても私が解いた主観になります。私の指し将棋の棋力は2-3段程度ですし、詰将棋は好きですがガチ勢ではありません。不正確な点や私の勘違いも多々含まれていると思いますが、どうぞご容赦ください。また、本記事で紹介する本は私が1周以上解いたものに限りますので、本記事で紹介できていない詰将棋本もあります。せめてこれも解いてから…と考えていると永遠に記事を公開できないので、今回世に出すことにしました。

 本記事が叩き台となって、詰将棋ガチ勢やアマ強豪の方がより良い紹介記事を執筆してくださることを期待しています。

2. 比較図

 さて、それぞれの作家の詰将棋を比較するためには何かの物差しが必要です。

 一つの軸は難易度。手数の長短でおおむね決まりますが、同手数でも作意や変化の見えやすさ、紛れの有無で難易度が変わります。

(補足)
作意:正解の詰み手順
変化:受け方が最善でない受けをした場合に正解手順よりも短手数で詰む順
紛れ:詰みそうで詰まない筋

 もう一つの軸として、実戦より作品よりかという軸をとります。一言でいうと、指し将棋の実戦に出そうなものが実戦よりで、そうでないものを作品よりとしています。

 まず易-難と実戦-作品の2軸でまとめた(非常に大雑把な)図を示します。
 どちらも相対的なものですので、5手ハンドを図の原点にもってきています(図の中心の黒丸のあたり)。横軸の難易度には幅があります。例えばハンドブックは1-7手までをカバーした幅になっているので、左の易のほうに軸を伸ばしています。縦軸のスケールは適当です。
 また、この図を作成するにあたり考慮したのは、本記事で紹介する私が実際に解いた本のみです。本記事で紹介できていない作品を入れると図が変わりうることもご留意ください。

詰将棋

3. 浦野真彦:アマ将棋指しのスタンダード?

 サンプルは下記の計8冊(リンクはamazon)
1手ハンドブック
3手ハンドブック
5手ハンドブック
7手ハンドブック

 アマ将棋指しにとってはおなじみのシリーズ。この記事を読んでいる方はほぼ手元に持っていることでしょう。

 詰将棋を解く目的の第一は詰む形を覚えることです。上記シリーズの3手ハンドは詰みの基本形が多く(おそらく意図的にまとめようとしたと思います)、これから詰将棋を始める方にとってはベストでしょう。

 3手はお手頃。5手も簡単。7手になると少し難しい問題も混じるかなという印象。これから詰将棋を始める級位者にもよし。有段者の周回用にもよし。大多数のアマ将棋指しにとってちょうど良い難易度のシリーズだと思います。

浦野5手1第1問

 5手ハンドブックⅠの第1問。おそらく何度も解いたでしょう。
(本記事では解答は載せません)

4. 高橋道雄:実戦形といえばこれ

 サンプルは下記の7冊
1手詰将棋
3手詰将棋
5手詰将棋 Vol.2
7手詰将棋
9手詰将棋
1手~9手詰め 詰将棋202題 (1-9手、11手2問)

 実戦よりの短手数詰将棋としてはベストだと思っています。具体的には、 囲いの形を残している・相手の駒をとる筋が多い、といった特徴があります。

 難易度はハンドブックと同程度かやや簡単。5手7手はハンドよりも高橋詰将棋のほうが簡単です。1手3手で比べると、高橋詰将棋が囲いの形を残しているため、ハンドよりも駒数が多い傾向があります。7手詰将棋までは比較的簡単でハンドを周回している方はスラスラ解けるでしょう。9手になると少し考えるかなという感じです。

 初段-二段ぐらいまでのアマ将棋指しの実力養成用としては、ハンドブックと高橋詰将棋が双璧だと思います。特に手頃な5-7手の詰将棋を探している方は、これらのシリーズから選ぶのが良いでしょう。

高橋7手第86問

 7手詰将棋の第89問。銀冠の形を残した問題。

5. 勝浦修:詰将棋道場をすこれ

 サンプルは下記の6冊
詰将棋道場―手軽に楽しむ200題(7-15手)
詰将棋道場 挑戦編(7-15手) 
詰将棋道場7手~11手(7-11手)
新・詰将棋道場(5-9手)
詰将棋の鉄人(7-13手)
詰将棋の達人(7-13手)

 大雑把に言うとハンドブックを難しくした感じです。手軽に楽しめないシリーズ。
 
 ハンドよりもほんの少し作品よりという印象。駒数は多くないですが、ハンドブックよりも盤面を広く使っている傾向です。攻め駒が綺麗に捌ける問題が多く、少ない攻め駒で玉を詰まし上げる感じです。詰将棋らしい妙手や捨て駒ばかりではなく、俗手もほどよく混じっていますので、実戦のためのトレーニングとしても良いでしょう。

 ハンドブックと比べると結構難しいと思います。7手だけで比べると7手ハンドよりもやや難しいという程度ですが、本番は9手以上。変化もきちんと読み切れないと解けない問題も多く、詰将棋に慣れてない方が周回するのは大変かもしれません。

 シリーズを難易度で並べると下記のような感じです
(もちろん参考程度にお願いします)。
易しい:新・詰将棋道場 <(道場7-11手、鉄人、達人) < (道場手軽、道場挑戦) :難しい

 ハンドブックと高橋本を一通り解いた方が次に手を出すシリーズという位置づけでしょうか。アマ3-4段以上を目指す方が読みの力を鍛えるためのシリーズでしょう。

勝浦手軽第180問13手

 詰将棋道場―手軽に楽しむ200題より第180問(13手詰)。
手軽に解けるあなたは高段者?

6. 森信雄:トリッキーな作品が多い?

 サンプルは3冊
逆転の3手詰
3手・5手詰将棋
じっくり解こう詰将棋 ちょっと手強い7手詰

 作風は作品よりです。特に逆転の3手詰は空き王手や両王手の筋がやたら多いです。一方、7手詰めのものは普通の?作品が多かった印象。逆転の3手と7手で作品の感じが違っているため、作風についてはレビューしにくい作家です。ただ逆転の3手詰の印象が強いため、今回紹介する作家の中では最も作品よりとして位置づけました。

 作品よりといってもそれほど難しくないです。指し将棋で見ない筋といっても、慣れると楽に解けるでしょう。また、7手も「ちょっと手強い」とありますが、7手ハンドと比べてあまり差がない印象でした。

  指し将棋メインの方が手を出す必要はないかもしれませんが、逆転の3手だけは解いてもいいと思います。ハンドブックは駒の配置がコンパクトに収まっており、局地戦での読みに強くなれた気がします。一方、逆転の3手は盤面を広く使って大駒を動かす問題が多いため、大駒の効きに鋭敏になれた気がします(効能には個人差がありますので保証はしません)。大駒の効きを見逃している方はこの本でトレーニングしてみてはいかがでしょうか。

森3手第107問

逆転の3手詰より第107問。

7. 中田章道:一桁台の中では最難?

 サンプルは下記2冊
逆転の5手詰
逆転の7手詰

 同手数で比べると本記事で紹介する作品の中では最難だと思います。とにかく詰み筋が見えにくい。なぜ詰み筋が見えにくいかは私にはうまく言語化できませんので、識者の意見を待ちたいです。中段玉や入玉形もあり実戦では出そうにない筋も多く、本記事の作家の中では作品よりです。

 詰み筋が見えにくいということは、実戦には出にくいということだと思っています。指し将棋の終盤力に直結するかはわかりませんが、詰将棋の奥深さを垣間見ることができる作品といえるでしょう。

逆転5手第46問

逆転の5手詰より第48問。

8. 原田泰夫:手数は長いけど

 サンプルは下記3冊。
力がつく最新詰将棋200題 (7-17手)
強くなる新詰将棋200題 (5-17手+19,21,31手が1問ずつ)
とっておき詰将棋200題(5-15手)

 長めですが手数のわりに簡単な問題が多いです。変化がなく正解手順が見えたらひとめの問題もあります。また、駒を取る筋が多く実戦の詰みに近いです。
 
 長めでも手数を伸ばしただけの問題や、キズがある作品も比較的多かった気がします。詰将棋を作品として捉えている方にとっては色々思うところがあるかもしれません。

 高橋詰将棋の次に解く感じでしょうか。同手数で比べると勝浦詰将棋よりは簡単だと思います。少し長めの比較的簡単な問題に挑戦してみたい、という方にどうでしょうか。

原田力がつく第83問11手詰

 力がつく最新詰将棋200題より第83問(11手)。手数を聞くと難しく感じるかもしれませんが、見えたら簡単?