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4手目44歩雁木の勝率イメージ


1. はじめに

 みなさんこんにちは、もかと申します。突然ですが後手雁木についてあれこれ書きます。後手雁木を指していて感じたり考えたことを記録に残しておこうと思いました。自分用の備忘記事です。

 内容は後手雁木の勝率イメージです。ぶっちゃけ私の棋力(アマ2−3段)だとどう指しても1局なのですが、そんなこと言ってると進歩ないです。自分の将棋・読んだ棋書・並べたプロ棋譜を参考にした私の主観です。評価値をいちいち調べていませんので、正確性についてはお察しです。

 今回取り上げるのは、4手目△44歩から後手が雁木を目指す場合です。

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 このオープニングでは後手は居飛車か振り飛車かを保留しているので、先手は68玉や58金から美濃か矢倉に組むのが普通でしょう。

 本記事では、先手が角道を止める場合を急戦、止めない場合を持久戦として扱います。急戦は右銀の位置で分類して37銀からの早繰り銀・棒銀か47銀からの腰掛け銀です。持久戦では先手は矢倉に組むのが一般的です。よって対早繰り銀・棒銀急戦対腰掛け銀急戦対矢倉での後手雁木の勝率イメージをまとめておきます。

2. 対早繰り銀・棒銀急戦 

 次の図がこの戦型の入り口。

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 この図は既にのっぴきならない局面で、先手からいつでも▲35歩△同歩▲46銀(▲26銀)の仕掛けがあります。この戦型での先手からの仕掛け方は(a)37銀で▲35歩、(b)46銀から▲35歩、(c)26銀から▲35歩(d)37銀38飛から▲35歩、あたりでしょうか。後手の対応によっては合流する場合も。先手は囲いは78銀の美濃か88銀型かに分かれます(79銀型で仕掛けるのもありますが、のちに銀を上がる場合も)。

 上図では後手は△52金とするのが無難でしょう。以下、▲78銀△62銀としてから先手が▲35歩と仕掛けた場合を考えてみます。この場合は後手は銀交換を甘受する代わりに攻めを収めることはできます。▲35歩△同歩▲46銀△34銀▲38飛△43金▲35銀△同銀▲同飛となって、下図に。

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 この局面はどちらを持ってもやれそうでしょうか。類似局面はプロ将棋にも出ますので難しい局面なんでしょう。先手がこの局面を不満とみれば別の仕掛け方を選びます。
     上図は一例ですが、この戦型で後手が先手の攻めに対応すると金銀が上がりやすいです。上部に上がった金銀をうまく厚みにできれば後手も互角に戦えますが、手を作られると一方的に負けてしまうことも。先手は主導権を持って先攻できますが、3枚の攻めなのでいきなり攻めつぶすのも大変でしょう。互角から先手が少し勝ちやすい印象で後手勝率イメージは45-50%。

 次に攻め合う順で後手が早繰り銀で対抗した場合の一例が次の図。

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 図の78銀型に対しては後手からの反撃筋もあり、正確に指せるとある程度戦える感触です。雁木側が勝利したプロ将棋の類型は三枚堂-野月:第71期王将戦や羽生-野月:第14回朝日杯あたりでしょうか。最近の木村-和俊:第72期王将戦では雁木側が負けていますが、わかれは難しいように見えました。まとまっている先手陣に対して、後手陣は金銀がばらばらになりやすく実戦的に勝ちにくいのだと思います。
 先手の88銀型が難敵のようで雁木側からの反撃がヒットしにくく、後手がかなり苦戦している印象です。88銀78玉型では56歩~68角と引き角で35の地点を狙う含みもあります。88銀68玉型で仕掛けた例もあり、78玉か78金かを後で選べるのがメリットでしょう。
 攻め合った場合の後手勝率イメージは40−45%。場合によっては50%と言いたいところですが、後手をもって勝ち切るのは大変です。

  以上より、早繰り銀・棒銀急戦に対しての後手雁木の勝率イメージは45−50%。先手の攻めに対応するか攻め合うかが大きな方針の分岐です。

4. 対腰掛け銀急戦

 腰掛け銀急戦の場合、先手は飛車を2筋で使うか4筋で使うかが大きな分岐です。アマ将棋で多い普通の右四間(26歩48飛型)はプロ将棋では多くない印象。比較的新しい類型は青嶋-藤森:第93期棋聖戦でしょうか。右四間にする場合でも25歩を決めているものがほとんどだと思います。4筋に争点を作ると後手は53銀とする場合が多く、桂馬は45に跳ねればいいので25歩を決めても損ではないのだと思います。

   先手が4筋からの仕掛けを見せつつお互い組み合ったら次のような図に。

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 この図は後手雁木が避けるべき局面の一つだと思います。ここから▲45歩△同歩▲35歩で先手からの攻めが相当続く形。比較的新しめのプロ将棋の類型(近藤-高野:第63期王位戦、広瀬-糸谷:第71期王将戦)でも後手雁木が完敗。飛角銀桂の4枚の攻めでかつ2−4筋で歩がぶつかる形なので、先手からの攻めを収めるのが非常に困難です。後手雁木が非常に勝ちにくい印象で勝率イメージは40%。私が同棋力で指すとこれぐらいだと思いますが、プロでは後手の勝率がもっと下がってもおかしくないと思います。

 この戦型では上図になる前に雁木から手を替える必要があるでしょう。一例が次のような図。 

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    64銀61金の形から△75歩の攻め合いを含みしています。プロ将棋での類型は53銀型からいきなり△75歩▲同歩△64銀と先攻した千葉-和俊:第80期順位戦C1や、先手77角型に64銀として75歩をみせた勇気-屋敷:第80期順位戦B1あたりでしょうか。まだ結論が出ていない形だと思いますが、やはり後手陣がばらばらになりやすく苦労が多い印象。といっても、千葉-和俊戦では雁木が負けたものの後手からの仕掛けは成功したように見えましたし、勇気-屋敷戦では激しい攻め合いを雁木側が勝利しています。黙ってボコボコに攻められるよりは有望でしょう。勝率イメージは45%。

    以上より対腰掛け銀急戦の勝率イメージは40-45%。対早繰り銀・棒銀急戦と違うのは、先手からの飛角銀桂の攻めを受け止めるのが困難だという点です。うまく攻めあう順や後手から動く順があるかどうかでしょうか。

4. 対矢倉

 先手が矢倉に組んで何もしないと例えば次のような図に。

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 上図で後手だけ指すとすれば63銀~42角として、△65歩▲同歩△同桂から8筋の歩交換を狙う感じです。じっくりした展開になると、後手の桂馬のほうが使いやすい(桂馬の通り道に守備駒がある)、角交換した場合は手持ちの角を活かしやすい、ことか、雁木側に手段が多いように思います。互角から雁木側がやや指しやすくなる将棋もある印象で、勝率イメージは50-55%。
 
 先手から動くとすれば(A)早繰り銀・棒銀、(B)26角型で4筋を狙う、(C)▲35歩△同歩▲同角で一歩を持ってから(A)か(B)など。

 (A)まずは対早繰り銀・棒銀。一例は次の局面。

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 矢倉からの▲35歩△同歩▲46(26)銀には△36歩と突き出すのが部分的な手筋で、先手がこの歩を回収する間に反撃することになります。
 後手が反撃する上で重要になるのが先手の矢倉の形。大雑把に分けると66歩型か67歩型か、78金型か78玉型かに分かれるでしょう。先手の矢倉の形に応じて、(a)55歩~65桂、(b)65桂~86歩、(c)8筋の継ぎ歩、(d)65歩~65桂、などの筋を使い分けることになります。正確に指せると互角だと思いますが、有効な反撃を繰り出せないと一方的にポイントに稼がれることに。勝率イメージは45-50%。

 (B)の26角型はあまりやられませんが、個人的には有効だと思っています。特にツノ銀の弱点の4筋を歩で攻められるのは非常に嫌。また、26角46歩型に組まれると後手の角が使いにくいのもポイントです。プロ将棋でもあまり見つかりませんでしたが、阿部-太地:第80期順位戦B2が類型で後手は41飛~51角~62角と先手の攻めに備えてから、飛車を8筋に戻すような将棋でした。サンプルを集められてないので、勝率イメージはよくわかりません。

  (C)▲35歩△同歩▲同角の歩交換に対しては、先手の矢倉の形に応じては対早繰り銀の反撃筋が有効になる場合もあります。35角の瞬間は先手の角が不安定なので、一歩を生かして雁木側から動く順があればいいのですが、いきなり技をかけるのも難しい場合も。一歩交換で収まっても一局でしょう。

 以上を総合して対矢倉の勝率イメージは45-55%。じっくりした戦いになると互角から雁木が少し指しやすくなる場合もあります。やはり怖いのは早繰り銀・棒銀で対応を誤ると大変です。

5. おわりに

 ここまでお読みいただいた方、ありがとうございました。後手雁木の勝率イメージを自分なりにまとめてみました。この記事をここまで読み進めるような研究熱心な方は私よりは強いと思いますので、色々とツッコミ所があったのではないのでしょうか。以下、個人的な感想や所見をだらだらと。

出現頻度
 自分で指していてやられる頻度は、腰掛け銀=矢倉>>>早繰り銀・棒銀という感触です。一方プロ将棋では、早繰り銀・棒銀>>>腰掛け銀>>矢倉という感じでしょうか。きっちり調べた方がいたら教えてください。
 早繰り銀・棒銀は仕掛けまでの変化の余地が少ないので、事前準備が生きやすいでしょう。プロ間では結論が出ててもおかしくないと思っていますが、先手の仕掛け方や玉型がまちまちだったりで、プロ間で共通の見解が出ているかはわかりません。
 一方、私レベルの居飛車党で雁木対策を完璧にしている方は多くないかもしれません。対雁木の経験が少ない方は自分から早く駒をぶつける早繰り銀を選びにくいのだと思います。じっくりした将棋になりやすい矢倉や、手厚く攻めれる腰掛け銀が選ばれるのももっともでしょう。

雁木は居飛車党にとってのノーマル四間?
 雁木は「ノーマル四間の居飛車版」という気がします。角道を止めて相手に主導権に渡してしまうため基本はカウンター。相手の作戦に正確に対応できるとだいたい互角。じっくりした戦いになると雁木側から仕掛ける場合も。

新型雁木試論 
 佐藤和俊七段の棋書「新型雁木試論 バランスとカウンターの新体系」が5/24に出版されます(リンクは出版社のマイナビ)。
 この記事は3月末におおむねできていたのですが、わからない部分や自分なりに結論を出せない部分も多くずっと放置していました。今回公開しようと思ったきっかけは上記の雁木本が出版されるからです。無理やりにでも自分の結論を出しておいて、出版後に答え合わせできたら楽しいと思って公開しました。この記事にたどり着くような方はそちらの棋書も購入されると思いますので、ぜひ見比べてご笑覧ください。

 私は後手番でノーマル振り飛車も指すので4手目44歩からの雁木ですが、居飛車党の方は角換わり拒否タイプの雁木になるでしょう。また、最近の矢倉では先手67歩型で早繰り銀 vs 後手63銀73桂型がトレンドになっていますが、後手は左辺を雁木にするのが有力な早繰り銀対策の一つです。相手が居飛車党の場合はほぼ誘導できますので、雁木を指せると戦法デッキ構築の幅が拡がると思います。それではみなさまも良き雁木ライフを