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旧伊勢屋質店台帳プロジェクト その7 日本通運株式会社関東美術品支店共同ワークショップ「『包む、結ぶ、運ぶ、展示する』技術~美術品と文化財はどうやって展示されるのか~」参加記

 神奈川大学国際日本学部歴史民俗学科の学生が、跡見学園女子大学の学生と共に、文京区指定有形文化財である旧伊勢屋質店の展示コーナーの制作に取り組んでいます。展示は2024年2月から公開予定です。実施にあたっては跡見学園女子大学地域交流センター、テイケイトレード株式会社埋蔵文化財事業部、地元の地域の方々などが連携して取り組む計画です。
 今回は、その1その2その3その4その5その6に続いて、その7をお届けします。

 神奈川大学国際日本学部歴史民俗学科の学生と跡見学園女子大学の学生が取り組んでいる旧伊勢屋質店台帳プロジェクトと日本通運株式会社関東美術品支店と共同したワークショップが下記の通り開催されました。


タイトル:「包む、結ぶ、運ぶ、展示する」技術~美術品と文化財はどうやって展示されるのか~
日  時:2024年1月30日(火)14時~16時
会  場:神奈川大学みなとみらいキャンパス 1F体験展示コーナー
講  師:宍戸亮介、相馬洋平、渡邊瑛理奈(日本通運株式会社関東美術品支店)
受 講 者:9名(内訳:旧伊勢屋質店台帳プロジェクトメンバー4名、神奈川大学国際日本学部学生4名、神奈川大学外国語学部英語英文学科1名)


 このワークショップに旧伊勢屋質店台帳プロジェクトのメンバーとして参加しましたので、そこで学んだことを以下に記します。

美術品や文化財の運搬

 美術品や文化財は代替の利かない、かけがえのない文化的財産です。それらの美術品や文化財は、所有権が移動した際、調査や研究、修復のために、また普段我々が美術館や博物館で目にすることができるように展覧会で展示するために運搬されます。この美術品や文化財を運搬し、所有者と行き先とを結ぶ仕事を、日本通運株式会社関東美術品支店さんは担当しています。かけがえのない文化的財産を扱い、ミスがないように大切に扱うことが求められる重要な仕事です。
 美術品や文化財の運搬には、車(美術品専用車)、飛行機、鉄道、コンテナ輸送の4つの方法があります。もちろん、運搬の際には運搬物の状態や、安全性、スピードなどの状況に応じて、学芸員とともに細部を考慮し適切な運搬方法で美術品や文化財は運搬されます。展覧会の会期が終了しても、今度は持ち主へ返却するために運搬し、細心の注意を払いながら借用した時と同じ状態で完璧に運搬されるのです。

美術品や文化財を扱う際の心得

 美術品や文化財を運搬するためには、まずは運搬物の状態について徹底的に確認し、その後、運搬の際に壊れないように梱包する必要があります。美術品は繊細であるため、扱い方を知らなければなりません。
 扱う前に美術品の基本的な取り扱いの心得があります。モノの性質や特徴について正しい知識を身につけること、愛情や真心を入れること、時計やピアスなどの装飾品を外すこと、胸ポケットに物を入れないこと、作品の近くではボールペンやマジックの使用は禁止といったものです。それ以外にも美術品を損なう可能性がある行為は起こらないように注意しなければなりません。
 今回のワークショップでは、まず日本通運株式会社関東美術品支店において実際に美術品や文化財の運搬に携わってきたプロの講師の先生方より、この美術品や文化財の運搬や心得について教わりました。そして、実際に掛け軸や巻物(巻子)等を教材として、プロの講師の方々よりその「包む、結ぶ、運ぶ、展示する」技術を学び、実践を行いました。

掛け軸の扱い方を学ぶ様子
実際に掛け軸をかける様子
巻物(巻子)の扱い方を学ぶ様子
実際に巻物(巻子)を扱う様子
仏像の梱包、梱包時のひもの結び方を学び実践する様子

ワークショップから学んだこと

 実際に経験してみて、様々なリスクを考えながら作業するという難しさを感じることができました。今回は教材用の複製で扱い方を学びましたが、実際の掛け軸や巻物は1つひとつ同じ材質、状態とは限らないためより細心の注意を常に払いながら作業しなければなりません。そうした時に、知識、扱い方を知らなければ大切に扱う事ができません。美術品、文化財を大切に扱うということは何かということについて実践を通して学ぶことができました。
 今回のワークショップでは、まず講師の先生方からこのような美術品や文化財を扱う基本的な心得や技術を教わりました。その他にも講師の先生方は随時質問に答えてくださり、仕事のエピソードなどもお話くださいました。そのなかで特に印象に残ったのは、講師の先生方から聞いた土器運搬のエピソードです。埋蔵文化財の土器は割れた状態で出土することがほとんどで、それを土器の形状になるよう接合、補強して収蔵されています。ある意味ではもともと壊れている土器に対し、どうやったら圧力がかからないで梱包ができるのか、壊れないように運搬するにはどうしたらよいのかを考えて作業を行うということでした。このお話からは、美術品や文化財を扱う際の緊張感や怖さ、その中で確固とした技術と状況に応じた工夫によって美術品や文化財を扱う姿勢が伝わりました。
 さらに、普段我々が目にする博物館や美術館の展示の裏側では、展示される美術品や文化財に真剣に向き合い扱う多くの人々が関わって成り立っていることがわかりました。今回のワークショップでは、そういった美術館や博物館の裏側でおこなわれている業務について知ることができるとても良い経験となりました。

(歴史民俗学科2年 中川大資)


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