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自分たちが主体となった講演会を終えて~コース演習(文化交流)講演会レポート

2022年11月25日(金)に開催された講演会について、学生がレポートにまとめました。この報告書は来年3月に刊行される人文学会の学生部会誌『PLUSi』に掲載されますが、学部noteで先行発表します!(編集部)

国際日本学部 国際文化交流学科 二年生
文化交流コース 蒲谷 舞羽
高橋 瑠花
荒木 陽与里
佐々木 陽香

 11月25日、マンガの日英翻訳家として活躍されている木村智子さんによる講演会が本学で行われた。この講演会は、国際日本学部国際文化交流学科の文化交流コースの「コース演習」という必修授業の中で、「みんなで選ぶ」講演会として企画されたものだ。これは「文化交流」・「多文化共生」というテーマのもと、60名の履修学生が小グループに分かれて講演会の企画を立てて、コンペ形式でプレゼンテーションをするという学生主体の企画である。私たちのチームは木村さんを講師とした講演会の企画を立てた後、コンペで15チームの中から一位に選出され、「マンガから見る文化交流」というタイトルで講演をして頂くことになった。

 私たちは、今回の講演会についての最初の話し合いで、「学生全員が、楽しみつつ学べるトピックって何だろう」というところから様々な案を出していった。全員に馴染みがあり、なおかつ「文化交流」というテーマに合うとなると中々難しく、長いこといい案が浮かばなかった。そのようなとき、グループのメンバー全員が共通で知っているもの、そして身近なものが見つかった。それが「マンガ」だった。近年、日本のマンガは世界でも高い人気を誇る文化の一つであり、様々な言語に翻訳されている。

 話し合いを進めていくうちに、海外と日本ではマンガ内の描写や表現に違いが出てくるのではないかという疑問が浮かんだ。例えば、日本語には諸外国に比べてかなりの数の擬音があるが、それを翻訳する際に対応する現地語がなかったらどう翻訳するのか。また、日本語には何種類もの一人称がある(私、俺、僕など)が、英語には「I」しかない。このような場合にはどのように訳し分けをしているのか、というような疑問である。そして、恐らく海外と日本では、翻訳したマンガを出版する際、アニメでいうならば放送する際の規制やルールが違い、そのような各国の規定や独自の表現方法を用いることで、誰もが楽しんで読める・見られるのではないかと思い至った。だが、私たちだけではそのルールや表現方法が分からない。そこで、私たちは日英翻訳家である木村智子さんにお話を伺う運びとなった。

企画担当者による講演者紹介

 木村さんは2004年からマンガ翻訳家(日英)として活躍しており、2019年からはゲーム翻訳家(英日)として活躍している。そして現在は『黒執事』や『かぐや様は告らせたい(共訳)』をはじめとする多くの作品を担当している。

 木村さんは私たちにマンガを翻訳する上で様々なコツや決まりがあることを教えてくれた。英訳マンガはアメリカの出版社が出版しているため、アメリカ英語を用いて英訳する必要があること、セリフを訳すときは作品の雰囲気やキャラの個性(性格、性別、年齢)を考慮しながら英語表現を選ぶこと、作品のジャンルに合わせた言い回しや表現を使い分ける必要があること、擬音は出版社独自の訳し方があるが、新しい擬音の訳を作り出すこと、さらに一人称を訳すときには人称ではなく他のところで工夫をしてキャラの個性を出すことなどである。また敬称を訳すときは日本語をそのまま使用したり、英語では訳しにくい日本語は訳注を設けたり、英訳をアレンジしたり英語で通じる訳を作ったりなど様々な工夫がされている。マンガは文字と絵を組み合わせた表現であるため、セリフを字面通りに英訳すると誤訳になる場合もある。そのため、英訳するときに上で述べたような方法を用いて英訳することで読み手がセリフを正しく解釈することができることを私たちは学んだ。

講演者の木村智子さん(右上)

講義の中ではクイズの時間も設けて頂いた。実際に自分で考えることで、翻訳はキャラクターに合わせて様々な工夫がされていることが分かった。同じ単語でも、アメリカで使われている意味と日本で使われている意味が違うものがあることを知って、一つ一つの言葉の意味をきちんと考えることが翻訳の大きなポイントであることが分かった。また、日本のマンガとは異なりアメリカのマンガには年齢制限が細かく分けられていることも学んだ。この制限は出版社ごとに異なるが主に4つの年齢層によって分けられている。年齢制限なしでは、少し悪い言葉は許されるが罵る言葉は許されず、13才以上の制限でも悪い言葉遣いはたまにしか出てこない。16才以上の制限でようやく悪い言葉が頻繫に登場し始め、血が出るような暴力も描かれるようになる。18才以上の作品になると日本では年齢制限なく当たり前に読んでいる作品と同じように、大きな制限はなくなる。日本のマンガでは厳しい年齢制限はないがアメリカでは子どもへの影響を考え制限が厳しくなっている。さらに、宗教が関わる翻訳は言葉をうまく言い換えて、違う文化の人々にも伝わりやすくなるように工夫されている。例えば、日本の神社が舞台のマンガでは、日本の「神様」はキリスト教の「god」とは違う存在だということをはっきり伝える必要があるという。こういった内容を註釈で説明をすることで、マンガを通して日本の文化を伝えることができるのだそうだ。

質疑応答。ノートをとりながら熱心に聞く学生たち

 今回、木村智子さんの講演から私たちは様々なことを学んだ。キャラクターの個性を英語でも再現するとおっしゃっていたが、この点は私たちが今後文化交流をするにあたってとても重要なことだと感じた。ただ相手の文化を理解するだけでなく、相手の文化を考慮しながら自文化を保つことこそが、本当の文化交流であるからだ。特に私たちは「キャラクターの個性ある話し方までも英語で表現している」「語尾に特徴があるセリフや、一人称の違うキャラクターのセリフを、個性を崩さず表現している」という点に関心を持った。声のないマンガであってもそのように表現し、一人称の違いや語尾の特徴など英語の文法では少々難解な部分もなるべくオリジナルに合わせて翻訳する作業は単なる言葉の翻訳にとどまらない文化の翻訳である。翻訳に携わる人はもちろん、異文化交流していく中で今回学んだ考えは活用できそうである。

*本記事は神奈川大学人文学会が発行する学生部会誌『PLUSi』19号(2023年3月刊行)にも掲載されます。

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