失い、削れて、あったもの。
2024年8月の猛暑。
長年愛用していたPCが壊れてしまい充電がまったくできなくなってしまった。
さて、そのことに気付いたのは、幸か不幸か。
私が初めて自分自身の本。
つまり、画集作りを完成させた日のことであった。
慌てた私はクリップスタジオに保存していた今まで描いてきたイラストや原稿データを外部メディアに保存した。
さあ、これで大丈夫だ!!
と思ったのだが……。
一体何が起きてしまったのか。
クリップスタジオ自体が、勝手にアップデートを初めてしまったのだった。
それに伴い、私が約8年かけて模索し、調整して、あーでもない、こーでもないと頭を打ちつけながらようやく自分の理想とするペン達をつくってきたのに…。
それが全て消えてしまった。
ペンだけではない。
調整した筆ペン。トーン削り用の消しゴム。
掠れさせたい時に使うベタ用の筆。
コマ枠の線幅設定。
空や森のトーン。
フォントや行間幅やルビ設定。
私の拘りを突き詰めて保存していたあらゆるものが全て、消えてしまった。
もしかしたら、外部メディアに保存したデータも本当に保存できているかもわからない。
データが開かないかもしれない。
そう思った瞬間、私は───
絵を描くことを、創作することをやめた方がいいと目には見えない存在。
例えば、神様や仏様に言われているのだろうか?
と、思ってしまった。
ここで、私の創作活動の経歴について紹介する。
私は絵を、創作活動を続けて、かれこれ20年以上になる。
さて、この20年以上の間に何か成し遂げたことはあっただろうか?
何もないと言っていいだろう。
強いて言えば、市の宣伝ポスターで佳作を受賞し、学校のパンフレットの表紙をデザインしたくらいだ。
しかし、どちらも選ばれた理由は
〝今までとは違う変わったデザインにしたかっただけ〟
〝クオリティーやデザイン的にも谷崎さんじゃない他の方の方がいいけれど、変わったデザインを描いてきたのは谷崎さんだけだから〟
と言った理由で選ばれただけなのだった。
実力は今も昔も全く、ないのである。
そのような過去をPCが壊れたことで瞬時に掘り返してしまった私は、
もう、やめた方がいいのかな……と、弱い音が出てしまった。
そう思いつつも新しいPCを購入したわけなのだが…。
さらに追い討ちをかけるかのように問題が発生した。
私は今までWindows 7を使用していたのだが…
新たなPCのOSはWindows 11なのである。
そうだ。
スキャナーが新たなOSに対応されていないのだった。
スキャナーが使えないのは困る。
絵の下書きはスケッチブックに描いて、スキャナーで取り込んでクリスタでペン入れをするのが私の創作スタイルなのである。
PCだけではなくスキャナーまでも……。
嵩む出費。
私が大切にしてきたもの達が強制的に壊れて、失い、更に削れていく。
私は自分の作品作りに必要な全てを失ってしまったのだった。
積み上げてきたものが全て崩れていき、無かったことになってしまった。
さて、さて、さて。
これからどうしていくべきか…。
新たなスキャナーを買えばいいだけだろう。
そうなのだ。
しかし、そういうことではないのだ。
気持ちの問題なのだ。
新たな道具を手にした時に、次の10年をどのように生きていこうか。
という、心の問題なのだ。
出来上がった画集を開いてみる。
ふむ……。
悪くは、ない。
寧ろ、好きだ。
うん。うん。うん………。
話が変わるが、私は昨年、50代のパートさんからこのような言葉を職場で言われてしまった。
その方はフィリピン人で、祖国には妹さん達と一緒にお母様も住んでいる。
しかし、年々、身体が弱っていき「早く死にたい」と弱音を吐くお母様の姿を見るのが苦しいという。
そんな心のうちの話を聞いていた時に言われた言葉である。
「谷崎さんにはお母さんがいないから、こんな話をしたって辛さがわからないでしょ」
と言われた。
私が創作を続ける理由は、いつだって、そこにある。
愛を描くのだ。
男女や異性。
または何者かたちの性的な愛。
恋愛を描く───というわけではない。
命と命の間に生まれる愛を描くのだ。
その間には時として摩擦が起きて、化学反応が起き、寂しさや苦しさ。孤独感が生まれる時もあれば、柔らかく温かな気持ちになることもあるだろう。
分かり合えないと怒りを感じたり、お互いの違いに驚くこともあるだろう。
他者と比べて、自分はなんてちっぽけなんだと感じる虚しさもあるだろう。
自身と他者の間に生まれる愛。
つまり、私は、心を表現していきたい。
〝谷崎さんにはお母さんがいないから、こんな話をしたって辛さがわからないでしょ〟
私はこの言葉の返事を漫画で絵描きたい。
物語にしたい。
画集を閉じる。
新しいPCとスキャナーは揃った。
さて、次の物語を描こうと、弱い音を美味しくいただいた。
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