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人生最後の日にガッツポーズして死ぬために、今、何をする?

ある本の命が消えかかろうとしていた。
そんな瞬間に直面した。

どうしよう、このタイミングで絶版だなんて。メールの文面を見て焦る。目の前の文字が揺れて崩れていくような錯覚に陥った。3月だというのにひどく寒かった。

私達は4月に、とある作家の講演会を企画していた。メールはその会場で書籍販売の委託をお願いしている書店の担当者からだ。確保をお願いしている本の在庫が版元になく、各書店においてある分で終わりになるらしい。

問い合わせをもらった時点で、既に参加のお客様から3冊の予約が入っていた。最低限、その分だけでも確保しなければいけないのに……!

その本のタイトルは、

『人生最後の日にガッツポーズして死ねるたったひとつの生き方』
著者は、ひすいこたろうさん。

私は、この後、奇跡の目撃者になることを、その時点では、知らない。



メールには、他店舗の在庫をかき集めればどうにか3冊は確保できると思う、と書いてあった。しかし、店舗に保管されている本だから、状態が良いかどうかまでは保障できないらしい。

せっかく予約してもらったのに状態の良くない本は渡したくないので、私達の方で手配しますね、と軽く考えて返事をした。

でも、在庫の状況は思ったよりも絶望的だった。主催仲間の1人がアマゾンで確認した時には、在庫は4冊あったらしい。でも、その2日後、私がアマゾンで注文しようとした時には、1冊しか残っていなかったのだ。楽天は既に在庫切れだった。

こんな勢いで売れる本なのに、絶版になるの?
手配できなかったらどうしようと青ざめながら、連絡をくれた書店にも頼んで、どうにか3冊を確保した。

これが出版業界の世知辛さなのか。
歯がゆかった。悔しかった。
この本は、私にとって、ひすいさんの著書の中でも特に思い入れのある一冊だからだ。

ひすいさんの講演会に初めて参加した時に、この本が最新の著作だと勧められて購入した。講演ではこの本の話題が多く取り上げられていていたから、読むのが楽しみになった。帰り際、売り切れていて残念がっている人達を横目に、ひすいさんにサインをしてもらってホクホクと帰途についたのを覚えている。

でも、そのあと、しばらく本を読むことができなかった。当時小学5年生だった息子が、この本が面白いといって、何度も読み返していて、なかなか本を返してくれなかったからだ。ようやく返してもらって、読み始めると、彼が夢中になって読んだ理由が分かった。

まず、タイトルだけでものすごく惹かれる。

人生最後の日にガッツポーズして死ねるたったひとつの生き方、それがあるならめっちゃ知りたいし、そんな風に死にたい。すごくない? ガッツポーズして亡くなった人なんか見たことないもの。

ワクワクしながら書籍のプロローグを読んでいくと、幕末と現代は、伝染病が上陸したり、大地震がきたりと非常に似た状況だと触れられている。混乱している日本でどんな生き方をしたらいいかのヒントは幕末にある。この本の5人の主人公が、日本を動かしていくエピソードにどんどんのめり込んでいく。幕末をただの歴史にしない、歴史を振り返りながら、自分の未来の生き方をシフトチェンジしていこうと誘ってくれる内容なのだ。

しかも、読み終わった後に、面白かったな、だけで終わるだけの本ではない。この本は行動を起こすためのスイッチがついている。

各章の終わりにワークが入っていて、書き込んでいくと、読み終わった時には新世界のニューヒーローになるための羅針盤が出来上がっているという仕掛けなのだ。

私だけでなく、世代の違う息子も夢中になった本なのに、絶版になってしまうなんて残念過ぎる。明るい未来が途絶えてしまうような気すらした。今の時代にこそ必要な本なのに、まだたくさんの人に手に取ってほしいのに!

何か自分にできることってないんだろうか?
自分の無力さを感じた。やっぱり、私にできることなんて何もないじゃないか。

そんな風に感じていたある日、主催仲間から連絡が来た。4月に入って、春の風があたたかくなっていた。

「ラスガツが増刷されるんだって! 書店に入荷していたら講演会で売ってほしいって!」

メッセージの文面が興奮で揺れていた。

ラスガツとは、『人生最後の日にガッツポーズして死ねるたったひとつの生き方』の愛称だ。なんと絶版目前で、あんなに探し回って手に入れたのに……。苦労して探したのに、結果、無駄足になってしまった。もう少し早く決まっていれば焦らなかったのになあ、と苦笑いしつつ、書店担当に連絡をした。

「わかりました! 在庫が確認できたので、50冊持っていきます」
書店担当が張り切って手配してくれた。でも、その50冊という数字を見た時に、私は怖気づいてしまった。

当日、来場するのは130人弱。ひすいさんの講演会の常連もいるからその人たちは既に本を持っているだろう。それなのに、50冊も売れるのかな……売れなかったらどうしよう。

いや、なるようにしかならない。今、私ができることと言ったら、SNSで事前に宣伝することだけだ! できる手は打って、緊張しながら、講演会当日を迎えた。

講演会の最後に、ひすいさんがラスガツの話を取り上げた。

ラスガツは、歴史が好きではない人たちにも届いてほしいと5年かけて書き上げた新境地を切り開いた作品で、何度読み返しても自分でも涙が出るくらいなんです。

ひすいさんは、そう前置きをして続けた。

「今回、在庫限りで絶版の危機になったのだけど、どうしても増刷になってほしかったんです。頼みごとをするのは苦手だけど、色んな所で、買ってください、読んでほしい、と頼んだのです。そうしたら、増刷してもらえることになりました」

なるほど、だから、あの時に、アマゾンであっという間に在庫が減ったんだ! そして、ひすいさんに直接頼まれたわけではなかったけど、私達が走り回って3冊の在庫を確保したことも、ほんの少しだけでも、ラスガツ増刷のお役に立つ流れに乗れたんじゃないか……。

私達一人ひとりの行動はささやかだけれど、目の前の仕事に精一杯取り組んでいたら、知らない間に、誰かの奇跡の役に立てることもあるんだ。

講演会の後、増刷されたラスガツは、なんと45冊も売れた。

絶版の危機から、増刷になり、今回売れた45冊から、人生の最後にガッツポーズをして死ねる生き方を目指す人達が沢山出てくるだろう。

『人生最後の日にガッツポーズして死ねるたったひとつの生き方』の消えかけていた命の火が、私達の気持ちを追い風に、どんどん大きくなっていくのを目撃することができた。

万雷の拍手で終わったひすいさんの講演の余韻に浸りながら、これは、私の人生最後の時にガッツポーズできる1シーンになるな、そう確信した。

私は、これからも、自分の目の前の仕事を、やれることを一生懸命やっていけばいい。人生、派手なことばかりではない、人の目に触れないことも多い。でも、やれることをしていけば、自分の人生をガッツポーズして終えられる。そして、そんな人たちが沢山増えたら、時代はきっと大きく変わる。

ラスガツには、人生最後の日にガッツポーズして死ぬためのヒントが沢山あります。
人生最後の日にガッツポーズして死ねる生き方を、見つけてみませんか?

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