文春に追われた推しを思う 〜まことお兄さん〜

また、文春砲が爆音と共に獲物をブチ抜いた。
その気の毒な獲物は、【おかあさんといっしょ】に体操のお兄さんとして出演する、今の私の最推し、福尾誠さんだった。

あの日の早朝、何の気無しにインスタを開くと
まことお兄さん推しで有名なアカウント【ギラギラ忍者】さんの異様な投稿が目に飛び込んできた。明らかに取り乱している。
具体的な記載は無いものの、文春砲、推しの文春…不穏な言葉が並ぶ。
まさかと思いつつ、即検索をかける。

「スクープ撮!お父さんになった、たいそうのお兄さんを直撃!」
一瞬で、思考が止まる。そして、雷に打たれたような衝撃、指をスクロールさせ、思考停止中の頭で羅列した文字を眺めて
いく。次に心に広がったのは、言いようのない、静けさだった。

とりあえず、スキャンダルでは無かった。
いや、というか、えっ、結婚、子供?
私服姿のお兄さんの、記者と向き合う姿…また、奥様と思われる女性と愛車のBMWに乗る姿、歩く姿…。
記事の内容もあやふやなまま、とりあえず吐き出したくて親友にLINEをし、続けてストーリーズに投稿する。小一時間もせぬ間に、10名以上の友人から反応があった。

夫の弁当や朝食の準備をしながら、頭を整理しようとするが、心がついてこない。いつもは流す早朝のラジオも今日はかける気がしない。
ただ、ただ…まことお兄さんが、まことお父さん……?

もうすぐ、今朝の【おかいつ】が始まる。いつもならとっくに目覚めている娘も、昨晩の夜更かしのせいか起きてこない。
一人ソファに腰掛け、リモコンのスイッチを押す。
7時45分。これまで何百回聴いたか分からない、あの音楽と共に番組が始まる。
みんな、げんきー?
はーい!
お馴染みのお兄さんお姉さんたちの満面の笑み。この世の幸せを湛えるかのようなその表情。一方、それを薄暗い部屋で画面越しに見つめる、能面のごとき顔をした私。
紫のコスチュームを着たまことお兄さん(紫の時は毛先遊ばせる系ヘア高確率)が画面に映し出された瞬間、いたたまれない気持ちになり、テレビを消した。見ていられない。

気を取り直し、娘を起こした。寝起きは必ずグズる彼女をなだめつつ、再びテレビをつける。ちょうど、今月のうたが流れていた。娘はテレビ画面を凝視し、だいぶ機嫌がよくなってきた。

改めて、凄い番組だなと思う。
60年も続く大人気番組について、私のような新参者があれこれ語るのはおこがましいので控えるが、おかいつの一番の素晴らしさは、その世界観を決して崩さないことだと思う。どのコーナー・登場人物・セリフ・音楽をとっても、「おかあさんといっしょ」なのである。現実世界ではないのだ。(そういう意味で、夢の国と通ずるものがあると思う)
そんな世界の中で、演者の方々は完璧な「うたのお兄さんお姉さん」「体操のお兄さんお姉さん」を演じ切る。そのキャラクターが魅力的なのだ。汚れなき笑顔とユーモラスな立ち振る舞いで、子供心を鷲掴みにする。そして、あくまでそのスタンスは保ちつつ、時折「素っぽい」一面を覗かせるのも、大人目線には面白い。(ex.シルエット博士、そうぞうの部屋)

その一員である、まことお兄さんのルックスは歴代のお兄さん方と比べても異色だと思う。
凛々しい眉、切長な目、長く通った鼻筋、薄い唇(口元のホクロと下の歯並びがチャーミング)、九頭身、長い首、同じく長い手足、小さなお尻、そして、筋肉隆々の腕!!
どう見てもお母さんウケを狙ったとしか思えぬこのビジュアル、私も見始めた当初は
お兄さんぽくないなぁ、顔キツめだよな、目が笑ってなくない??
などと思っていた。それがすっかり今ではこの有様。

彼の魅力は、無垢な立ち振る舞いだと思う。
対子供の大人の表情や口調は、ともすると胡散臭くなりがちである。彼の所作のひとつひとつに、それは微塵も感じられない。

一方、ゆういちろうお兄さんには胡散臭い表情が垣間見える瞬間がある。いやしかし誤解してほしくない、彼のこの、【ちょっとした胡散臭さ】は魅力のひとつであるし、何よりそれを気にさせない愛嬌と表現力が最強の武器だ。

話を戻そう。

まことお兄さんの所作、表情、子供に向けられる目線、そのどれをとっても、彼は完璧なる「体操のお兄さん」なのだ。だからこそ子供たちはテレビにかじりつくし、お母さんたちは心を鷲掴みにされる。

テレビの中のお兄さんは、普段どんな生活をしているんだろう。
夢と希望に満ちた職業、言わずもがなスキャンダルはご法度。旅行も運転もだめって本当かしら?恋愛もダメよね?アラサー男子には辛いよね。NHKの契約社員らしいし、きっと慎ましい生活をしているに違いない。一人暮らし、ご飯はちゃんと食べているの?あぁ心配。でも、きっとご両親は息子さんのご活躍、鼻が高いでしょうね…。親孝行な誠…。

そんな想像をしつつ、いやでもお兄さんはあくまでお兄さん、プラベなんて知るべきではないのだキャッホ!とテレビの中の彼だけを見つめていた。

それが何だ、この報道は。

家に帰れば愛する妻、子供達(双子とのこと)。彼を温かく包み込みサポートする、支えの存在。愛車はBM(Xシリーズか?)。

今まで私の中で作り上げてきたまことお兄さん像が、音を立てて崩れ落ちていく。

私の心に広がる悲しみの理由がわかった。
裏切られたような心地なのだ。

これじゃない、私の好きなまことお兄さんは、こんなはずじゃない!!

そんな思いで、半日を過ごした。
もう一度、ギラギラ忍者さんのアカウントを開く。コメント欄を見ると、彼女を心配し、また自身の気持ちを吐き出すため、たくさんのフォロワーがコメントしていた。
その内容は概ね、今回の報道に衝撃は受けたものの、まことお兄さんの好感度は上がった!というもの。
何故みんな、受け止められるのだろう?あたしの心は汚れているのだろうか?

ふと、蘇ってきた言葉がある。
女優の芦田愛菜さんが舞台挨拶で仰ったこの言葉
「人は『裏切られた』とか、『期待していたのに』とか言うけれど、別にそれは、『その人が裏切った』とかいうわけではなくて、『その人の見えなかった部分が見えただけ』であって、その見えなかった部分が見えたときに『それもその人なんだ』と受け止められる、『揺るがない自分がいる』というのが『信じられることなのかな』って思った」

16歳とは思えぬ発言が話題となり、私も大きな衝撃を受け心に残っていたのだ。
今回の件とは勿論違う意味で話されているものだが、通じるものがあると気付かされた。

私が今、裏切られた、と感じているのは身勝手な想像で作り上げたまことお兄さん像と、報道での福尾誠さんの姿に大きなギャップを感じたからである。

プライベートの福尾誠さんがどんな暮らしをしていようと、彼が非の打ち所がない体操のお兄さんであるのは事実、今日も彼の笑顔は眩しい。それは、彼自身の人柄と努力で築き上げた「まことお兄さん」なのである。
そして、私が夢中になっているのも、その「まことお兄さん」なのだ。
そう思い至った瞬間、裏切られたように感じてしまっていた自分を猛烈に恥じた。何て、何て身勝手なことを考えていたんだ!
【福尾誠さん】は、今とても幸せなんだ。そして【まことお兄さん】は、いつでも私たち親子に力をくださる。それで十分じゃないか!
何より、まことお兄さんがまことお兄さんでいられるのは、家族の支えあってのことではないか!僻んでどうする!

胸に刺さった棘がポロリと取れたような感覚がした。

夜、娘を寝かしつけたそのまま、ベッドで再び文春オンラインを開く。今度は冷静に、一言一句を噛み締めるように読む。

…何て素晴らしい方なんだ!教育論、いち社会人としての仕事への姿勢、熱意。先代から続くお兄さんを全うする覚悟…ひとりの大人として、尊敬せずにはいられなかった。こりゃ好感度上がるわ。

そしてようやく気づいた、私が怒りをぶつけるべきは、この憎き文春、センテンススプリング。
プライベートにずかずか土足で踏み込み、失礼千万、下劣で卑劣、品のない質問!(丁重に対応する誠さんのお人柄たるや…)
おのれ許すまじ文春、誠さんの私生活を脅かす悪魔!!
彼がこれまで血の滲むような努力や苦悩の中築き上げてきた「まことお兄さん」像を平然と踏みにじった悪の権化!!!
世のお母さん達の夢を打ち砕いた腐れ外道!!
オメェらは人の心を持ってねぇのか!!
これ以上人の心を傷つけたらまじでユルサネェカンナーー!!


…ただ、私服姿は恐ろしく男前だったし、「あづき」呼びのお土産は何ともキュンであった。(超小声)

私の心に嵐が吹き荒れたこの日、リアタイと録画で5回はおかいつを見た。娘はからだダンダンで踊り狂ってご機嫌だった。
有難う、まことお兄さん。あなた抜きの子育ては、考えられない。

最後に、最近読了しばかりの「推し、燃ゆ」の一節を引用させて頂きたい。

【病める時も健やかなるときも、推しを推す】


この日以降、まことお兄さんの勇姿を拝見するたび
「このビジュアルで妻子持ちかよ……ゴクリ」
と、色んな妄想と共に妙な興奮を覚えているのはここだけの話である。

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