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ひろがるスカイ!プリキュアショー!【後編】

いよいよショーが始まった!
不穏な音楽と共に登場するバッタモンダーとランボーグ。ご存知無い方の為に補足すると、まぁ要は悪役です。どうやら今日も、ろくでもない事を企んでいる様子。食い入るように見つめる長女、客席にも緊張感が。

そしてあの音楽と共に現れた、ヒーローガール・プリキュア!会場のボルテージも急上昇である!

しかし、わたしの心の第一声は、
「こ、これで良いの…?!」
アニメのビジュアルをそのまま着ぐるみにしてある。まず、恐ろしくガタイが良く、でかい。たなびくボリュームたっぷりのロングヘアは彼女らの強さ美しさの象徴だが、それを3次元にもってくるともうアレよ、わたしの頭に浮かぶのは【なまはげ・ヤマンバギャル・歌舞伎の連獅子】よ。
とにかく恐ろしく、我が子のプリキュアへの思いが打ち砕かれるのではないかと思えて仕方ない。泣きやしないだろうか。わたしは今ちょっと涙が出そうだよ。
さて肝心の長女はというと、
「プリキュア!バタフライ(キャラ名)いるよ!スカイも!」
と、輝く瞳でこちらを振り返る。抱っこの次女も興奮気味に指差して、何か言っている。純粋無垢な魂を持つものには、ちゃんとプリキュアに見えるらしい。
良いんだ…これで…。心底ほっとした。そして彼女らの笑顔を嬉しく思った。あんたの最推しのキュアバタフライ、めっちゃ腹出とるけど…。
ストーリーはどんどん進む。いつも通りの水戸黄門的展開ではあるが、ちゃんとアニメ1話分くらいの内容。バッタモンダーの策略により、一度は揺らぐプリキュアたちの友情も無事に元通り。

そして、一番の盛り上がりは戦闘シーン!アニメを見て思っていた事だが、可愛い衣装の女子が戦いにのぞむという趣は、女子プロレスに通ずるエンタメ性があるのでは。そんな見事な戦いっぷりである。が、それに勝る衝撃は、女児らの盛り上がりである。

「頑張れーー!プリキュアーーー!!」
「やっつけろー!」
「わーわーわーーー!」

熱狂している、目の前の肉弾戦に…。古代ローマ人が、コロセウムで命をかけた血生臭い決闘に大興奮したように…、スペインの人々が、闘牛士が鮮やかな身のこなしで荒ぶる雄牛を仕留める光景に熱狂するように…。人間には、戦いを求める本能があるのだ。目の前の女児たちは、それを証明するかのように歓声を上げ続ける。血湧き肉躍る戦いに、心を燃やしている…。

がんばれー!プリキュアーー!やっつけろーおぉおおおおお

一途な彼女らの声援に胸が熱くなる反面、うすら恐ろしさも感じる。娘を含む、女児らの【血のたぎり】に圧倒され、わたしはもうプリキュアどころではなかった。いえ、彼女らは懸命に正義を応援しているに過ぎないのですよ、分かってます…。

血に飢えたギャラリーによる力の限りの応援もあり、プリキュアたちは今回も無事、世界の平和を守り抜いてくれた。本当に良かった。子どもたちも嬉しそう、ありがとうプリキュア。

続けて、写真撮影会だ。受付でもらった整理券の順に呼ばれ、ヒーローガールたちと一緒にパシャリ、光の速さで終了の流れ。後ろの親御さんの手元をチラと見ると78番とか。100組近い親子がこの場にひしめいているのだ。

少しずつ人がはけ、風通しが良くなった。改めて周囲を見渡すと、三角コーンで仕切られた観覧エリアの外側にも、多くの人がいることに気づいた。受付で整理券をもらえなかった、つまりこちら側に入ることを許されない…そう、【大きなお友だち】である。
キャラ物のアイテムを大量に身につける方、ぬいぐるみを持つ方、中には三脚カメラを携える方もおり、その情熱に恐れ入る。仲間内での交流も見られる。わたし達の後ろに並んでいた女性もあそこにいるのだろうか。
女児と大きなお友だち、普段は相容れないふたつの世界が混じり合う混沌とした空間はやはり異様。プリキュアへの愛は、こちら側の世界と変わりなかろうからそこは尊重したいが、やはり幼女を持つ親としては複雑な心境であるのが本音…。(本当にすみません、偏見はよくないが…)

さて肝心の写真撮影だが、スタッフのみごとな捌きによりどんどん人が流れていく。このスタッフというのが、いやあんたらさっきまでバッタモンダーとランボーグの【中の人】でしたよね?と確信できる体型と汗だくっぷり、それを微塵も隠そうとしない潔さにむしろ感動さえする。彼らの手慣れた誘導により、あっという間に47番、我々のターン。
ヤマンバ・プリキュア達を目の前に、次女は何が何だか状態、長女はガッチガチ。一瞬で終わった「最推し」との触れ合いだが、感極まった長女は頭が真っ白らしく「終わったよ、行くよ、行くよ?!」とわたしが声をかけても数秒、ガチガチの笑顔とピースのまま固まって動けずにいた。笑えた。

各モデルハウスでは、客寄せとしてプリキュアグッズをばらまき見学へ誘導している。案の定、長女がごねだした。さすがに冷やかしは気が引けるので、(本当に甘いと自覚しているが)ショーの物販で「プリキュアのサイン入り色紙」を買ってあげることにした。1枚400円という絶妙な価格で売られているコレ、プリキュアのサイン入りという代物とはいえ、まさか【ヤマンバ】の中の人でも、ましてや【cv.】の中の人でも無い、ぶっちゃけ、どこの馬の骨が書いたか分からんサイン色紙だ。でもまぁ記念になるか、と売り場へ行くと、うちの子たちより少し歳上の姉妹がそこで後ろ髪を引かれている。両親は困り顔で「もう行くよ、買わないよ」、物欲しげな姉妹に対し、売り子のオヤジがニヤニヤしながら「買ってって頼みなよ〜」となどとほざいている。横から「すみません1枚お願いします」と頼むと、オヤジは「こっちはねバタフライがいるんだけど」と絵柄を見せてくる。じゃあそれで、被せ気味に言うわたしが小銭を準備していると、オヤジは長女に向かって
「でもこっちは、バタフライの代わりにエルちゃんがいるんだよぉ」
わたしは心底不快だった。

やっと車に乗り込む。エアコンの風にホッと一息ついた。楽しかったねバタフライいたねスカイも!声を弾ませ、マシンガンのように感想を言い続ける長女、謎サイン色紙を片手に上機嫌だ。
身も心もヘトヘトなので、寄り道してコンビニでアイスを買うことに。すると会計中、長女がめざとく、プリキュアのうちわ!と、レジ横に並ぶソレを見つけた。そして例のごとく欲しい欲しいと言い出す。意図ある陳列にウンザリのわたし。

「でも長女ちゃんは、さっきプリキュアのサインのやつ買ったでしょう、うちわが欲しいなら、あれは返さなきゃいけない。サインかうちわか、どっちかひとつなんだよ。どうするの」

よくもまぁこんなにすらすらと嘘を並べられるものだと、自分でも感心する。数回の押し問答の末、うちわを諦めさせる事に成功した。一部始終を見ていたレジのお兄さんは、何を思ったろうか。

車内に戻った我々は一心不乱にアイスに食らいつき満足、ようやく帰宅したのだった。ほんと、みんなお疲れ。例の色紙は、ほっといたらどうせ紙クズ扱いですぐゴミ箱行きになるので、課金した以上価値を与えるべしとわざわざ額に入れて飾ることにした。
かくして我が家には、【どこの馬の骨が書いたか分からんサイン色紙】が鎮座まします事となったのである。
それを見るたびに、夏空に響く女児たちの歓声が聞こえてくるような気がする。

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