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ソラノカナタ アナタノカケラ episode.0

【episode.0】

なにから

お話しましょうか。


はじめに覚えているのは………

虹のかかる滝のそば
ミルク色の日差し
原っぱの木陰
わたしの膝でまどろむあなた

わたしは
あなたの 銀色がかった虹色の
前髪が目にかからぬようにそっと指で除けた

あなたは眠りから醒め
サファイア色の瞳がわたしを探してこちらを見た

「夢を見ていたよ………」
少し潤んだ瞳であなたが言う。
わたしの腰に手をまわし、しがみついた。
わたしは肩や背を撫でる。
「長い長い旅の果てに
やっときみを取り戻す夢」
わたしの背を掴む拳に力が込められた。

あなたが"夢を見る"意味を
わたしは知っている。
わたしにもわかるから
『そう』とだけ言って
背を撫でた。


光のかたまりから飛び出して
ひとつひとつのカタチを得てふたりになり
"ひとつに"重なる喜びを知った、わたしたち。

この星の
この宇宙の
この世界のトキは 
流れていて終わりがないから
瞬きも永く
退屈は刹那だった

『離れても また逢えるわ。
そしてさいごは またひとつに還るでしょう』

呼びかけると あなたがわたしを見た。
深い あお。
いとしいいとしい碧色。
光の加減で 蒼から翠へと色が移る。

胸元で
同じ色の宝玉のペンダントが揺れた。

「きみだけを あいしている」

「この色に誓う」

ペンダントが淡く光った。
精神エネルギーに感応するその石は
あなたの魂の結晶。

『なら、わたしは その色を探すから』

『あなたの色に わたしの記憶の鍵を込めるわね』

ペンダントを握るあなたの手に
わたしも手を重ねた。
ぬくもりが溶けて どちらの指がわからなくなる。
わたしは この感覚がとても好きだった。


はじめのわかれは

たぶん

そう遠くない。

けれど 恐れてもいけない。
肉体と 時間を手に入れたからには
さだめという流れにのらなければならない。
最終的な理想が揺らがなければ 必ずそこへ 還るのだ。


お互いの かたちと
お互いの色と 音と
お互いの温度を 何度も何度もたしかめる。
細胞に魂に 
少しでも多く 記憶すために……


その場の 穏やかな雰囲気を歪め
ゴオ、と 空が鳴った。
船が彼方に見えた。
"オリオン"のシグナルが見えた。

起き上がったあなたの目が 険しくなった。

『おそれてはだめ、おそれないで。
おそれは ふしあわせを呼ぶから』

あなたの声は 悲鳴のようだったから
わたしのからだとこころがビリビリと感応して めまいがした。
あなたの肩に額をあて、身体を抱きしめる。

『わすれないでね』

『わたしが共鳴するのは あなたの"音"だけ』

『離れても、いつものように あなたに呼びかけ続けるから』

『だから 感じてね、わたしを……』

あなたの手が わたしの胸に
わたしの手を あなたの胸に
触れると同時に からだの内側から"共鳴"する。
目を閉じると  わたしはあなたの色を感じ
あなたは わたしの色を感じているだろう。

「きみは 光だ。白い光。髪の色と同じ」

『あなたは碧い。あなたの瞳の色と同じ………』



喉の奥が熱くなった。
きっと…………あなたも。


※便宜上、有名所の星の名前を使わせていただいておりますが
全くのフィクションです。
史実や出来事には関係ありません。





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