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合作による人事考課のすすめ

〇 はじめに
 上司が一方的に部下を評価する時代は終わった。これからは部下との合作により納得性の高い人事考課をすることが求められる。
そのためには、
・ 合作が可能な人事考課の仕組と仕方
・ 合作が可能な人事考課の活用方法
・ 合作が可能な上司・部下のレベルアップ

が必要である。
 
 特に、上司・部下のレベルアップが必要であるが、逆に「上司と部下の合作による人事考課」を目指すことで、上司・部下のコミュニケーションが良くなり、職場の活性化、さらには上司・部下のレベルアップにつながる。
また、納得性が高まることで上司と部下の信頼関係も高まり、仕事への取組み意欲もさらにアップすることになる。
今後は、「上司と部下の合作による人事考課」が当たり前になる時代になると考えられる。

 人事考課は部下という人間の評価ではない。部下の仕事上の行動と成果の評価である。しかし、上司は部下の「仕事上の行動と成果」をどれだけ把握できるのか。「成果」についてはある程度把握できるにしても、「行動」については、2割も把握できないのではないだろうか。同じ場所で一緒に仕事していないケースにおいては、ほとんど把握できないのが実情である。
 
人事考課者研修で「行動観察記録メモをつけて、それを参考に評価せよ」と指導されるが、その「行動観察記録メモ」をつけること自体が不可能な場合が多い。そのような状況で上司が一方的に人事考課を行ってその結果を面談で説明しても、部下は白けてしまい真剣に耳を傾けようとはしない。
 
部下は自分自身の行動をすべて知っている。その部下の知っていることを評価に反映することで、納得性も高まり、部下も真剣に評価に参加するようになる。上司は部下の「よい行動・いけない行動」を知る責任があり、部下には「上司の知らない行動事実」を知らせる義務がある。
 
上司は「部下の成果に結びついたよい行動」を確認し、そのよい行動を他の部下に教えレベルアップを図る責任がある。また、「部下のいけない行動」を把握し指導する責任もある。
そのためにはまず、上司が部下に関心も持って、「よい行動・いけない行動」を知ることである。
これが指導育成につながり、納得性の高い人事考課につながる。それを可能にするのが「上司と部下の合作による人事考課」である。


1.合作の目的(なぜ合作するのか?)
 合作する目的は、「評価の納得性を高める」「上司部下との信頼関係を高める」「処遇に対する公正さを高める」ことであり、そのことが意欲と能力の向上につながり、結果として業績の向上に結び付けることである。
 言い換えれば、従来の人事考課につきものの「評価の不満」「上司への不満」「処遇への不満」などを解消し、仕事に打ち込める環境を作り業績向上に結び付けるということである。

2.合作の内容(何を合作するのか?)
 評価基準の合作と評価結果の合作が考えられる。
 業績評価においては、今ほとんどの企業(組織)が目標管理を利用しており、業績評価の基準となる目標を期の初めに合作する形になっている。また、その目標の達成度も面談で話し合って確定する方法を取っているケースが多い。実質的にどれくらい合作になっているかは別にして、形式的には合作の形になっていると考えられる。
 
 しかし、業績評価以外の評価項目(行動評価、発揮能力評価、勤務態度評価など仕事の結果以外の評価:以降プロセス評価とする)においては、評価基準はもちろんのこと、評価結果についても合作の形式をとっているケースはほとんどない。
 
 プロセス評価の基準については、企業(組織)が求める期待する行動であるから合作というより、その基準の具体的な内容を確認することが必要であるが、プロセス評価の結果については上司と部下との合作が必要である。また、このプロセス評価の結果の合作をしている企業(組織)は、私が指導している複数の「企業」「病院」「市役所」以外、今のところほとんど見受けられないが、このプロセス評価の合作こそ今後絶対に必要になってくると思われる。

3.プロセス評価の合作
① プロセス評価の重要性

 人事考課は、仕事の結果の評価(業績評価)とその結果に至る途中の行動(努力・能力など)の評価(プロセス評価)を行うことが基本である。
特に近年は、過去の過度の成果主義の反省もあり、プロセスの重要性が叫ばれている。目先の結果だけを追い求めるのではなく、やるべきことをしっかり行って長期的な成果に結びつけようという考えである。また、プロセスをしっかり評価することで、育成にも結び付けることができ、全体のレベルアップに結び付けることもできる。

 ただ、プロセス評価の重要性はわかるが、目標管理による業績評価とちがってプロセス評価は判断が難しいとよく言われる。確かに、基準が明確でなかったり、数値化できない点もあったりして難しい部分もあるが、評価の妥当性と人材育成のためにはプロセス評価は不可欠である。
このプロセス評価を適正に行うためには「合作」が必要なのである。
なお、ここでいうプロセス評価とは、業績評価に代表される仕事の結果(成果)の評価以外の、行動評価、発揮能力評価、コンピテンシー評価、能力評価、勤務態度評価、情意評価などの評価項目を指す。

② 事実に基づく人事考課
 人事考課は「部下が行った仕事上の行動と成果」という出来事の評価であり、その出来事を把握することが必要である。特に、プロセス評価は考課期間中の行動事実を評価するわけであるから、その行動事実を把握することが大前提になる。

 考課期間中の行動事実を把握する方法は、次のように3つの方法がある。
① 日頃の行動観察(行動観察記録メモの活用)
② 結果からプロセスの確認(ヒアリング)
③ 自己評価の根拠・理由の確認(ヒアリング)

 
 考課者は被考課者のすべての行動を見ているわけではない。考課者自身も仕事をしているわけであるから、見えない部分もたくさんある。勤務態度に関することはある程度把握できるが、仕事の進め方や出先での顧客とのやり取りなどはほとんど見えない。しかし、この見えない部分が大事なところである。見えないから評価の対象にしないということではなく、結果からプロセスを確認することで見えるようにすることが必要である。
また、被考課者本人は自分の行動をすべて知っているわけであるから、本人の自己評価も参考にする必要がある。

③ 合作によるプロセス評価の仕方
 今までの人事考課では、上記①の「行動観察記録メモ」だけを参考にプロセス評価を行うこととなっていたが、合作による人事考課では、上記②③のヒアリングによる部下から情報を重要視する。
前述したが「行動観察記録メモ」をつけるといっても、上司は部下の職務行動をほとんど把握できないわけであるからメモのつけようがない。もちろん、よく観察しメモをつける努力は必要であるが限界がある。やはり部下からの情報を参考にする必要がある。

 プロセス評価を行う前に部下とのヒアリングの機会を作り、そこで「この目標はなぜうまく行ったのか(大幅達成できたのか)」「この目標はなぜうまくいかなかったのか(未達だったのか)」など、うまくいった理由やうまくいかなかった原因、あるいはその時の状況を部下に説明してもらい、よい成果に結びついたよい行動や悪い成果に結びついたいけない行動を確認し合うことが大事である。そして、この確認し合った行動もプロセス評価の対象とする。
上司は実際には見てはいないが、よい結果あるいは悪い結果という事実がある以上、その結果に結びついてたよい行動またはいけない行動があったと判断するわけである。

 また、自己評価についても「高い点数を付けた理由」「低い点数を付けた理由」を説明してもらう。その時本人が付けた「行動記録メモ」も提示してもらい、その評価の根拠となった具体的な行動を示してもらうようする。
そして、その根拠となった行動が事実であれば、プロセス評価の対象とする。

 このように考課者が実際に見て記録した事実だけでなく、被考課者本人とのヒアリングで得られた情報もプロセス評価の対象にすることがポイントである。
ヒアリングの時点で、この行動は良かったから高い評価になる、この行動は良くなかったから低い評価になるということは被考課者本人もある程度わかるので、人事考課の納得性も高まることになる。

 プロセス評価における合作とは、ここまでの段階をいう。すなわち、プロセス評価の対象となる行動事実を考課者の観察記録だけでなく被考課者からのヒアリングを通して把握する、二人で事実を確認する段階までのことである。評価対象になる行動事実が明確になれば、評価項目や評価段階は基準によって決まるので合作の必要はない。
プロセス評価の合作とは、考課者と被考課者が話し合って評価対象となる行動事実を確認することであり、個々の評価項目について、「3点だ」「4点だ」と評価段階を話し合って決めることではない。
評価段階は話し合いで決めるのではなく、基準と比較して決まるものである。

④ これからのプロセス評価
 よい仕事を続けていくためには、「結果のチェック」と「結果でチェック」が必要である。「結果のチェック」は業績評価に該当する部分であり、成果の確認になる。これはこれで大事なものであるが、この成果だけに一喜一憂するだけでは今後の成長には結び付かない。

やはり「結果でチェック」することが必要である。「どこが良くてよい結果になったのか」あるいは「どこが悪くてよくない結果になったのか」、その結果に至った理由や原因を確認することが必要である。この必要な部分がプロセス評価になる。

そして、そのプロセス評価の結果を踏まえて、よい部分は今後の仕事に活かせるように習慣化する、いけない部分は改善していくことで仕事のレベルアップにつながる。まさに、PDCAサイクルを回していくための要となるわけである。

このように考えると、今後のプロセス評価は発揮能力の評価が中心になり、評価のための根拠も「考課者の行動観察記録メモ」から「結果からプロセスを確認するためのヒアリング」や「自己評価の理由の説明」に比重が変わっていくものと考えられる。
 これからのプロセス評価は、考課者と被考課者との信頼関係と親密なコミュニケーションに支えられた合作の評価になることが望ましいと考える。

4.合作による人事考課のまとめ
 プロセス評価における「合作」とは、評価段階を相談して決めるということではなく、評価対象となる行動事実を考課者と被考課者が話し合ってより多くの抽出し、お互いに確認し合った事実に対して評価することでであり、そうすることでより整合性と納得性を高めるようにしようということである。

そして、このような合作の人事考課を行うためには、それが可能な人事考課制度と考課者・被考課者への教育が必要である。

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