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ヘッドホンから漏れ出た叫びこそ憂鬱を裂く天使の梯子

半年間ほど13畳のワンルームでルームシェアをしたことがある
ルームシェアといってもちゃんとしたものではなく実家暮らしのものたちが家に帰りたくないから、面倒だから私の家に集まった。ただそれだけ。
男2人、女2人。普通の人ではできない奇妙なルームシェアを私たちは4ヶ月間ほど続けた。あっという間だったがなかなかに濃い時間だった。

奴らは皆同じ職場の仲間。
初めは歳の近い同士ドライブに行くとこになった。あまり友達を持たない私からすると友達ができることは嬉しいことなので。
レンタカーで私が運転をして(みんな免許を持っていなかった。)各観光名所を回った後、桜島の温泉に行った。

錦江湾を見渡しながら見れる温泉が最高らしい。という1人の言い出しから向かうがそこは今では珍しい混浴だった。
どうする?と驚きを隠せない私を横目にみんな各自持ってきた温泉セットを持って中へ入っていく。
女風呂でオドオドする私を横目にナノはそそくさと露天風呂に行く準備を済ませ待っていた。

露天風呂に行くと男子は先に入っていた。
隣のナノは隠すことを知らないほど清々しくバスタオルをばっと脱ぎ温泉へ浸かった。
私も覚悟を決めそれに続いた。
白く濁った温泉は本当に肌が綺麗になった気がした。
「ほんとにくるおんながいるかよー。」
「もったいないよ。せっかく来たんだし」
「ほら、濁ってて何も見えないし」
おじさんが真っ裸で背中をタオルでゴシゴシする横でたわいもない話をした。

が、私は正直温泉が得意ではない。長風呂なんてもっとごめんだ。ものの数分であがりバスタオルを巻きナノをおいて女風呂へもどった。

ふろあがり、冷たい水を一気飲みし、フェリーに乗り夜ご飯の話になった。
ナノは料理が上手い。
今夜もナノの料理を食べよう。
そんなこんなで4人みんなが私の家に来た。
4人中私以外が母子家庭で育ち境遇も似てるせいか完全に打ち解け酒を飲み、溶けるようにナノともう1人の田中という男は寝た。もう1人コウという男は酒が飲めない。わたしは人よりも酒が強いタイプなので2人で片付けをし2人でベットで寝た。

それから、今日は何食べる?仕事終わりになると決まってその話題になった

ずっと1人の時間が多かったから人がいることはこんなに賑やかで幸せなものなんだと再確認した。嬉しかった。

休みの日もプロジェクターで映画を見た。私が夜仕事の時も勝手にご飯を作り食べエアーベットで眠っていた。1人コウだけは部屋の隅で歌詞を書いていた。そんな生活が何ヶ月か続いた。

ある頃から、異変が出始める
夜の仕事中はスイッチが入ってるからか、なかなか酔わないが仕事が終わると一気に酔いが回る。帰ってトイレに直行し飲んだもの食べたもの全て吐いてリビングへ行くと飲んだ空き缶、食べた残骸がそこらかしこに散らかっていた。とりあえずソファーに腰掛け水を飲む。ナノと田中は寝ていた。そろそろ動き出すか…という頃にコウが帰ってきた。どこか戦場に行ってきたのかというくらい疲れた様子で。ハウルのようだった。一緒にいても違う世界を見ているようで、コウの本心など見聞きしただけでは到底わからない謎の雰囲気を持っていた。

他のみんなは昼でしか働いておらず、お金がないのは知っていた。

私の夜で稼いだお金はみんなの食費、遊び代で消えていった。

求められてると勘違いして必要とされてると錯覚をして差し出す一万円札

これはルームシェアではない。かなが養ってるだけだ。そう気づいた時にはもう遅かった
でも。
わかっててもなお、求めているものはわたしではないと理解しても
もう
暖かな夜に慣れてしまったから
孤独とさようならしたいその一心で
だから
だからわらって差し出した一万円札

自分も夜の世界で人気がない方ではなかった。お給料もそれなりにもらっていた。これくらいなんのこっちゃない。
1人での生活と比べれば。

それから、よく自分でもわからないがもともとからたまにしていたリストカットが常習化するようになった

ある日、ナノと一緒にお風呂に入りソファでパンツ一丁でクーラーに当たっている時、ナノから言われた
「リスカしないで。ナノの心も痛い」
私の腕はもう切るところがないほど赤く線ができていた。私は、過去のいじめ、友達がいなかったこと、みんながいてくれて本当に幸せなこと、でもそれは間違った関係性ではないのかとおもっていること、今の心境をすべてナノに伝えた。ナノは泣きながらリスカの腕をそっと押さえながら聞いてくれた。

ナノがとなりで
泣く
私のために
涙を流してくれている
その現実がその真実が
君の心が君の気持ちが
うれしくて
うれしくて
私はひとしきり泣いた
お金なんてもんはどうでもよかった

その晩、ナノと田中が眠ってる横で寝れずに携帯をいじっているとまた変な時間にコウが帰ってきた。また疲れ果てたハウルのように。
普段あまり話をしないコウが口を開いた。

「カナが壊れるぞ」
「自分が吐くまで命削ったお金だろ」
「まずは田中からでも家から出せ。」

もう私は壊れていた。彼はそれがわかっていた。もうかれこれ2ヶ月ほどコウは家には帰ってくるがご飯は一緒に食べていなかった。もうよくわからなくなっていた。誰が悪者で誰が悪者なのか。どうしてこうなってしまったのか。
コウの足元で再び泣いた。

その日を境にナノは実の家に帰るようになった。田中も連れてってくれた。

その後、3人とも竜巻のように職場からもいなくなった。

今、ナノは結婚して幸せな家庭を築いている。コウも自分の夢に向かって頑張っている。田中は知らない。

忘れようと見て見ぬ振りをするには
あの日の日々は楽しくて幸せで残酷すぎた
みんなが幸せでありますように

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