エンプティランプ

12年前に亡くなった父方の祖母が生前口酸っぱく言っていた。
ガソリンはこまめにいれなさい。
と。
これは父が祖母を宗像の病院に連れて行った時の出来事。
父はガソリンを限界まで補給しない人だった。
口癖は
ランプがついても大阪まで走らぃ!
だった。
今考えるとなんと馬鹿らしいことなのだが、当時、私は小学生。なんの疑いもなく
そーなんだぁ。
と思っていた。
さて話を戻そう。私の住んでいる所から宗像まで2時間近くかかる。途中赤池と言う所から小竹を過ぎてそこまでの道のりは、ほぼほぼ山道なのだ。
父は消防士をしており平日休みの時があった。
祖母を宗像の病院へ連れて行った時、自宅を出た時からエンプティランプがついていた。
祖母は目敏くそれを見つけ、
よーちゃん!(父)早よガソリン入れんかね!
と、口喧しく言っていたのだが、当の父はいつものように
あと100キロ走らぃ!
だの
東京まで行けらぃ!
だの宣って祖母の言うことなど聞く耳持たなかったのだ。
その結果、小竹の山中でガス欠。父は麓のガソリンスタンドまで約10kmの道のりをマラソン大会する羽目になったのだった。
父が帰ってくるまでの間、祖母はただひたすら車の中で待ちぼうけをくらい
ウチゃ、病気になるか思たばい。
と後々まで語った。そしてことあることに
ガソリンはランプがついたら直ぐ入れなさい。
とまだ幼い孫たちに説いて聞かせたのである。

さて何故こんな話をしたのかと言うと、
今、まさに私の車にエンプティランプが灯っているのである。
私の車はデジタル表示で、ガソリンが残り2メモリになるとガソリンスタンドマークが点滅し、1メモリになるとスタンドマークとメモリが点滅するような仕様なのだ。
今、残り2メモリ。私の中ではまだまだ余裕をかましているのだが、脳内で祖母が警鐘をならす。
あんた!パパみたいになりたいんかい?

そんなの真っ平御免だ。足にマメまで作ってガソスタまで走りたくないし、なにより恥ずかしいし情けない思いはしたくない。

そんなわけで今日も私はエンプティランプがつくとガソスタまで車を走らせる。
おばあちゃんの想いと意志を乗せて!
祖母も色々残す言葉はあっただろうが孫の心に一番残った教えが
エンプティランプがついたら直ぐガソリンを入れろ!
とは思いもよらなかっただろう。
仏壇に飾られてある祖母の遺影からため息が聞こえたような気がした。

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