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栃の実とお手製篠笛

移住者の先輩から、林業を営む山暮らしマスターの男性を紹介された。齢70手前の端正な顔立ちの方で、纏うオーラの清々しいことこの上なし。接しているこっちまで良いエネルギーをもらえるような感じがする。ただシンプルに、生きるために働いている人だな、というのが第一印象。

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「生きる力をつけたい」なんて大層な目標を掲げてはみたけれど、この秘境における山暮らしがどう成り立っているのかなんて、私は何ひとつ知らないのだ。せっかく知り合えた師匠に色々と教えてもらいたくて、時々会いに行っては、色々な話を聞くのが楽しみのひとつになった。

そんな秋のある日、栃の実拾いをしてみないかと誘われた。師匠のお姉さんもちょうどお手伝いに来ていて、栃の実が一体なんなのかすらわからないまま、ひたすら拾っては背負った籠に実を放り込んでいく。食べられるようになるまでに、凄まじい手間がかかる木の実だということだけは理解できた。

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更に、篠笛作りまで体験させてもらった。その辺の竹を刈って乾かしてカットしたものに、ドリルで慎重に穴を開けていく。穴の位置を確認するために手元に置かれた古い篠笛は、今は亡き笛の達人が遺したものだそうだ。出来上がったものをとりあえず吹いてみたが、どう頑張っても音は出ずじまい。

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この笛を3年後の冬祭りで吹くことになるとは、この時の私は知る由もなかった。

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