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2020年のベスト(映画、ドラマ編)

コロナ禍に一番影響受けたエンターテイメントって映画で間違いなさそう。配信に切り替えた傑作が今年だけでたくさんあるもの。そうすると益々映画館に行かなくなって、体当たりで見る糞映画がなくなってしまう。だから今年は良作しか見てない。良作しか見てない人のランキングはつまらないから、来年はたくさん映画見る。ドラマより映画。(ちなみに年の当初から楽しみにしていたはちどりはまだ見れていない)

フォードVSフェラーリ

日本の映画館がまだ通常運転だった頃に上映されていた作品。物語的にも前時代的な映画であることは間違いない。でもそんなことは関係なく最高の作品。エンジン音の緩急と編集のリズム感が、観客をモータースポーツの一員にさせてくれるから。劇中、フォード社長がマシンに乗り涙する場面は、プロフェッショナルばかりが出てくるこの映画に、私たち一般人の涙を代弁してくれる。そして、社長の涙の意味が、それだけではないというのが、この作品を特別なものにしている。

ハスラーズ

兎にも角にもJLo。JLoのケレン味溢れる登場シーンから、完全にこの人物を信頼してしまった。この人についていけばなんとかなる、そう思わせてくれる説得力だった。オーシャンズ8のケイトブランシェットみたいな、ルブタンが似合う姉御肌の参謀役が好みなんだと思う。でもJLoだって未熟な人間だった。シスターフッド映画では終わらない苦々しさが、逆説的にこの物語の青春映画としての側面を際立たせている。JLoに肩入れしてしまった全ての観客は、この映画に出てくる男たちとなんら変わりない存在だ。

ハーフ・オブ・イット 面白いのはこれから

今年がティーン映画の当たり年というのは、大方の映画好きなら納得してもらえると思うが、これは時代を象徴する作品になるだろうと思う。青春映画でよくある人物配置を逆手に、現代的な「物語」にアップデート…したのではなく、何十年も前からあった話なんだということを、舞台設定や小道具から感じる。そして、登場人物に対するフェアな視線が現代的な「映画」に仕上げているポイントだと思う。視線がラスト、汽車に乗った主人公が他の乗客に目を向ける主観のショットに、社会がこれから開かれていく感覚がして深く感動した。

アルプススタンドのはしの方

青春映画は低予算でないと!と思わせるチャーミングな仕上がり。劇中、登場人物たちの距離が物理的にも心理的にもどんどん近くなる演出は膝を打つし、エモーションが爆発する場面では呆れるほど感動してしまった。応援とは、観客席から誰かを応援している自分自身をも応援しているのだ。そして、そんな登場人物たちを映画館から応援している我々、という入れ子構造。劇中に名前でしか登場しない人物たち及び試合を映さず、誰が見ても明らかに甲子園ではないとわかる撮影であるが故、観客に嘘を共有させる演劇的映画になっているのでそこがノイズになって人を選ぶ作品ではある。

シカゴ7裁判

これぞアーロン・ソーキン!な会話が繰り広げられるオープニングと中盤で、セリフに負けることなくリズミカルな編集で観客を引っ張っていく監督としての手腕にまず感心したし、デモ首謀者たちの複雑な素養を簡単に連帯させることなく最後まで持って行った気概にも感動した(ジョセフ・ゴードン=レヴィットの良い奴感とかちょっとフィクショナルすぎたけど)。アメリカ大統領選、BLMに揺れた2020年に公開されたので、劇中に意味を見出してしまいがちだけど、気負わず娯楽映画として見て欲しい。

ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー

今年の下半期、誰かにオススメの映画教えてと言われてその度に答えたのがこの1本。面白い映画は冒頭5分見れば大体わかるけど、最初の2分でわかった。この映画最高。内輪のバカバカしいやりとりの中にも、価値観のアップデートが多分に描かれ、下品な描写の中にも批評的目線が織り込まれて、理想的な学園(=社会)を作り上げている。カラオケやプールでの、美しくエモーショナルなショットも素晴らしく、本当に退屈しない1作だった。個人的に一番笑ったのは、タナーが牛乳を滝のように飲む動画を見て二人が白けながら突っ込むシーン(あとカーディ・B)。

オン・ザ・ロック

NYに住むスノッブな市民が主役な映画って最近見てなかったような気がする。本当はこういう小作をたくさん見るべきだった。いかにもソフィア・コッポラらしい舞台、設定、テーマ。家族という他者が、本当に他者だと思えてしまう時期に、別の他者を通じてもう一度相互理解を試みる。要約すればこんな感じの話が、結局は人たらしのビル・マーレイ映画になってしまっているけど、そのバランスの悪さが最大の魅力。いかにも良い映画、という作りではないけど今年のベストに入れたくなる作品だった。

Mank マンク

「市民ケーン」も実は今まで見たことがなく、デヴィッドフィンチャー作品も毎回新作は見るがそこまで…ただしマインドハンターはマジで最高。という感じのスタンスだが、やっぱり撮影は群を抜いてかっこいい(ゲロを吐くシーンの引いた画とか)。時代背景と現在をシンクロさせながらも、最後まで突き放す作風とかいかにもフィンチャーぽくてスマートだったしわかりやすかった。フィンチャーにはもう1作映画業界を舞台にした映画を作ってもらいたい。あとマインドハンターの続編を切に願う。

ソウルフル・ワールド

ピクサーから、またしても桁違いの傑作。まずもって、終盤にカットバックで挿入される、人生の固有性を肯定する「オトナ帝国」的なシーンからの一連の流れなどは本当に完璧な脚本だった。(「オトナ帝国」に絡め日本アニメ映画的文脈で語るなら、飛行シーンのカタルシスもこの映画の白眉と言える。)さらに、ソウルの世界に棲む人たちのキャラ造形などデザイン面も常軌を逸しているとしか言えないセンス。ピクサー作品の課題だった食べ物が美味しく見えない問題も、今回は脚本上のマジックもあると思うが美味しそうに描けていた。

ウォッチメン

ここからはドラマ。エミー賞でも賞舐めした今作は文句なしのベスト。得てして、完璧なドラマは、現実世界に侵食する同時代性を持った魔法のようなドラマになってしまう(ホワイトハウス前の通りを空撮で映したあの動画を見たか)。スマホがない世界でトラップが流れている文句なしな並行世界で、スケールの大きな物語は、見事に主人公たちのパーソナルな物語に回収されてしまう。それこそ、島国に住む我々たちへのメッセージだったのではないかと勘ぐってしまう。曰く、有色人種である我々の物語であると。

ある家族の肖像

抗えない悲しみに立ち向かう様こそ、現実世界のヒーローである。マーク・ラファロがこのドラマを通じて伝えたかったことではないだろうか。家族という呪いから逃げることでは得られないその先を描き、2020年だからこそ映せるカタルシスに満ち溢れたドラマに仕上げた。祖父の自伝による、ソウルフルワールドとは違う視点を持った人生の固有性が語られる第5話は、ナイフでえぐられるような感覚になった。デレクシアン・フランスは元々性悪(褒めてます)な演出で知られる監督だが、胸にこびりついて離れない演出を全話に渡ってやってのけた。

ラヴクラフトカントリー 恐怖の旅路

3作続けてHBOドラマ。HBO Max早く日本上陸してくれ。超ハイコンテクストなプロットは、物語上の必要性よりも、現実世界とリンクさせるために機能させている。その意味でも秘宝的であり町山智浩氏による解説も合点がいく。派手なスプラッターや特殊美術だけでなく、埃っぽい街のセットやファッションも気が利いているし、モンスターよりも画面上で浮いているクリスティーナ(白人)も皮肉っぽくて良かった。各話ごとジャンル映画として演出しているスタンダードな作りに感心してしまった。

マンダロリアン

世界中が熱狂したと思うのであえて言うことはないが、13話は個人的に今年見た映像作品の中で一番テンションが上がった最高の映画体験だった。

スイッチ

坂元裕二の十八番である、主要人物が4人の男女の会話劇。だが、今回は何やら違った。4人が複雑に絡むことはなく、松たか子と阿部サダヲの二人によるシーンがほとんど。ただ、二人の会話から、視点は他者に広がっていき、同化する。劇中で言えば、あらゆる事件の被害者=私たち。二人の会話が他者に、さらに社会へ広がり、また私たちに帰結すること。これこそ坂元裕二の真骨頂ではなかったか。私はまだまだ坂元裕二ビギナーだった。

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