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【先行公開】(2/4) 葛西リサ 『13歳から考える住まいの権利 多様な生き方を実現する「家」のはなし』 

 『13歳から考える住まいの権利 多様な生き方を実現する「家」のはなし』(葛西リサ著、12月12日販売予定)は、「空き家活用」や「居住支援」、「シェアハウス」「団地再生」など最近話題のワードを軸に、これからの住まい方について考えます。全4回にわたって、第1章の一部を先行公開します。

若者の住宅問題

 若い人は元気で働けるから、お金に困ることはなく、住宅にも苦労しない。そう思う人がいるかもしれません。

 しかし、実際には、不安定な働き方をするフリーアルバイター、いわゆるフリーターや、学校に通わず働きもしていない15歳から34歳までのニートと呼ばれる人たちも数多くいます。

 若くて健康なのに働かない人が悪いと思うかもしれませんが、不況の時期には、働きたいけど就職できないという人もいます。また、選ばなければ仕事はあるよと思っているかもしれません。けれど、労働時間が長く、働く環境が悪く、給料も安い仕事に就いて、身体や心を壊してしまうという人はたくさんいます。

 一般的に、高学歴の人が条件のよい仕事に就く傾向が高いといわれています。子どものころ、勉強しなかったから、つけが回ってきたのだよという声が聞こえてきそうです。しかし、子どもの学力は、親の経済力に強い影響を受けます。塾や習い事にはたくさんお金がかかります。それを負担できる家庭の子どもとそうでない家庭の子どもでは、どちらが有利かはすぐに答えが出ますね。

 親がいない人、家族から支援を受けられない条件にある若い人もいます。
頼る人もおらず、お金がなく、住宅が借りられないので、住宅ではない場所、たとえば、ネットカフェで寝泊まりする人、最悪の場合には、路上生活者いわゆるホームレスになる若者も存在するのです。

ひとり親の住宅問題

 ひとり親とは、母親と子ども、あるいは、父親と子どもといった組み合わせからなる世帯のことです。これらはそれぞれ母子世帯、父子世帯と呼ばれます。

 第二次世界大戦後からしばらくは、死別、つまり、父や母を亡くしたひとり親世帯が多かったのですが、年々、離婚によるひとり親が増加しています。

 2000年代の後半から、子どもの貧困という言葉が注目を浴びるようになりました。

 2019年の厚生労働省の調査によれば、貧困状態にある子どもは、日本全体で13・5%とされています。その数字をひとり親に限ってみると、約5割、実にひとり親の半数が貧困状態にあるという結果でした。

 なぜ、このような状態になるのでしょうか。女性の働く割合が高く、男女平等が実現されている北欧諸国などでは、夫婦2人が働く家庭と比較してひとり親家庭は、収入がひとり分だから少なくなるということが指摘されています。しかし、日本では事情が違います。

 実は、ひとり親の大多数は母子世帯です。女性は、結婚や出産によって、仕事を辞めたり、家事と育児が両立できるように働き方を制限したりといった傾向があります。この選択は、子の父親である男性がお金を稼いでくることが前提です。このことは、いざ離婚となったときには女性の側に不利に働きます。ひとりで子どもを育てようにも、安定した仕事に就いていないのですから、十分なお金を稼ぎ出すことができません。結婚していたときの家に住めなくなった場合、お金がなければ住宅を手に入れることは当然難しくなります。

 なかには、なかなか住宅が見つからずに、知り合いのところを転々としたり、24時間のファミレスで一時的にしのいだり、公園で寝泊とまりしたという経験をする親子もいます。

 もしかしたら、安い住宅なら借りることができるかもしれません。しかし、安い住宅は、駅から遠くて不便だったり、せまかったり、お風呂がなかったり、日が当たらず暗かったり、カビが生えたり、虫が出たりと条件はとても悪いものになります。

 住宅の環境は健康に強く影響を与えます。不衛生な住環境が原因で、ぜんそくやアトピーなどのアレルギー疾患を発症することもあります。ひとり親家庭の中には、住宅がせまいため、勉強机はおろか、子どものための学習環境が整備できないことに悩むケースもたくさんあるのです。

『13歳から考える住まいの権利』