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スコットランド日和⑮ 親たちによる学校の資金づくり~(2)学校外にも気軽に出向く

 スコットランドのエジンバラで研究生活を送っている阿比留久美さん(早稲田大学、「子どものための居場所論」)の現地レポートを連載します(月2回程度の更新予定)。
 ★「子どものための居場所論」note はこちらから読めます。
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 スコットランドの小学校で(プライマリー・スクール)では、保護者が学校の活動を支える活動が、学校を離れたところでも展開しています。

 基本的にスコットランドの学校は無料なのですが、学校の遠足や給食などは各自負担になります(ただ、日本でいう小学校0年生にあたるP1から4年生にあたるP5までの給食費は無料です。ちなみにPとはPrimaryの頭文字のPで、後ろについてくる数字が学年を示します)。遠足の前には代金徴収がおこなわれるのですが、その時に「払うのが難しい人は、学校まで相談してください」というメッセージも添えられていて、たとえばそんな子どものための遠足代やそこでつくられるアルバム代などは、学校でおこなうイベントと共に、保護者による自主的な資金作りによってまかなわれます。

 今は、半年以上先の遠足のための資金集めがおこなわれていますが、そのやりとりを見ていると、「なるほど、スコットランドの親たちってこういう風に動くのか」「学校と親との関係ってこんな風なのか」と日本との違いを感じることがたくさんあります。

 私の子どもの通っている学校では、学年ごとにWhatApp(LINEのようなものです)グループがあり、教師は入らず親だけで運用されています。そこに、ある日「P7の遠足に向けて、資金集め用のWhatAppグループをつくるね」という連絡がきて、新たなWhatAppグループが立ち上げられると、そこで資金集めに向けて様々なアイデアが提案されていきます。

学校でのお祭りに向けての寄付の呼びかけ

 私の家の近くにはスタジアムがあるのですが、スタジアムのイベントがある時にベイキングやお菓子の詰め合わせを売ったらどうだろうか、という意見がでて、「それはいいね!」と盛り上がっているところで、「スタジアムの周りで売るなら〇〇£のライセンス料を払わないといけないから、それでも売り上げが見合うかどうか考えないといけないよね。でも去年お店を出した時は400£売り上げたよ。」と、労力と収益が見合うかどうかを考えないといけないという意見が出さたりしながら、資金作りの計画が練られていっています。

 スタジアムのイベントの時に大きく収益を上げる計画が立てられるだけでなく、日常でできる小さな資金作りのやりとりも。「うちの子がメッセージ付きのティーバッグを〇個つくったからこれを売ろうと思うよ」とか、くじを売ろうと思うけれどくじの景品を学校の外で募ろうと思う、などといったメッセージがやりとりされています。

 近所の地域のお祭りに出店しようか、という話が出た時には「〇〇小学校のテリトリーをおかすことになっちゃわないかしら?」という意見がでたりもしていて、他の学校への気遣いをしつつ資金作りをしている様子には、こういった活動に対するリテラシーが感じられ、文化としての成熟を感じました。

 現代風にインターネットでのクラウドファンディングのページも作られました。

 面白いなあ、すごいなあと思ったのは、家の道端でベイキングや自家製レモネードや市販のお菓子の詰め合わせ、紅茶を子どもたちが売って、120£を売り上げたことです。学校の外でも自家製のベイキングやレモネードを売ることができてしまうのだな、ということも新鮮ですし、子どもたちが自分たちの遠足のためのお金を自分たちで作り出していることにも驚きました。

 目標金額は£1500-2000(約28~38万円)で、けっこうな金額ですが、それを集めるために様々な手立てをみんなで考えていて、学校はたまに場所を提供したりはするけれども基本的にはノータッチです。

 日本だったらどうだろう?と考えると、学校にかかわることでなにか親が行動するとしたら逐一学校に確認をとらなければならないでしょうし、かなりの金額の資金作りを保護者主導でしなければならないことや、そのための行動の負担に偏りがでる「不公平」さにも疑問の声があがりそうです。なにかを売る時にも、これはいいとかだめだとか、どこならやっていいけれどそれ以外はだめ、というような制約があちらこちらでありそうで、それを確認していく作業で消耗してしまいそうです。

 資金作りをする親の側に裁量があり、学校との関係だけでもなく、社会からの受け止められ方もおおらかであたたかいものであることで、大変さはあっても、楽しく資金作りをできているのではないでしょうか。

 自分たちの学校、自分たちのイベントという当事者意識や、それをのびのび発揮できる環境があったら、こんな風に活動が展開していく可能性があるのだなということを学校での親たちの資金作りを見ていると感じます。

阿比留久美『子どものための居場所論』
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