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【連載エッセー番外編1】〈農〉を考える本

 今月の初めに刊行された、澤佳成『開発と〈農〉の哲学―〈いのち〉と自由を基盤としたガバナンスへ』(はるか書房)を読みました。

澤佳成『開発と〈農〉の哲学』(はるか書房)。大豆としょうゆを添えて。

 ケータイの原材料をめぐる争いが続いてきたコンゴ、「先進国」の支配を受けて人びとの〈農〉が壊されていったハイチ、日本向けの大豆のための開発が進められたブラジル、同じような開発を人びとが止めたモザンビーク、日本が輸入する木材のために森林が荒廃したフィリピンなどに目が向けられ、開発と〈農〉をめぐる問題が大きな視野で説明されたうえで、それらの問題と日本に住む私たちとの関係が語られます。

 とても勉強になりました。直接的には「外国の話」が中心ですが、日本にも濃い関係のある「外国の話」であり、私たちが知るべき「私たちの話」だと思います。
 
 本の題に「哲学」とあるように、「現代帝国主義を成り立たせている思想のルーツ」に踏みこみ、「〈地域コミュニティ〉を基盤としたオルタナティブなガバナンス」を環境思想から考える、という(難しそうな)内容ですが、難しい用語・概念をわかりやすく説明してくれているところが多く、たいへん助かりました。

 具体的な問題を取り上げながらも、同時に世界の構造を問い、それと絡み合う思想を議論する本で、世界の広い見取図を与えてくれます。

 とはいえ、「高いところから見て教え諭す」という印象の本ではありません。コンゴで暴力にさらされる女性の側、モザンビークで開発計画に抵抗する小農の側に立とうとする著者の視線を感じます。日本で魅力的な実践をされている方々の話も登場します。

 子ども時代に祖母の実家の農村で過ごしたことなど、著者自身の経験に触れられているところもあって、著者の思いや人柄を感じつつ、本書で扱われているような問題に向き合うときの「根っこ」を考えることにもなりました。

 めざすべき方向については、「〈地域コミュニティ〉を基盤に」と語られていること、(小貫雅男・伊藤恵子が提唱する)菜園家族・商匠家族への注目がされていることに共感しました。

 私も菜園家族をめざしたいと思います。このところ、まさに菜園をつくるべく、笹の根と格闘し、せっせと開墾に励んでいます(ナスやトマトを育てたい)。

#澤佳成    #開発と〈農〉の哲学  #菜園家族   #はるか書房