見出し画像

【エフェクターレビュー】Fairfield Circuitry/Randy’s Revenge

第6回はFairfield Circuitryさんのリングモジュレーター兼ヴィブラート/トレモロ、Randy’s Revengeです。

Fairfieldさんはカナダのフランス語圏ケベックのメーカーさんで、アナログにこだわった個性的なペダルを作っています。

ちなみにカナダは英語とフランス語が公用語ですが、ケベック州はフランス語のみが公用語。法律でもフランス語を保護するための項目が定められていて、例えばケンタッキーフライドチキンがKFCではなく、PFK(Poulet frit à la Kentuckey)と表記されてたりします(いきなり余談)

リングモジュレーターとは

さて、そもそもリングモジュレーターとはなんぞやという方も多いと思うので、簡単に説明すると、元々はシンセサイザーに搭載されていたもので、原音Aに設定した周波数Bと、さらに原音からAを足し引きした、自然には発生しない2つの周波数(A+B、A-B)を加えて、合計4つの音を同時に鳴らすという装置…?だそうです。
……要は変な音が出るエフェクターってことですね!笑
なんでこんなん思いついちゃったんでしょうね?

そんなもん何に使うんだよと思うかもしれませんが、大体そのとおりです笑
なぜ手を出したかというと、これもティム・ルフェーブルの影響。ティムさんのトレードマークその2がリングモジュレーターの変態サウンドだからです!
ただし、ティムさんが愛用しているのは、Electro-HarmonixのFrequency Analyzar。本当はこっちにしようかとも思ったんですが、電源が40vというこのペダル以外にどうやら存在しない謎仕様、かつ国を移動することが多いので、今のところまだ手を出せていません…。

筐体/コントロールについて

画像1

一見無機質で無骨なのに、何かそれだけじゃない趣がある筐体ですね。
ちなみにこの個体、元々はフランスのベトナム系ギタリストNguyen Lêが使っていたそうで、彼から前オーナーが買取り、そこから巡り巡ってやってきたものになります。なかなか年季が入ってます。

それではRandy’s Revengeのコントロールについて見ていきましょう。
中心にあるのが追加する周波数を決めるFREQ(ENCY)。それから左側に上からVOLUMEMIXLPF(ローパスフィルター)。さらに右側に波形(スクエア波/サイン波)を決めるSQ/SIトグルと、リングモードとヴィブラート/トレモロを切り替えるHI/LOトグルがあります。

Volumeに全体の音量調整。Mix、ローパス、波形の組み合わせによって音量感が変わるので、主にその調整に使っています。
MIXは原音とエフェクトのバランスを整えるわけですが、リングモードでは原音に薄っすらと乗せて引っ掛かりを作る、反対にドライカットしてしまう、ほどほどに混ぜる、どれでも面白く使うことができます。
また、4つの音が同時に出るという性質上、ミックスを増やした状態だとカオスになりがち、あるいは原音とエフェクト音とやや分離して聴こえる場合があるので、そのへんの調整にも使います。
Mixを左に回しきれば単純にクリーンブースター(原音より大きくも小さくもできる)、あるいはローパスフィルターとして使うこともできます。
LPFは主にオクターバー的に使いたい時や、スクエア波のときに激しく出る倍音を調整するのに使っています。

リングモードとヴィブラート/トレモロを切り替えるトグルは、HIがリングモジュレーター、LOがヴィブラート/トレモロとなっています。
これ、なんでこんな表記かというと、どうやら同じシステム由来で、音程感を伴う一定以上の周波数ではリングモジュレーター、音程にならない振動に近い周波数ではヴィブラート/トレモロとして機能しているようです。
実際、LOモードであっても揺れものとして機能するのはFEQが12時くらいまでで、そこからはマシンガンサウンドを超えてローフリケンシーのリングモジュレーターサウンドに近づいてきます。音と振動の境界を見れる感じがして個人的にはこれもまた面白い使い方があるのでは…?なんて思ってたりします。(LOモードについては後ほどまた触れます)
HIモードではサイン波だと丸みのある音が、スクエア波だと倍音が複雑にぶつかった鋭い、あるいは濁った音が出ます。サイン波は意外とふつうに使いやすく(当社比)、スクエア波はインパクトはありつつも扱いが多少むずかしくなるのでローパスフィルターで適宜調整することになるかと思います。
LOモードの場合は波形トグルを切り替えることで、SI(サイン波):ヴィブラート、SQ(スクエア波):トレモロにそれぞれなります。


どう使うか?

さて、このリングモジュレーター、使い方はやっぱりまだまだ模索中です!笑
……が、意外と使い道はあります。

音程/コードとの兼ね合い
リングモジュレーターを使う場合、まず問題となるのはコードとの関係だと思います。解決策としては、①音程があまり関係ない使い方をする、②事前に原音の8thか5th、あるいは4thに合わせて周波数を設定するという方法があります。
①については、そのまま効果音として使う、あるいは薄くコーラス的にかけることでフレーズに複雑さをプラスするという方法です。この方法だと細かいことは気にせず勘で使えるのでオススメです。
②については、この方法であれば、8th/5thでは大きくハズレた音は鳴らず、反対に4thでは少し挑戦的な音が、3th、6th、9th、11thあたりを出せば予想外なアウトな音が出ることになります。特に重音だと崩壊した音になります。あまり外れていない音でも十分独特な雰囲気が出せるので、この音程を中心にしつつ、コード感を外すのがカッコイイのではないでしょうか。
どちらの方法でも、なるべくぴったりに音程を合わせる方が扱いやすいとは思いますが、少しずらした周波数をMIXで調整すれば使うことは可能かと思います。というか少しずれてた方がシンセのデチューンっぽくなって雰囲気が出るし、それも含めて使い手のセンス次第な面白いところです。
慣れるとFREQを足で回しながらフレーズを有機的に変化させるなんてこともふつうにできるようになります。

具体的な例
まず、シンプルなところだと鐘のような効果音として使うという方法があります。ちなみに鐘のような音がするからリングモジュレーターではなく、単純に元々シンセサイザーに組み込まれていた機構がリング状だったかららしいです。何だそれ。

薄くかけて倍音(音色)を複雑化させる、というのも面白い使い方だと思います。この使い方はファズと組み合わせても効果的ですね。

また、壊れたオルゴールだったり古いラジオ、レトロゲームのような音を出すこともできます。この場合もファズとの組み合わせがオススメです。

パーカッシブに使いリズムマシーン的なフレーズを作ることもできます。この使い方はリズムシークエンス部で変化をつけるのに効果的です。実際、プロが使っている印象としてもドラムとの掛け合いだったり、他に音程出す楽器がいない状況、リズムシークエンスだったりで使っているのを特に見かけるように思います。

また、オクターバーの変化球としても使えます。オクターバーにうっすら重ねて、シンセベース風のサウンドに味付けするととてもかっこいいです。この場合、MIXを低めにすれば、エフェクト音は効果音的にチューニングはあまり気にせずに使っていいと思います。ガンガン足でFreqを回して遊びましょう。
あるいは、実はかなり低い音がMIXされていたりするので、LPOで強調される音域を調整しつつ、通常のオクターバーと使い分けることで低音部に変化をつけるなんてのもありです。

音を出しながらFrequencyノブを回すと、キュイーンという音がなるのでそれを飛び道具として使ってもいいと思います。音程がわからなくなったら、もう音程感を壊すものとして使いましょう!

ちなみにリングモジュレーターは空間系、モジュレーション系エフェクターとも相性がいいです。リングモジュレーターの摩訶不思議サウンドをヴィブラートで揺らす、ディレイで反響させる、リバーブで響かせる…、これを想像して魅力的だと思った人はもう同志です…!笑

とはいえ、より実践的な使い方はプロが使ってるのを見て覚えた方が一番かと思います。リングモジュレーターを愛用しているミュージシャンとしては、ティム・ルフェーブルの他、ティムさんとトリオを組んでいる個性派ギタリストのウェイン・クランツが代表的です。

この曲では中盤(5分ちょっとくらい)からリングモジュレーターのサウンドが大活躍しています。
他に思いつくのは、最近だとギタリストのギラッド・ヘクセルマンが使っていたのがカッコイイです。

ベースでの使い方に関しては、このZachary Rizerさんのレビューが分かりやすいかと思います。Zachさんはマニアックなエフェクターのベースでのレビューをやっているので、よくお世話になっています。Dingwallの6弦に巨大ボードと機材マニア感がハンパないですね笑

追記:
最近(2022年8月末)、Free The ToneさんからもSugizoさんシグネチャーのリングモジュレーターVer.2のアナウンス&デモが公開されましたね!
この使い方もまさにリングモジュレーターのカッコいい使い方で、ベースでも取り入れることができると思います!
リードフレーズに歪みに薄っすらかける、ディレイを加えつつアルペジオと組み合わせる…、どれもとてもカッコいいのでぜひ参考にしてみてください。
あぁ、RM-2Sも欲しい…笑


ヴィブラート/トレモロモード

さらに、一見おまけ的なLOモードのヴィブラート/トレモロが実はかなり優秀です。
このモード、上にも書いた通りどうやらLFOの延長で作用する仕組みらしく、耳をすませると高音域と低音域2つの周波数が出ているように聴こえます。
それゆえか特にヴィブラートはかなりフェイザーに近いキャラクターになります。このモードはなかなか上品でふつうに使えるのではないでしょうか。もちろんMIXを上げればサイケデリックにも使えます。

トレモロもややフェイザーのニュアンスがある音色ですが、トレモロがかかるタイミングでゲインがプッシュされる感覚があります。これを利用しつつ歪みと組み合わせることで、サウンドに変化を持たせることもできますね。

また、リングモジュレーターの仕組みに由来するという構造上、トレモロサウンドは加工元になる原音の影響は受けるものの、Randy's Revenge由来の音色の割合が多めになっているように思います。

全体的に、LOモードはもしかしたらチューブアンプのハーモニックトレモロに近い感触なのではないかと思うのですが、どうなんでしょう?
このへんの設計に詳しい方の解説がぜひ欲しいですね。


追記
最近気づいたヴィブラートモードのお気に入りの使い方としては、「ハモンドオルガンのベースラインのエミュレート」というのがあります。
以前から↑に書いた「高音域と低音域2つの周波数」で作るこの揺れの感じ、何かに似てるな…?と思っていたんですが、実はこれ、ハモンドオルガンでおなじみのレスリースピーカーに似ているんですよね。
レスリースピーカーは内部に高音と低音それぞれにかかるローターが入っていて、それがモーターで回ることでヴィブラート&コーラス的な効果を出してるらしいです。
この高音/低音というのがミソで、通常のコーラスは原音に短いディレイをかけてそのディレイ音の音程を上下させることで効果を作っているんですが、仕組みの都合上、基本的には原音+エフェクト音になっているんですよね。一方で、通常のヴィブラートペダルはボリュームに干渉することで音量的な揺らぎを作っているので、やはりシンプルな構造です。

こうした仕組み上の理由から、一般的な揺れものペダルだとレスリースピーカーの複雑な揺れを再現するには物足りないと感じることが多いのですが、高音/低音それぞれに波形(=音程になる前の物理的な振動)を足すというリングモジュレーター由来の仕組みで動くRandy's Revengeのヴィブラートモードはレスリースピーカーに比較的近いニュアンスが出ているように思います。
(ちなみに、トレモロ/ヴィブラートでも例外として、ハーモニックトレモロは低域と高域をフィルタリングすることで交互に強調して揺れを作っているので、比較的近い揺れが作れる感触があります。)

ただし、そのままの指弾きorピック弾きの場合、アタックと音の減衰にエレキベースっぽさ≒撥弦楽器っぽさが出てしまうので(これだけでもレスリースピーカー感はあります)、よりオルガンっぽくするにはオクターバーを組み合わせるのがオススメです。
自分の手持ちでは、3leaf audio/OctabvreをOC-2系の音色でドライカット+Randy's Revengeのヴィブラートモードで使った時、かなりオルガンベース風味な音に近づけることができました。
もちろんこのやり方だと単音のみなのと、ハモンドオルガンは中高音域になるとトーンホイール由来の独特の音色が重要になってくるので、それっぽくなるのはあくまで低音域のみにはなりますが、ベースの音色にふだんとは違う複雑なニュアンスが加わるので、隠し味にもってこいの使い方ではないでしょうか?)



ちなみに手持ちのトレモロということで、Earthquaker DevicesのHumming Birdと比較したところ、
・同じスクエア波よりではあるものの、Randy's=やや音がまろやか、Humming Bird=よりシャープかつ音質は原音寄り
・Humming BirdはMixをMAXにしても原音が残るのに対し、Randy's Revengeは完全にドライカットできる
・Humming Birdがどこまで高速にしてもあくまで原音の音程なのに対して、Randy's RevengehはLOモードでも高速にすればリングモジュレーターと同じくエフェクトが別の「音程」になる
といった、いくつか面白い特徴が見えてきました。

ヴィブラートモードの雰囲気はこちらがわかりやすいかと。
手持ちのヴィブラート/トレモロとの兼ね合いを考える際の参考になれば幸いです。

なお、裏蓋を開ければ内部にいくつかのディップスイッチがあって、それを操作すれば外部機器と連携することもできます。ただ、自分の個体の場合、前オーナーの誰かがネジの上からベルクロを貼ってしまっていて開くのに手間なので、今の所まだいじれていません。ふつうに使うだけでもなかなかのものですし…笑
アナログシンセに詳しい方だったりは、さらに拡張性を高めることができるのではないでしょうか。EXPペダルをつなげれば、単純にFREQをリアルタイム操作することもできます。

まとめ

リングモジュレーターは一見ただの飛び道具のように思えますが、こうやって見ていくと意外と使い道がありそうな気がしてきましたね!しましたよね!?
さらにRandy’s Revengeに関して言えば、音色にずっと聴いていたくなるような退廃的な美しさがあります。一見とっつきづらいですが、各ノブを曲中で有機的にコントロールして曲中で遊ぶという、まさにひとつの楽器として使える面白さこそがこのペダル、ひいてはリングモジュレーターの魅力だと思います。使いこなすのはむずかしい、でもなんとか使いたい!そんなペダル。
ちなみにエグさということについて言えば、演奏を聴いた感じだとElectro-Harmonixの方がより電子的でエグ味の効いたサイケデリックなサウンドという印象です。一方でRandy’s Revengeはもう少しアナログ感があってオーガニックで、どこか温かみがある気がします(それでも十分変な音ですが)。
私自身もまだまだ試行錯誤中で使いこなせていないので、実験的な音が好きな人はぜひ購入して、使い方の情報共有しましょう!笑

面白かったら投げ銭をいただけると励みになります〜。 記事につかえる時間が増えて、さらに切り込んだ内容にできる…はず。