機動戦士ガンダム 星屑の軌道「戦士の休息」
元ジオン公国軍宇宙要塞「ソロモン」・・・
激戦の末、連邦軍が攻略に成功し、前線基地とした。
月方面のジオン側の動きは少なくなると判断され、「コンペイトウ」にてべオクラードは補給を受けていた。
戦いで受けた傷を癒し、新たな任務に就くために・・・。
「隊長代理ですか・・・?!」
「ええ、この後の作戦上MS部隊の隊長が不在という訳にはいかないですし、取り合えずとしての暫定の処置です」
艦長以下主だったメンバーが居る中、シフォンに告げられたのは、戦時下の艦長特権で巡洋艦ベオグラードに乗船中のサイクロン小隊を含むMSパイロット全員の階級を一つ上げると同時にMS部隊の隊長への昇進だった。
「しかし、それでしたら、先任のシマ中尉の方が適任では?!」
「私?!駄目よ。戦闘の観測記録の情報処理でそこまで手が回らないのよ」
明らかにシマは面倒くさいからシフォンに押し付けた様だった。
既に自分の意見が入る余地が無いのにシフォンは観念した様に拝命した。
「それと、同時に君達の小隊に新型のMSが配備される事になった、直ちに受領し準備を整えたまえ」
「もっと丁寧に扱え!大事な新型なんだからな」
べオクラードのMS新たに配備されたマグネットコーティング仕様のガンダムタイプRX78‐3 通称「G-3」がサイクロン小隊に受理され、オヤッサンの後を継いだシバ シゲオ整備班主任の声がデッキに響く。
整備員からは「若」と呼ばれ陽気な性格で、整備の知識、技術はオヤッサンには及ばないが腕は確かなものだった。
MSデッキの通路から同じく新たに受理された2機の新型ジムを値踏みする様にサイクロンチームの二人はMSを見上げていた。
「しかし遂に、うちの隊にもガンダムタイプが実戦配備ですか・・・」
自分達のジムの後ろで整備中の「ガンダムタイプ」のMSを見て、ため息と共に何かか考え深げに、アービスは手に持っていたコーヒーを口にする。
「どうしたんですか?アービスさん?」
「所謂「ガンダム」と呼ばれるMSは確かに高性能だが、運用面やコストの事を考えれば、とても実戦向きではないぜ、そのMSがサイクロン小隊が駐屯している、この最前基地「コンペイトウ」に配備されたんだから・・・連邦も必死ってことですよ」
「でもそれって、これから更なる激戦が待ってる・・・って事ですか?!」
「あれー、怖気ついちゃったのかな、イエガー少尉どの?」
アービスにいつもと違う呼び方をされ、自分の名前を忘れていたのかの様に、エリオスは戸惑ったが、自分が少尉に昇格したのを茶化されたのだと気が付き、自分もやり返した。
「そんな事はありません!自分こそ新型のMSに乗るのはどうなんですか?!アービス少尉は?」
アービスは指にタバコは無いが、吸う様な仕草をしながら
「この戦争が終わって生きて終戦宣言を聞くまで「願掛け」してタバコ止めてるんだ、それまで死ねないんだがからどんな機体でも乗りこなして見せますよ」
「頼もしい言葉だな、アービス少尉!我がサイクロン小隊も本日をもって「星1号作戦」に編入されたぞ」
「星一号作戦」それはレビル将軍率いる3つの艦隊がア・バオア・クーを突破し、ジオン本拠地であるサイド3を攻撃する作戦である。時はジオンとの最終決戦へと進んで行くのだった。
シフォンは配備された3機のMSを見上げたデッキに充満している騒音を聞きながら、床を蹴ってゆっくりと上昇した。
「コックピットは?」
そのシフォンの声にシゲオ整備班主任が耳ざとく振り向いた。
「見ますか?」
「頼む」
シゲオ整備班主任がMSの装甲の一部に手をやり、腰の部分の二重ハッチが開く。全ての装備品に言えることだが、整備上の効率を第一に考えられた設計がなされている。加えて無重力世界はメカマンの作業を格段に能率よくさせてくれる。
「いいね。」
新たに愛機と成るMSのコックピット・シートに座り、その座り心地に満足し、思わずシオンの口から出た言葉だった。
「直ぐに本体の方も中尉専用に、蒼く塗り直しますよ!」
今回シフォンに受理されたMSはFSWS計画の一環として、設計され計画の最終段階ともいえる機体であった。簡易装着型の増加装甲と武器で身を包み、その火力は宇宙戦艦1隻分に相当する。
だが、現在は「お色直し」の為、本体であるG‐3が売りの強化装甲が外された状態でハンガーで換装を待つ状態だった。
そんな中、艦内に第一種警戒態勢のブザーが鳴り響く。
「若!、塗りなおしてる時間ないぞ・・・」
「こっちは全員で手分けして塗装してるのに!」
スタッフ達から不満の声が上がる。まるで大切な「おもちゃ」を取られた子供のようだ。
「シフォン中尉!パトロール中のサラミスより、SOSです。スクランブルカットで発進を」
オペレーターのミユキ伍長の顔がサブモニターに映し出され、内容を告げる。
「しかし、慣熟飛行もなさらずに出撃ですか?」
毎度の事ながら呆れ顔でシゲオ整備班主任がシフォンに問いかける。
「そうらしい、何時もと同じだよ、実戦で慣れるしかないな」
「再換装してる時間は無いですよ・・・シミュレーターの通り、ジムとは比較にならないですし、注意してくださいよ。それと、絶対に無傷で帰還してくださいよ!塗り直すんですから!」
苦笑してシフォンはコックピット・シートに座りなおした。
レバーを握り、G-3を発進位置に進め、機体を固定していたラックが外れ、発進ランプがレッドからグリーンに変わる。
「スタンバイOK、シフォン・ロマーネ、G-3発進する!!」
アクセルペダルは踏むのと連動して圧倒的な重力の壁が襲い駆り、発進された勢いがそのまま跳ね返ってくる。
短かった休息の時間は終わりを告げ、新たなる戦いへと進み始めた・・・。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?