7月5日のお話
たこ焼きは、2回に分けてひっくり返して、綺麗な球体を作ります。
半円の鉄板だから、半分ずつ焼くんだと思っている人は、たこ焼きを大判焼きかなにかと勘違いしてる人で、たこ焼きを作ったことがない人です。
たこ焼きを1回ひっくり返しただけで作ろうとしたり、1回目、ひっくり返すのが遅かったりすると、円盤みたいなひらべったい形になってしまいます。
ようは、なかのトロトロが固まる前に、外側だけ、少しずつ固めて皮で閉じ込めてまあるくするのがたこ焼きなのです。
トロトロを作る時、小麦粉と水だけではなく、芋粉をいれるのは、トロトロにとろみをつける役割と、閉じ込めたあとの空気が熱で膨張するときに、皮の部分が、ふわりと伸びて破れにくくするのに重要です。ただし、固まるのが遅くなる分、ひっくり返すのに忍耐が必要になります。
まだかな?とせっかちにつつくと、崩れてどうにも丸くならないという失敗をしがちです。かといって、返すのが遅すぎると円盤型の失敗が待っています。
ここが、たこ焼き焼きの腕の見せ所というわけです。
生地のふつふつと焼ける音に耳を傾けながら、時に早く、時に触らず、2回の返しのタイミングをはかるのです。基礎力としては手早く返し終わる技術が重要で、その上で、待つ、適切なタイミングで動く、という境地を目指すのです。
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ヒイロが見ていたそこで動画は途切れ、CMが入りました。無料版のYouTubeだと、こういうことがあります。気にしなければ良いのですが、その動画に当てられている、作り方よりも精神論を語るような解説に聞き入ってしまっていたので、途中で途切れたことが妙にストレスになりました。
それにしても。と、ヒイロはふと我に帰ります。解説は面白かったけど、結局ここまで見ていても、自分でたこ焼きが作れる気がしません。焼いている様子は見て取れましたが、材料の説明ってあったっけ?山芋粉は入れるのか。ん?トロトロって他に何が入ってるんだ?と、全くわからないことだらけです。
ヒイロは、たこ焼きが食べたいと言っていた、関西人の彼女、カノンのために、来週までにたこ焼きを作れるようになる必要がありました。たこ焼きパーティーをしようと約束してしまったのです。
Amazonで、たこ焼き焼き器は購入済みです。(意外と安かった)カノンは自分が焼けるから大丈夫だと言っていましたが、二人でやるたこ焼きパーティーで、自分が全く手伝わないのもカッコ悪いものです。うまくはないにしても、一緒に作った、という思い出にするために、作り方くらいは知っておきたいというのが、彼が今、YouTubeを見ている理由でした。
しかし、見る動画の選択を誤ったのかもしれません。CMが終わって動画に戻っても、そこでは、いっこうに、そのトロトロがなんなのか、紅生姜と天かす、ネギはどのくらい入れるものなのか、など、肝心なところを全く教えてくれないのです。
基礎といわれていた、手早く返し終わる技術の重要性と、その習得には反復練習しかないという根性論のようなアドバイスが、繰り返されています。
手早く終えられる。でも、成功させるには、速さだけではなく、待ち、タイミングをはかる才能と、調節できる忍耐が必要なのです。
こう力説されると、そうなのかもしれないなと、納得してくるから不思議だ。
たこ焼きを美味しく焼くということは、ビジネスを成功させるためのノウハウと同じものが必要なのだと、解説者は言っています。
確かに、仕事を早く仕上げられるように日々鍛錬。手早くもできるという実力を持ちながら、手早い必要のない仕事に従事すると、最初は物足りなさもありますがクオリティコントロールが出来るという意味では、必要な能力です。
このYouTubeの人は、顔は写っていないけれど、きっとたこ焼きを焼くのがうまいだけでなく、ビジネスも、トークも、人よりも上手いのだろうなという予感さえしてきます。
YouTube画面では、美味しそうなたこ焼きが出来上がり、結果、作り方がわからないまま、エンドロールになっていました。
そこには、出演 KARINO、2013年7月5日というクレジットがあります。少し前の動画のようです。その文字を見た時、ヒイロはカリノ?どこかで聞いたことあるような…と思いましたが思い出せません。
スピードは大切、でも焦ってはダメ、2回までのチャンスをモノにする。ここまで頭で反芻すると、ヒイロは、たこ焼きは恋愛にも通ずるのではないかと思い至り、苦笑しました。
とりあえず、この動画は面白かったので、カノンに見せてあげるようにします。あとは、当初の目的の作り方がわかる動画を探す必要があるのですが…
動画を見ていたら妙にお腹が空いてきたので、まずはコンビニにでも行くことにします。もちろん買うのはたこ焼きです。
いずれにしても、カノンの喜ぶ顔を見るためには、まず食べて、まず一人で作ってみて。忙しい一週間になりそうです。
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