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11月12日のお話

「もし、他社にうちの社員が行って、引き抜かれでもしたらどうするんですか?」

「本業に集中して欲しいんです。」

「それにうちの者たちは、ただでさえ、忙しいのでそんな暇ないんじゃないかな。」

他社人事部との飲み会で、複数仕事を持つことをどう考えるかという議論になりました。数年前、副業兼業がブームになってから、日本の働き方は大きく変わりました。その動きを加速させたのは、人々をリモートワークに向かわせたコロナ禍の存在もあったようです。

定年が60歳から80歳まで伸びたこともあり、一本道のキャリアを歩むことに不安を覚えた人々がこぞって「もう一つの仕事」に動き出しました。そんな時代の変化の中で、今日会った人事部の人たちの企業は、いまだに他社への勤務を禁止しているという会社です。

オーセンティックな企業には、事情があり解禁ができていない企業もあります。そういうところだと思っていましたが、目の前の人の話を聞くと、どうもそうではなさそうです。

違和感がありました。この会社では、人事部が社員のことを労働者だと思っている。

そんな違和感です。

引き抜かれることを心配する時代ではない。ロイヤリティをあげる努力をする方が先です。

本業に集中させるのはもちろんですが、他があると本業に集中しないと考えているのは旧時代の労働者管理の思想です。これからの会社は、社員の働く環境をより良いものにするために努力されるべき、世界の潮流はそういう動きになっています。

忙しくて自分の人生のことを自分で考えられないような職場環境は、良いのでしょうか。若い頃は良いかもしれません、しかしそれが「全体として」その傾向というのは、何かがおかしいと考えるべきです。

社員のおおよそは、それで良いかもしれませんが、多くの人がいる企業でみんながそれに甘んじているとは思えません。声が届いていないのか、

「他の仕事をやりたいという要望?ない事はないですが、つっぱねてますね。」

聞かないふりをしているようです。社員は、そういう考え方をすることが、悪だと言われているのかもしれません。

「中途採用でも、新卒でも、たまにそういう人はいます。他の仕事とかけもちしたいと。お断りしています。うちにそういう考え方の人はいらない。」

そういうこだわりを企業として持つのは間違っているとは言い切れない。カリノはそう思いますが、でも何かが引っかかります。何も言わないでいられるのは、彼女も大人になったということでしょう。

「まあ、今はそうですが、うちも上がそういう流れに興味を持って”やるぞ”と言えば一気に動き出しますから。その時は、カリノさんのところの事例とかまた聞かせて欲しいなぁ」

上が、というのはこういう人たちの口癖です。上が、と言っていれば仕事が回るのです。思考停止というのはこのことだろうとカリノは思いました。

「世の中は変化しているといいますけどね。いつか僕らのように禁止しておいてよかった、と思える日が来ると信じていますよ。」

カリノの我慢も、その言葉で限界でした。

「そうですね。私もそう思います。」

そうやってとびっきりの笑顔を見せたカリノは、ちょっと、急な用事が出来たので…と、多めのお金を置いて席を立ちました。

FIN.


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