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第7回神谷学芸賞発表

(2019/07/22記)

 あれこれ迷った末、いささか唐突ではありますが、今年の神谷学芸賞を発表します。前回のエントリで書いたように、来年からは7月1日の発表になりますので、ご期待ください(笑)。

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◆金の神谷賞
 東畑開人『居るのはつらいよ』医学書院(2019/02)

→ 刊行以来ほぼ独走状態のまま金の神谷賞。さすがは医学書院・白石さん、良い本作るわぁ…。何度でも言うけれど「シリーズケアをひらく」素晴らしい。唯一、気になったのは本書の帯。やや悪ノリが過ぎるように感じた。わかるよ、言いたいことはわかるんだけど……。

◆銀の神谷賞
 湯澤規子『7袋のポテトチップス』晶文社(2019/03)

→ 昨年の『胃袋の近代』(名古屋大学出版会)と合わせ技一本で銀の神谷賞。この人の方法論自体が好き。もう一工夫でもっとドラマが立ち上がってくると思う。前作は名古屋大出版会、本作は晶文社、これから全部違う出版社から本を出して、どの編集者がどんな本を書かせたか見ていくと著者と編集者の関係が測定できて面白いかも。

◆鋼の神谷賞
 斎藤幸平『大洪水の前に』堀之内出版(2019/04)

→ 海外から逆輸入の超大型新人。こんな人材までいるのか、と御厨さんの学統に驚嘆させられた。もはや現代の内田魯庵かも知れない。

◆政治・経済部門
 清水麗『台湾外交の形成』名古屋大学出版会(2018/10)
 佐々田博教『農業保護政策の起源』勁草書房(2018/11)★
 林采成『飲食朝鮮』名古屋大学出版会(2019/02)
 井上智洋『純粋機械化経済』日本経済新聞出版社(2019/05)
 坂野徹『島の科学者』勁草書房(2019/06)
 小泉悠『「帝国」ロシアの地政学』東京堂出版(2019/06)

→ 小泉作品とかなり悩んだがギリギリのせめぎ合いを制して佐々田作品。日本の宿痾とも言える農政の問題の原点を綿密に描いておりとても勉強になった。坂野作品は、2015年に私がお手伝いした春名展生さんの『人口・資源・領土』(千倉書房)と並べて読んでほしい。

◆社会・風俗部門
 齊藤史朗『昭和日本の家と政治』弘文堂(2018/07)
 岸政彦『マンゴーと手榴弾』勁草書房(2018/10)
 岡村正史『「プロレス」という文化』ミネルヴァ書房(2018/12)
 横山禎徳『社会システム・デザイン』東京大学出版会(2019/03)
 打越正行『ヤンキーと地元』筑摩書房(2019/03)★
 鈴木勇一郎『電鉄は聖地をめざす』講談社選書メチエ(2019/05)
 佐藤信『日本婚活思想史序説』東洋経済新報社(2019/05)

→ 一読者としての好みだけなら岸作品、鈴木作品(とりわけ後者)に指を折りたいところだったが、迷った末、打越作品。どんな次回作を書くのだろう、という興味と期待を込めて。

◆歴史・思想部門
 大久保明『大陸関与と離脱の狭間で』名古屋大学出版会(2018/09)
 稲田雅洋『総選挙はこのようにして始まった』有志舎(2018/10)
 鈴木董『文字と組織の世界史』山川出版社(2018/11)★
 大江洋代『明治期日本の陸軍』東京大学出版会(2018/12)
 後藤基行『日本の精神科入院の歴史構造』東京大学出版会(2019/01)
 藤原辰史『分解の哲学』青土社(2019/06)
 沢井実『海軍技術者の戦後史』名古屋大学出版会(2019/06)

→ 例年なら大江作品か藤原作品だったと思うのだけれど、しかし天才・鈴木董ほぼ20年ぶりの新著に軍配を挙げた。構想自体は10年以上前から聞いていた。手伝えなかったことは残念でならない。

◆自然・科学部門
 乾敏郎『感情とはそもそも何なのか』ミネルヴァ書房(2018/09)
 高橋あやの『張衡の天文学思想』汲古書院(2018/12)★
 渡辺佑基『進化の法則』河出新書(2019/02)

→ 本当は「歴史・思想」なのだろうが敢えて「自然・科学」で高橋作品。正直、内容をきちんと理解できた自信は全くないのだが、なぜか繰り返し読み入ってしまう。年に数冊こういう本がある。読書の不思議な効能と言うべきかも知れない。

◆文芸・芸術部門
 吉田広明『西部劇論』作品社(2018/10)
 野間秀樹『言語存在論』東京大学出版会(2018/11)
 鈴木宏子『「古今和歌集」の創造力』NHKブックス(2018/12)
 松尾梨沙『ショパンの詩学』みすず書房(2019/03)★
 須永剛司『デザインの知恵』フィルムアート社(2019/04)

→ このテーマに着目し、一書にまとめ、このタイトルを与えた著者(編集者?)には敬意を表するしかない。「ピアノ曲《バラード》という詩の誕生」というサブタイトルを含め、みすず書房らしさが凝縮された本作り。こういう本を作って死にたいなぁ。

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