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世界最古のダムことサド・エル・カファラダムの日本語資料は怪しいものばかり

はじめに

 世界最古のダム、と日本において言及されることが多いエジプトのサド・エル・カファラダムについて、日本語資料があまりにもメチャクチャなのですが誰もツッコミを入れていないのでやむなく記事にしました。

日本語資料における説明

 めぼしい資料は鹿島建設の公式ホームページ「ダム便覧」というホームページ日本語版Wikipediaの「ダム」のページになるかと思われるところ、内容をざっとまとめると以下のとおりになります。

・紀元前2750年頃、クフ王朝の時代に建設された
(日本語版Wikipediaは、建設年は同じですが第二王朝時代としています)
・貯水された水は石切り場で働く作業員や家畜の飲料水として利用された
(ダム便覧は、ピラミッド建設の作業員~としています)

おかしいポイント①

紀元前2750年頃はクフ王の治世下とはいえない

 クフ王の治世については、手持ちの『詳説世界史研究』では在位年不明となっていますが、概ね紀元前26世紀頃としている資料が多いようです。クフ王の治世は、紀元前2750年頃、すなわち紀元前28世紀半ばよりも少なくとも150年以上は新しい時代であるので、これをクフ王朝の時代というのは明らかに無理があります。そもそも、古王国の始まりであるエジプト第3王朝ですら紀元前27世紀頃の王朝であるので、紀元前28世紀半ばをエジプト古王国時代とみなすことすらできません。

おかしいポイント②

紀元前2750年頃建設とする根拠が不明

 英語版のWikipediaでは紀元前2650年頃建設となっています。一応、英語で「Sadd el-Kafara 2750」とググってみるとちらほら引っかかるので、紀元前2750年頃建設という記述が全くのデタラメというわけでもなさそうですが、少なくとも紀元前2750年頃と断言できる根拠はないと思います。

おかしいポイント③

「石切り場で働く作業員や家畜の飲料水として利用された」が根拠不明

 英語版のWikipediaでは、「flood control」、洪水をコントロールする=治水目的で建設された、とあります。「水資源の確保を目的として建設された」と言及している外国語のページは自分が調べた限りでは見つかりませんでした。そもそも、石切り場で働く作業員が飲む量程度の水など、川から直接汲んでしまえばいいのであって、上水道の確保を目的に、この時代にダムのような労力のかかる建造物を建設する理由がない、というのが個人的な所感になります(農業目的であれば「水資源の確保のため」というのもまあ分かるのですが)。

おわりに

 サド・エル・カファラダムに関するまともな日本語資料は現状存在していないと思われる(Ciniiでヒットなし、Google Booksでもろくな本がでてこない)ので、深く言及したいのであればきちんと外国語の資料を漁ってください(僕は面倒だからやりません)。また、サド・エル・カファラダムを「最古のダム」とするのも個人的にはやや疑問符が残る(英語版Wikipediaの「dam」のページはヨルダンのダム遺跡を最古としている)のですが、これはダムの定義がどうとかこうとかの話になりそうなので、この記事では触れないことにします。
 ここまで読んでいただきありがとうございました。




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