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郷愁だけではない旧裏面ポケモンカードの魅力|関西旧裏ポケカオフ-neo-| 自主大会探訪

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大阪市内から電車とモノレールを乗り継いで、しばらく北上したところに位置する南摂津駅。工場と住宅が混在する地域を抜けた場所にある小さな公民館で、その自主大会は開かれていた。

20人ほどの年齢も住んでいる地域もバラバラの彼らが熱中しているのは、昔のポケモンカードゲーム。現在発行されているカードとは裏面が違うことから「旧裏面」「旧裏」と呼ばれる最初期に発行されていたシリーズだ。

旧裏面のポケモンカードで対戦を楽しむ面々

メーカーである株式会社ポケモンが大会として提供する対象から外れる、いわゆる「レギュレーション落ちしたカード」で対戦を楽しむイベントは「過去レギュ」「あの頃対戦」とも表現される。こうした楽しみ方は、自主大会を中心に、近年少しずつ全国に広がりを見せている。

今回の自主大会探訪は、そんな過去レギュ自主大会の中でも10年以上の歴史を持つ「関西旧裏ポケカオフ -neo-」の主催者、ソラ氏にお話を伺った。


旧裏でしか味わうことのできない感覚を求めて

「旧裏面」と呼ばれるカードは、ポケモンカードゲームの最初期、1996年10月20日に発売された最初のポケットモンスターカードゲーム第1弾スターターパックから「ポケモンカード★neo」シリーズまで、わずか4年半ほどの期間に登場したものだ。

その後に発売されたカードは別の裏面を持ち、混ぜて使用することができないシリーズとなった。当然ながら旧裏面に新しいカードが追加されることはなく、完全にカードプールが固定されたゲームとなっている。これを販売終了から20年以上経過した2023年の今も遊ぶ、という情熱はどこから来るのだろうか。

「長い歴史を持っているポケモンカードですが、裏面が切り替わったタイミングで大きくゲーム性が変わったと考えています。ルールとしてもサポートという分類が登場して、これまで自分の番に制限なしに使えていたトレーナーのうち、一部カード(サポーター)が番に一度しか使えなくなるなど、体感するゲーム性に関わる変更がありました」

ポケモンカードゲームは28年の間ルールの骨格が変わっていないことを特徴として語られることは多い。しかし、旧裏面ポケモンカードの対戦は、現在のスタンダードレギュレーションのポケモンカードゲームとは、全く異なる感覚があるのだという。

「旧裏では、トレーナーカードを好きなだけ使ってデッキを回せるだけ回します。先攻最初の番からワザをつかって殴りかかってくるし、すごく豪快なんです。加えてスタンダードやエクストラなどの現行ポケモンカードに存在する、一気に2枚・3枚とサイドカードをとられる特別なルールを持つポケモンはいません。旧裏の環境では基本的にサイドは一枚ずつしか進まないことを前提に、どうやって勝利に至るのか、どうやって逆転するのか、という戦略が重要になっています」

ゲーム性の違いは対戦時間の違いにも現れる。スタンダードレギュレーションで行われる公式大会では1ゲーム25分とされているが、旧裏面ポケモンカードでの対戦は勝敗をつけるにはもっと時間がかかり、関西旧裏ポケカオフでは50分を設定している。

一撃で気絶させられるワザを持つポケモンも少なく、サイド取得にも時間がかかる。だからこそポケモンをじっくり育てて、2進化ポケモンの特性をうまく使うなど、プレイングで勝敗がひっくり返ることも多いという。

「普段は現行のポケモンカードで遊んでいる人でも、この旧裏のゲーム性には別の魅力を感じるんだと思います」

「ないなら自分でやるしかない」とはじめた旧裏のカードでの対戦環境

関西旧裏ポケカオフ -neo-は、不定期開催ながら取材に訪れた2023年7月の開催で18回を数える。

「もともとは2008年に自分が旧裏面のカードで遊びたい、という気持ちから、当時mixiに存在していた旧裏面カードを好きな人たちが集まるコミュニティで声をかけて開催した『関西旧裏ポケカオフ』が始まりでした」

当時も現行ポケモンカードを楽しんでいたソラ氏だったが、大事にしまってある旧裏面のカードたちを、どうにか対戦で活躍させたい、という気持ちがあったという。

「今と違って始めた当時(2008年9月)はレギュレーションから落ちたカードたちは、リサイクルショップの段ボールの中に束で雑に詰め込まれたりしていて、見向きもされていなかったんですよね。いわんや旧裏のカードで遊ぶ環境なんてどこにもありませんでした。仕方のないことかもしれませんが、自分たちがいまも好きで、大事にしているカードで遊べないのは悔しいな、と思っていました」

近年の加熱ぶりを考えると隔世の感があるが、たしかに当時のポケモンカードの扱いは「中古のおもちゃ」でしかなく、一部を除いてカードショップできちんと取り扱われることもなかった。そんな中、公式のサポートもない昔のカードで遊ぶ機会などあるはずもない。

「昔一緒に遊んでいた仲間や、その後知り合った旧裏のカード愛好家のみんなと遊びたいと考えていたんです。でも遊べる環境はない。ないなら自分で作るしかないな、よしやろう、と。
当初は4、5人の小さな集まりでした。それでもはじめてお会いする人も含めて、小さな公民館の会議室で一日楽しく遊んだり、思い出を語り合ったりしていましたね」

こうして始まった「関西旧裏ポケカオフ」はその後2009年11月まで不定期に8回開催された。その後、ソラ氏の就職などで中断し、2011年10月に「関西旧裏ポケカオフ -neo-」として復活。以降10年以上の間、熱心な参加者に支えられて開催してきたという。

全国に広がる旧裏の灯火と新たな参入者たち

取材していて不思議に感じたのは、参加者の年齢層が想像していたより幅があることで、子どもの頃に遊んでいなかったであろう20代前半の参加者もいる。

「前身の関西旧裏ポケカオフを始めた時だけでなく、neoとして再開した時でも、参加者は自分と同世代、昔旧裏で遊んでいたという人たちが集まっていました。でもいつからか若い人たちが参加したいと言ってきてくれるようになったんです。これには僕らもほんとうにびっくりしました」

ソラ氏がこのイベントを始めた動機は「昔使っていたカードをもう一度使いたい、あのコンボでまた遊びたい」というものだった。ではそういった経験も思い出も持たない若い世代の「旧裏プレイヤー」はどこからやってきたのだろうか。

対戦終了後はお互いのデッキを披露し合う

「ひとつには旧裏ポケカオフに参加してくれた人たちが、自分たちの地元でもイベントを開いてくれたり、ショップでの旧裏大会の開催を働きかけてくれるなど、旧裏の面白さを周囲に伝えるような活動をしてくれていたことがあります。そのつながりから旧裏のカードや対戦に興味を持ってくれる人が増え、イベントの回を重ねるうちに、これまでいなかった若い世代がどんどん参加してきてくれるようになった、という流れですね」

この日集まった参加者は、北は東北、南は九州までさまざまな場所からの参加者が数多くいた。そうした仲間がそれぞれの地域でも旧裏面ポケモンカードで遊ぶことで、同じように旧裏面ポケモンカードでの対戦を楽しむ人たちの輪が広がっていく。それぞれの参加者に相当の熱量があってこその現象だろう。

「もうひとつはスイカさんの動画の影響があると思います。元々はブログをやっていた方で、詳しい戦術やデッキの特徴を紹介する動画をコンスタントにアップされています。ブログと動画を見てこれまで触れたことがなかった人たちでも、旧裏のデッキの動かし方や面白さを見つけてくれる人が増えているんじゃないかと思います」

スイカ氏が運営するYouTubeチャンネルには旧裏面ポケモンカードの情報が満載

旧裏面ポケモンカードの情報を精力的にネットで公開するこうした活動によって、ポケモンカードの本流とは違うところで独自の進化を続けているということだろうか。

「今では元々旧裏の世代で遊んでいた人が半分くらいで、あとの半分は当時はプレイしていなかった、最近遊び始めたという人たちになってきています。『新しい風が吹いているね』なんて話しています」

ソラ氏自身も「BMうずまきカップ」という旧裏面ポケモンカードでの対戦イベントを2022年からカードショップで開催している。
関西旧裏ポケカオフでは、強すぎてゲームバランスが不安定になるカードにポイントを付与して使用を制限するというルール「殿堂ランク」を採用しているが、「BMうずまきカップ」ではさらにルールを調整して、固定されたカードプール内での環境に変化をつけたり、新規参入のハードルを下げられないかと腐心している。

「あくまで対戦イベントなので、いきなりコンボデッキでなにもできないまま負けてしまうとか、理不尽に感じるようなことが減るように、こうしたルールの調整をしています。この大会の様子もスイカさんに動画として公開してもらっていて、それを見て若い世代の方が旧裏の対戦をやってみたいと次の開催時に参加してくれたりもしますね」

2023年にポケモンカードを始めた若者が、絶版となったはずの旧裏面ポケモンカードを選んで対戦を楽しんでいる姿は、関西旧裏ポケカオフ -neo- がなければ、見ることのできなかったものかもしれない。

これからも、ここで

最後に自主大会探訪シリーズでは恒例となった、「関西旧裏ポケカオフ -neo-」の今後について質問した。

「そもそものはじまりは自分自身が、旧裏時代のカードたちで遊びたい、という気持ちから始まったものです。その思いは今でも変わらないので、声をかけた時に集まってくれる人がひとりでもいるなら、これからもここでずっと続けていくと思います」

きっと次の開催でもあらたな仲間が増えたり、新しいデッキがお披露目されたり、新鮮な驚きと終わらない笑い声が、この公民館に響くのだろう。

同じポケモンカードの自主大会だけれども、どこか違う雰囲気を持った関西旧裏ポケカオフ -neo-。
もはや新しいカードが供給されることのない閉じた環境のはずなのに、無限の未来を感じる不思議な世界がそこにはあった。

文:zb

ソラ氏:X(旧Twitter)


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