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ラストワルツ カミシモ2考①

ハッピーな舞台カミシモ2のよさを書き記していきます!
まずは和田琢磨氏と染谷俊之氏のコンビ・ラストワルツについて参ります。
素敵ベテランコンビに託された立ち回りと"あのダンス"の真意に迫ります。
(筆者は3度見たが、3度しか見ていないので、3度の中でのアドリブなどを記しています。※12/13千秋楽配信鑑賞後追記)

王子 和田琢磨

「ひれ伏せ平民どもォ!ワガハイは王子であるぞ」

和田琢磨氏
1986年1月4日(36歳)、山形県出身。Heazelz所属。ミュージカル『テニスの王子様』2ndシーズンで手塚国光役、舞台劇『逆転裁判』御剣怜侍役などを務める。そして舞台『刀剣乱舞』歌仙兼定役がある。
本作では東京のお笑い劇場の看板だった漫才トリオだったが、過酷なロケで一人が脱退。残された2人で結成した「ラストワルツ」のネタ作り・ボケの岬一碧役を演じている。ネタが描けず、スランプに陥って自暴自棄になった岬は、公演中に財布が盗まれた通称”財布事件”において、自分が大事にしてきた後輩で、笑いのレベルが急成長した主人公の荒牧慶彦氏演じる時浦可偉が疑われたときにかばわず、時浦が「湘南劇場」に島流しにされるきっかけを作っている。これはカミシモ1のときの冒頭であることから、2ではじめてその事件の黒幕が分かるということで、それこそゲーム『大逆転裁判』ほどではないが、連作で補完し合う伏線戦略でも矢面にたつこととなる。

笑いへのこだわり、真摯な態度、それに実力が伴わない焦りと卑劣さ、気づけば周りは若手ばかり……という焦燥感溢れる配役である。
加えて、ネタでは、その反動で生まれたのか「王子役」でボケるというある意味で一貫した複雑さをもつキャラを快く演じている。

なぜかみんなの中ではTwitterのフォロワーが一番少ないが、アクリルスタンドが真っ先に完売し、私の妻は「生産数間違ってるって運営!!」と言っていて首肯した。

アドリブヤクザ 染谷俊之

「おめーと死ぬまで漫才やりてぇ!!」

染谷俊之氏
1987年12月17日(34歳)、神奈川県出身。GFA所属。おこげという犬を飼っている。さまざまな舞台やドラマに出ており、舞台 『刀剣乱舞』鶴丸国永役は記憶に新しい。
どこからでも分かる端正な顔立ちと放漫なアドリブ力などが魅力だろうか。
今回、みんな大好き染谷氏は、岬の相方で直線的に情熱的で愚直なツッコミ高砂真夜役を演じている。初めに言うが、本当にすごい役者さんだと思う。なぜなら彼は

これをさばかねばならない難役である。

天才的なネタを書く相方を慕い、復活を待ち続け、”財布事件”などで煽って来る奴らをはねのけ、岬を鼓舞し続けながら自分もパワーアップしようと画策し続ける。
染谷氏は魅力でもあるのだが鼻にかかったような特徴的な声をしているので、たまにエキサイティングすると本当に何を言っているのかわからない。だが、「コンテンポラリー!」(前ツイートの変なポーズの和田氏へのツッコミ)など、かろうじて聞き取れても脳内で変換しづらいツッコミが与えられており、染谷氏の語りに慣れている人はそうでない人の120%舞台を楽しめるつくりとなっている。
ちなみにラストワルツは「サンパチ」と呼ばれる年齢制限つきの漫才大会の最終年だそうだ。最初は出たいという高砂に、出ないと岬が言っていたがドラマではどうなるのだろうか……

では、ここからは、二つずつ与えられているネタについて、ラストワルツの名前について、そして鑑賞者の問題となっているダンスについて述べていく。


ラストワルツのネタ① エース

ラストワルツのネタ①は「野球部に帰ってきた不良エース」とのひと悶着である。
ここでは、まじで俳優ではなかったらインテリヤクザだったんじゃないかと思うくらいドスの効いた演技ができる染谷氏、そして、当人が野球大好きで公式のプロフィールに妄言を書くくらいな球児・和田氏のよさが存分に発揮されるネタである。

ネタの流れ(ネタばれ注意)

ツカミ→岬から野球部に帰って来る不良のエースをやりたい→高砂が不良を演じる
ボケ1 バットを振る動きの岬に絡む高砂→岬「いや、これ木を伐ってるんです。森林伐採部です」「環境保護に真っ向から立ち向かう部活動です」
ボケ2 高砂「久しぶりに球遊びしたくなってよォ!」とボールに火のついたタバコをぶっさす動き→岬「グラウンドでおにぎりを握るな!!」
ボケ3 岬「お前のことは忘れたことがない!」→複数人の激やば犯罪者となった元部員の名前を出す→高砂「忘れてんじゃねぇか!!」
ボケ4 岬「部員全員のユニフォームをピカピカに…ついたあだ名は…エース!」→高砂「洗剤のエースかよ!」
ボケ5 高砂「お前が暴力沙汰を起こしたら部活動は停止」→殴る高砂に関節技×3を決める岬
ボケ6 岬「暴力沙汰になろうがもう出れないんだ!部員が8人しかいない」→高砂「しゃーねぇな」→謎の動きの連発

最初はゆっくりだがウィンナワルツのように、二人の掛け合いによってどんどん高まっていくすさまじいネタである。
しかもすごいのが、他の役者にはないが、この漫才パートまでの物語上で、和田氏は漫才で岬がする謎の動きをしていたり、なんなら荒牧氏と和解する時にネタ帳を見せ合うのだがそのときに横にいる染谷氏が「森林伐採のくだりって」「エースって」と、ネタの予告を行っている。(※12/7追記、エクソダスも予告があったかもしれないことが発覚。全員やってるかも…?)
つまりラストワルツはストーリー進行中に、勝手に自分たちの漫才の伏線をはりまくっている。無人島という極限状況で発生したネタの卵をネタに昇華させた、とも読める。
これが演出か、二人の発案かは分からないが、「ベテランだからこそ成せる業」と捉えると強い。キャラを補強している。
※12/12 「わだともの輪」を見て追記。どうやら「食べる」とか「コンテンポラリー」とかは二人の発案らしい。異常に楽しんでるなこの二人!


ラストワルツのネタ② ナンパ師


筆者は舞台を3度見たが、なぜかラストワルツだけ「エース」しか見れなくて泣いている。円盤が出たら更新する…ウッ
としていたが、12/11千秋楽アーカイブ配信視聴により更新

ネタの流れ(ネタばれ注意)

たくましい男になりたいという岬に対して、じゃあナンパされる女の子を守ってみろ、ロールプレイ開始。
ボケ1 声が裏返って挙動不審で全然だめな岬
ボケ2 上半身は立派だが足がガクガクふるえている岬→ケンタウロス!
ボケ3 腕をつかむことに対して、「男は背中でついてこさせろ」とナンパ師側に謎注意
ボケ4 「汚らしい手を放せ」と言えと助言を受けた岬「汚らしい女の子から手を放せ」
ボケ5 攻守交替 王子然としてナンパを成功させる岬
ボケ6 ちょーうさんくさいナンパ役となるも結局ナンパを成功させる岬
ボケ7 ちょーうさんくさいナンパ役だが「手を放せこの虫けら!」と言われた矢先「一寸の虫にも五分の魂…」といいながら地面に落ちている何かを食べて巨大化して町を破壊する岬

という怒涛の王道漫才を展開する。
また、これは公演ごとに増やしていった観測ができるが、ボケに入る前の振りに対して「お安い御用だ」と岬が言うのだが、それが「楽天カードマン!」など耳馴染みCMのメロディに載せてくる。千秋楽に至っては「クリアアサヒ」で放った後、突っ込みをうけて「乾杯ッ」という。

また、岬はここまで、「食べる」ことについていろいろ仕込まれている。何かを食べて巨大化するという暗示だとしたらもう催眠術師である。

ラストワルツのアドリブ

本作はアドリブが目白押しであり、目白押しでない舞台ですらアドリブをかます染谷氏なのだから期待してくれて全く構わないだろう。

アドリブ① 登場シーン

ストーリーではそれぞれのコンビの紹介がまず行われるが、ラストワルツはなぜかネタのオチのところから幕を開ける。そこで、和田氏が軽くアドリブをする。以下のYouTube冒頭のそれである。「ゲネプロに来てくれた~~」、私が大阪公演見たときは「大阪の~~」と言っていた。

アドリブ② ドローンでどぼーん

予告なくはじまる無人島ロケの最初のイベント、巨大ドローンに引っ張られ滝つぼに叩き落される。
ここで和田氏は滝つぼに落ちる時に王子キャラで放つボケを公演ごとに変えている。「じいや!あの世で待っている」パターンと「滝つぼの王になる!」などがあるが、これに対して染谷氏は「それなんかメリットある!?」などと突っ込む。

アドリブ③ 寝たァ!?

ここは珠玉のアドリブである。というよりアドリブ前の謎理論をかまずに言える染谷氏がすごい。無人島ロケで他コンビが揉めているシーンがあるのだが、ラストワルツは、染谷氏がネタ作りを懇願していて、それに応える和田氏が描かれており、和田氏が寝たあと、「寝たァ!?」とダブルミーミングをかましながら感謝するシーンである。
ここで最後に謝罪もするのだが、「寝てるのに謝っても仕方ない」→「寝てるのに謝って謝ったことになるなら、いまのうちに過去にやったこと謝っとこ!」という謎理論で謝罪アドリブをかまし、寝たフリの和田氏が起きるシーンである。
ここのボケは、私の見た3回は
①③「この前口開けて寝てた時ちっちゃいクモ口に入れた」→「どうりでネバネバしたと思った」
②「ポケモンの名前タカサゴにした」→「なんで俺、いけタカサゴ!ってしなきゃなんないんだ」→「タカサゴォ」(カニみたいな動き)→「鳴くな!」
だった。

など、これは本当に言い尽くせないほど出てくるので、やはりこちら桃氏を参考にされたい。

私が2回目に東京公演にいったとき、己らのアクリルスタンドが完売するやいなや、「朝から並んで買った」といいながら染谷氏がワダックマのアクスタを出し、コンビの間に置いたのだ。そして、「これでまたトリオですね」といった。しかもその後ツッコミをいれてアクスタをはり倒したのだ。こいつはまじで2022年で一番おもしろい瞬間だった。

とにかく、アドリブの分かりやすい面白さがすばらしかった。ほかにも他役者が喋っているときに染谷氏は変なことをよくしていた。本当によくしていた。
一方で、他の演者のアドリブやミスでめちゃくちゃになったとき、引き戻すのもまたこの二人だった。
アドリブの原義はラテン語の「ad libitum」。「好きなように」、であるが、彼らは本当には好きなようにしていない。舞台を好きになる人のためにやっている。

ラストワルツのコンビ名について

ワルツは3拍子である。
3人トリオだったところから2人になり、落ちぶれたところから這い上がっていく。岬は「3人の時が最高だった」、高砂は「2人でもやっていける!」というスタイルで、最終的に「3人のころ」に別れを告げ、2人で夢をつないでいく役回りである。
そしてlastは多義的な言葉だ。

1〔順序が〕最後の、一番後の
2最後に残った、とっておきの
3〔時間的に〕すぐ前の、最近の
4〔時間的に〕一番遅い、ギリギリの
5〔生命の〕最期の、末期の
6最新の、一番新しい

英辞郎https://eow.alc.co.jp/search?q=last

おそらく、前には3人だった、という意味からスタートしている。そしてそこから最後まで行くということでとてもいい冠をいだいているのだろう。
てかこの二人のコンビの3人目ってあの、三日月m…

ちなみに劇中で大阪代表が「心臓の音は三拍子やー言います。死ぬまで漫才やれってことでえーんちゃいます」とし、二人の心は晴れ、宝物を手にする。
心臓の音が三拍子説の出典については、明確なものが見つけられなかったが、どうやら
「ドッドッドッ」というのが三拍子であるわけではなくて、
ドッ クン (空) ドッ クン (空)
1  2  3   1  2  3
ということらしい。
となるとこれはまじでクラシックのワルツである。
そして注目すべきは、最後の三拍目は 休符 なのである。
いないのだ。トリオの一人がいなくなったという解釈が可能なのである。
いやいや…そんなん……

「「「風流だね。」」」

そして胸に手を当てて不整脈だった人は今すぐ病院に行ってほしい。

ラストワルツのキャラソン『ワルツを超えて』

さらに畳みかけるようにキャラソンがすごい。
キャラソンの構成は以下。

  • サビ(伴奏はストリングシンセのみ)

  • Aメロ

  • Bメロ

  • サビ

  • Aメロ短縮

  • Bメロ

  • サビ (変化あり)

  • Cメロ

  • サビ (変化あり)

  • ラスサビ

なぜ書いたかというと、作りこみ度合が主役コンビに比して違う。
また、歌詞がいい。特に舞台上のストーリーとリンクしている。
岬「目の前の現実 向き合えないままで ただ逃げていた はぁ…」
高砂「何してんだよ うつむいてばかりで (略) もう時間がないから」(Aメロ①)
二人「何百回 何千回でもいい やってみればいい」(サビ)
二人「何万回 何億回でもいい たちあがればいい」(サビ②)

など、進行していく。ワルツ(三拍子=三人トリオ時)を超えていく二人の生きざまを描き切った名曲界の大傑作である。
そしてなにより、ワルツとはいいつつ曲は四拍子だ。そりゃもちろんおおむね世のロックミュージックは四拍子なので、さすがにここを三拍子でつくってきたら、いつのアジカンだよというところなのだが、そういう意味でも超えている。
何より、2回目と3回目のサビは、舞台上では流れないが、なぜか変化がついている。
調号に自信がないがこんな感じ。

サビ1


サビ2

サビ1では2小節で終わっていたところプラス2小節入れてくる。
しかも付点八分音符で急き立ててくるのだ。
私にはもう、あの付点八分音符が岬と高砂に見えてくる。
本記事のキャプチャはジャケットだが、この二人のシュールな格好すら、付点八分音符じゃないかと泣けてくる。
とにかくなぜか前後のコンビとは違う、曲の作りこみの深さがある。(ちなみにねあんでるの曲の構成はほぼ類似している。曲順でメリハリを付けているのだとすると、作曲家の犬太郎氏は鬼才オブ鬼才だ)

歌詞も良良良の良ですよ…ワルツの二人が「ステップバイステップ!」ですよ。え、これ制作の中心この二人ですよね!?

二人の曲のオススメポイント…ワダックマが自分と重ねているのも、心に来るものがあります。


同じ歌詞紹介してんじゃねぇよ!!!


問題のラストワルツのダンスについて

まずはこちらをご覧ください。

3分16秒からラストワルツのダンスが始まるが、すごいのだ。
まず、和田氏は、ずっと前を見続けている。
染谷氏は、髪を振り乱している。

全く合ってないのである。

この動画ではマシなのだが、舞台では本当に合ってなかった。その前のコンビの右もいいが。3回見たが3回目になるにつれてなんならどんどん合ってなくなっていった。つぎのノノクラゲの二人のダンスを見ると愕然とするかもしれない。溝口琢矢氏圧巻の立体的な、大平峻也氏圧巻の動作量のキレキレダンスだ。
それに比べるとラストワルツのダンスはそもそも振りに緩急はほぼないし、直線的だ。それでいて、体をコントロールできていない。ダバダバしている。PSのFF7くらいの解像度だ。

しかしこのダンスのズレは私は演技だと信じている。

二人は楽しそうなのである。

和田氏はずっと前を見続けている。おそらく誰よりも成功し、誰よりも失敗し、そして再起に燃えている岬という役を演じきった結果、笑顔で前を見続けているのだ。ダンスはぎこちなくていい、体全身を使うのだ。
染谷氏はずっと髪がもう無茶苦茶になっているし、ダンスで体が振り回されている。しかしこれは、体を張ってでも、なんでもしてでも、このチャンスを岬と二人でつかもうとした人間の愚直さである。
このダンスにこそ、全てのコンビ愛が昇華していると私は思う。ここまで、とにかく舞台内外で本作を支えてきたベテランの二人の出した結論なのだ。


私には、聴こえるのだ。

高砂「なんでオメーずっと前向いて踊ってんだよ!」
岬「だって、お前が前を向いていくんだっていったんだろ!」
高砂「そーゆー意味じゃねぇよ!!」


Step by Step!


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