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【クリミナル・マインド 9】トンネルの魔術師 – あらすじ

「私の力の秘密は、それが常に秘密であることだ」
 画家など サルバドール・ダリ

 4,400文字ほど。

【感情のトリガー↓】
】砂漠で溺死
】握手の中断
】一〇分の二
【ー】籠絡者の影
【ー・】老獪の幻想・嬉しい贈物

【謎】砂漠で溺死できし
 身元不明の遺体が砂漠地帯でみつかった。場所はドクター・スペンス・リードの故郷でもあるラスベガス。そこで殺された被害者は二名おり、死亡推定時刻から一人は昨日さくじつに、もう一人のほうは二週間前に殺害されとのこと。
 どちらも三十代の女性が狙われたというのに性的暴行のあとはなく、鈍器による外傷と、手首・足首には擦過傷さっかしょうがつけられていた。
 ただ、遺棄されていたのは砂漠地帯なのだが、死因が溺死という奇妙な死をげている。つまり、どこかでおぼれさせてから、遺体をここまで運んできたということだ。が、近くてもここから一〇〇キロ離れたところでないと、水辺にはたどりつけない。そんな遠くからわざわざ移動してきたというのか? それなら、なぜ、売り出しちゅうの土地に捨てたのか? ここは地主の許しを得ることもなく、パーティーをする若者や 空き缶を拾いにくるホームレスなどがやって来るような場所でもある。
 えて遺体をみつけさせた?
 その目印となる看板には、“一〇分の二” という、まだ乾いてない落書きの文字が書かれていた。
 一〇分の二……?
 一〇人中の二人という意味なのか
 まだ他にも八人の遺体があるということなのか

【興】握手の中断
 地元の小さな食堂店で出会った二人の男たち。
 ベガスに移った連絡のとれない妹をさがすため、無職の状態でやってきた三十代くらいの男性——フィン。
 もうひとりの方は、白髪はくはつ白髭しろひげが特徴でもある六十代くらいの細身な男性——マーヴィン。
 働かせてほしいという頼みを断られたフィンは、その店から出てきたマーヴィンに呼び止められる。さきほど客とぶつかったときに、スリを働こうとしたところを目撃されていたのだ。が、その中老はとがめるつもりで呼び止めたわけではなかった。その才能を買ったのだった。
 二人は、どこかの富裕層がひらいている個人のパーティーにやってきた。もはや、そこはエンターテイメントのステージ内と言ってもいいほど、シルク・ドゥ・ソレイユ などで見るようなジャグラーや、まるで軟体生物のように体をひねるパフォーマーも存在する。そのあでやかなイルミネーションに包まれた中央には、明るい燐光りんこうを放っているプールがこれみよがしに構築されていた。
 白髪で白ひげの中老男性——マーヴィンは、これから技を教えてやる言い、美女たちに鼻の下を伸ばしている五十代くらいの男性を使って、実演をしはじめたのだった。
 自分は暗示の達人——マーヴィン・コール。
 すると、術にはまった男性は、なぜか、四の数字が言えなくなった。一……二……三……五……と、四を飛ばして、指の数を一一まで数えてしまったのだ。
 これが、“握手の中断” 。
 自分が差しだした手に握手しようとするとき、あえて、相手の手をにぎらずに、そのまま脳へとダイレクトに呼びかける。動作と思考は一つの動きとして覚えてしまっている脳は、その動きを中断されるとすきが生じてしまうという。
 暗示を刷り込まれるという 隙 が。
 マーヴィンのパチンッという手叩てばたきの合図で、男性の暗示は解けた。その不思議な現象に魅了されていた周りの観客たちは、自分に酔いしれっている彼れに、拍手の喝采かっさいをおくりだす——と、そこに!
 突然、重低音の拍動はくどうがうなりまくる イントロ が流れはじめたではないか! つい先ほど、マーヴィンのパフォーマンスに注意を向けていた観客たちの視線は、一気にそこへと持っていかれる。もう、見る人の心はわしづかみ。まるで入場コールのように女性アナウンサーが紹介したのは——
 真の魔術師——ロミオという天才イリュージョニストであった——。

【解】一〇分の二
 おなじ街ちで、また遺体が発見。
 今度の被害者は男性であった。その手首と足首には擦り傷も見つかっており、やはり、同一犯でまちがいはなさそうだ。しかし、ここから少し手口が変わる。さらに人目のつきやすい街中に捨てられていたのだ。
 より大胆に、隠そうともしていない。
 男の遺体はゴミステーションに置かれていたのだが、また、あの同じ落書きがかかれていた。
 一〇分の二。これで三人目の被害者になるというのに、なぜ、〈2/10〉と書いているのだろうか?
 その謎をリードは解いた。
 これは、ホームレス同士が仲間に危険を伝えるサインだったのだ。「二」とは二つの目を意味し、「一〇」とは指の数を表している。彼れらのあいだでは、“泥棒” を意味する記号として、大恐慌だいきょうこう時代から味方を守るために使われていたという。
 つまり、これは脅しである。泥棒行為を働けば、こういう目にあうという見せしめのつもりで、被害者たちは殺されていたのだ

【ー】籠絡者ろうらくしゃの影
 二週間前に殺された最初の被害者は、一六日前に、ベガスのカジノでプレイしていたことが判明した。その監視映像に映っていたのは、観光客から金銭を盗みとっている姿だった。
 通称——採掘師さいくつし
 観光客をよそおって、他の観光客からチップや金品をぬすむ連中のことを指すのだが、なんと、そこには三人目の被害者である男も映っているではないか。おそらく、二人目の被害者も同じグループにいたと推測される。そして、組織を裏切ろうとしたから殺されてしまったのだろう。
 また、遺体の体内から見つかった汚染水から、トンネル式の放流ほうりゅう設備で溺死にさせられていたことが判明した。その矢先のこと——
 トンネルを取材しに行っていた新聞記者——サラというブロンドの女性が失踪する。その女性が使っていた携帯を追跡し、F B I は、ホームレスたちが潜むトンネルへと足を運んだ。そこで、連行したのが シーザー という住人たちのリーダーである。
 署に勾引こういんしたシーザーに、サラの居場所をたずねると、“博士が知っている” と言ってきた。“アジャ・メスビ博士Aja Mesbi Drは魔術師だ” 、と。
 ガルシアの調査では、彼れに妄想性障害の経歴はなく、すごく短気で残忍な性格をした——元強盗犯であった。そんな彼れが、計画性と忍耐力のいる殺人をひとりでやっているとは考えられない。そこで、F B I は、ある仮説をたてたのだ。
 シーザーを操っている 黒幕 がいる——と。

【ー・悦】老獪ろうかいの幻想嬉しい贈物
 シーザーが語った “アジャ・メスビ博士Aja Mesbi Dr” のスペルを並びかえると、“ジェームズJamesブレイドBraid” になることをリードは突き止めた。このジェームズ・ブレイドとは、“近代催眠の父” と称されていた人物である。
 シーザーは、博士と呼んでいる人物に、暗示をかけられていたのだ。それを逆手にとり、リードは自分も博士の味方であるということをそそのかし、封印されていた博士の正体を想起そうきさせることに成功する。
 黒幕の正体は、マーヴィン・コール であった。彼れは、フィン という男とともに、砂漠に向かったと シーザー は言った。
 その頃、シーザーに記者だとバレて 殴られていたサラは、二人の男たちに運ばれていた。すでに彼女は気を失っており、マーヴィンにたぶらかされそうになっているフィンは、今にも、サラを撃ち殺そうとしていたのだった。
 トンネルの住人は、みんなシーザーを恐れていた。なのに、マーヴィンだけは怖がる様子もなかった。そして、観光客から盗んだ金品をシーザーに徴収ちょうしゅうされるときも、彼れの姿はみられなかった。それを思い出したフィンは、その手に握りしめている銃口を、マーヴィンに向けた。
 実は、一年前に妹から伝えられていたのだ。
 食堂で出会ったマーヴィンという男に、トンネルの住処すみかへ誘われていたということを。もし、なにかあれば 博士 のせいよ——と。
 そこに駆けつけてきた F B I によって、フィンの行動は止められる。彼れの捜していた妹は、ドラッグの過剰摂取で、すでに亡くなっていたと伝えて……。
 まだ、バレていないとおごっているマーヴィンは、リードの空疎くうそ追従ついしょうによって、かんたんに資金集めの目的をらしてしまった。
 リオのステージを借りて、盛大な魔術を魅せること。なのに フィンの妹は、憎きライバルであるロミオの助手になりたがろうとしていた。それが許せなく、殺していたのだ。
 残念ながら、彼れの夢は幻想として終わるのだった……。

 リードの古里でもあるラスベガス。
 現地へ向かう機内のなかで、彼れは “仕事が終わったら、いっしょに食事に行かない?” と留守電にのこす。が、新しい薬物治療が順調にすすんでいた母親は、付き添いのもとで “グランドキャニオン・ツアー” に参加していたのだった。
 最近は、毎日手紙をくれていたのが届かなくなり、旅行のことも報告なしで参加していたことに、どこかリードは寂しい気持ちになっていた。それはまるで、子どもが成長して大人になっていくような寂しさだと、ジェイジェイにらしていたほど。
 事件解決後、ヴァージニア州の F B I 本部にもどったきたリード宛てに、一つの小包こづつみが届くのだった。それを届けてあげたガルシアも、中身が気になって仕方がない。さっそく、リードはその小包を開けてみた。
 中には、グランドキャニオンの峡谷をイメージした置物と、そこで写真を撮った絵葉書が入っていた。その瞬間、リードの照明が少し明るくなったような——彼れは今、となりでほころんでるジェイジェイとガルシアに聞かせてあげるている。
 子供のときから、いつも、隣りで本を朗読してもらっていた——統合失調症で、現在も治療を受けている——
 大好きな母からの お 手 紙 を——。

【感想】
 ということで、今度の犯人は自分の手を汚さないで犯罪を犯していた——ソシオパスが登場します。ドラマだと、なんとかくこの人が……と、予想どおりの展開でしたので、そんなに感情は揺れなかったと思います。
 最後、サプライズでリードの母親が来てくれるのかなぁと、淡い期待を抱いてしまいましたが、残念ながら本人は登場せず……。元気な姿がみたかったですのぉ。

「幻想は、内なるむなしさを偽るための道具」
 建築家 アーサー・エリクソン

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