疑似政権交代:最大の功労者・野田聖子
自民党総裁選で、河野太郎行革・規制改革担当相に対する「待望論」が盛り上がらず、岸田文雄元外相で「まあいいかな」という空気が広がったのは、菅義偉政権の内閣支持率激減という深刻な状況から脱して、自民党の政党支持率が上がったからです(厳密にいえば、内閣支持率と政党支持率は違うんですけどね。まあ、総選挙は岸田でも大丈夫だと、多くの議員、党員が思った指標になったということです)。
その大きな要因は、私が総裁選前から言っていたように、さまざまな候補者が出て、政策論争をすることで、総裁選で「疑似政権交代」を争うような状況が自民党内に生じたからでしょう。
自民党は単純な「保守」ではなく、政策志向が極右から中道左派まで、実に幅広いことが示されたわけです。自民党とは、なんでもありの「キャッチ・オール・パーティ(包括政党)ですからね。その結果、野党がアピールできることがなくなり、必要がなくなってしまいました。
TVとか観てますと、「自民党は変わっていない」と批判する識者がいろいろいらっしゃいますが、自民党は元々なんでもありで、野党の政策を盗んでカネつけてやってしまうものなんです。その意味では、はい、なんも変わってない、だから「万年野党」なのねってことだと思います。
安倍晋三・菅義偉政権の間に、自民党は党内で異論を許さない純粋な保守になったように見えました。「疑似政権交代」はなくなり、総裁選で総理・総裁の対立候補が出なくなりました。それは、首相の政敵は党内ではなく、野党だということになり、相対的に枝野幸男代表の立憲民主党の存在感が上がりました。菅政権の支持率低下によって、補欠選挙・横浜市長選で自民党は連戦連敗。特に、横浜市長選は首相の地元で惨敗という悲惨な結果となりました。総選挙は、野党と政権の座をマジで争うものとなりつつありました。
その状況は一変したと言えます。野党共闘は以前よりしっかりしてますから、自民党は議席を減らすでしょう。しかし、政権交代が起こるほどではないとみられています。
その状況を作った、最大の功労者は、野田聖子元総務相だと思います。野田氏が「同性婚」「選択的夫婦別姓」など女性・人権・多様性についての政策を真正面から打ち出したことで、自民党の政策志向が実に幅広いことが示されたのです。
また、実際に政策論争が活発化しました。私は、この総裁選で最も論争が盛り上がったのは「選択的夫婦別姓」だったと思います。4候補の考え方の違いがはっきりとしたし、同じ女性候補者でありながら、「通称使用の拡大」を訴え、それを現実的な策として実現させてきた高市早苗氏との論争は、高市、野田両氏が、他の2人の候補者よりも閣僚経験など実務経験が豊富で、論争が具体的だったこともあり、非常に中身が濃いものとなりました。
この問題が盛り上がった背景には、五輪・パラリンピックの開催で色々あったこともあり、国民が「多様性」ということに非常に高い関心を持つようになったことがあると思います。自民党総裁選は、ちょっと国民の関心からすれば、ズレたところがあると感じますが、それでも野田氏が訴えたことは、自民党が多様な政党であることを示したと思います。
問題は、「安倍晋三」という「新闇将軍」が支配することになった岸田政権で、自民党がせっかく総裁選で示した「多様性」を保って、野党を呑み込むような戦いができるかどうかです。私は、安倍政権の時でさえ発揮された、勝つために中道「サイレントマジョリティ」をなりふり構わず獲得しようとする自民党のリアリティが発揮されると思っています。
その1つのカギは、高市政調会長とともに、野田氏をどのポジションで起用するかだと思います。
私は岸田総裁に言っておきたいと思います。自民党が総選挙で加藤と思ったら、野党と真っ向からぶつかり、論破することではありません。野党の主張をも、ぜんぶのみ込んでしまう、自民党のなんでもありの深さ、したたかさを見せつけることです。
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