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総裁選:前代未聞の「総裁による総裁派閥外し」と「新闇将軍」の誕生

「岸田文雄さんが総裁選に勝ったわけじゃない」と書いたわけですけど、それがあまりにも簡単にわかってしまったのが、党役員人事と明らかになりつつある組閣です。そこでは、前代未聞の現象が起きてしまっています。

それは、「総裁による総裁派閥外し」ということです。自民党総裁選は、血で血を洗う権力闘争であることはいうまでもありません。勝者はおいしい権力の蜜をすべて得る。敗者は徹底的に干し上げられる。

かつて「三角大福中」が激しい抗争を繰り広げていた時代、中曽根康弘氏が行政管理庁長官という閑職に追われ、同じ派閥の渡辺美智雄氏が蔵相に抜擢されるという、中曽根氏からすればありえない屈辱人事が行われたりしました。近ごろでは、安倍晋三前首相に弓を引いた石破茂元幹事長が、もう徹底的に干されたことはご存じの通りです。

繰り返しですが、敗者が外されるのは普通です。ところが、岸田新総裁による党役員人事・組閣で起こったことは、思わず目を疑うような「岸田派外し」でした。党4役に総裁派閥から1人も起用されないというのは、異例中の異例です。

これを、どや顔のつもりなのに、目が泳いでどや顔にならないいつもの顔で「人の話をよく聞く」「挙党体制」だと胸を張られても、頭を抱えてしまいます。

「岸田派外し」の代わりに、党4役に起用されたのは、甘利明幹事長、高市早苗政調会長、福田達夫総務会長、遠藤利明選対委員長。甘利幹事長は、ご存じ「3A(安倍・麻生・甘利)」の一角、高市政調会長は安倍前首相の側近として知られ、福田総務会長は若手のリーダーですが、「アベノフォン」に篭絡されて決選投票で岸田氏支持を表明しました。

かろうじて、遠藤選対委員長は岸田派と「縁戚」の「谷垣G」ではありますが、「三役」については完全に安倍氏の強い影響がある政治家が起用されました。

加えて、組閣人事も次々と発表されており、内閣官房長官には細田派の松野博一氏が起用されました。事実上安倍元首相がオーナーである細田派の実務家です。

さらにいえば、財務大臣には麻生太郎副総理・財務相の側近にして親戚の鈴木俊一氏が起用されました。これは、党副総裁に移る麻生氏が、事実上財務相に指示をする体制になるといえます。

これは、「安倍院政」の完成といえます。よく、安倍前首相の影響力が取りざたされてきましたが、正直これまで私は懐疑的でした。派閥の親分が金を使って権力を振るう時代は終わったからです。資金と人事と公認権を握るのは、総裁と幹事長、そして官房長官です。また、選挙に直接影響する支持者への利益誘導を決めるのは、財務相と政調会長です。ここを抑えない限り、史上最長の長期政権を築いた前首相といえど、実際の権力も権限も持てません。

ところが、安倍前首相は、総裁選で実にしたたかに岸田氏を勝利させ、その見返りに資金、人事、公認権、そして利益誘導のすべての権限、権力を実質的に握ることに成功しました。これには参りましたね。「中選挙区制時代」の派閥の親分の時代とは全く違う、「小選挙区時代」の新しい形の「闇将軍」の誕生かもしれません。

これは言い換えれば、なんとなく影響力があるんだろうという「雰囲気」というのではなく、今の制度上、必要な権力を実質的に握るという、実に合理的なやり方で「闇将軍」になったということですね。

私はずっと思うんだけど、安倍前首相という人は、第一次政権時の政権崩壊や、普段の答弁の稚拙さ、反論されるとすぐに切れる胆力のなさなど、政治家個人としては大した力量はないのですが、どんな頭のいい人が後ろにいるのかなと。表に出てくる「アベノマスク」「おうちへ帰ろう」の薄っぺらい官邸官僚とは別の次元で、表に出てこない頭のいい人が傍にいるように思いますね。

結局、「総裁派閥外し」と「新闇将軍の誕生」を許したのは、岸田文雄という政治家のあまりの「お人よし」にあります。要するに、岸田氏とは、この時代の政界の中で、ジャイアンやスネ夫にいいようにされるのび太君のような存在。外相時代から安倍前首相に総理総裁の座を「禅譲」してもらえるとにおわされ、いいように使われて、捨てられた。いいように使われたことすら気づかず、さらにいいように使われることを繰り返して、今日に至っているわけです。



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