見出し画像

お家芸バレーボール:「日本のやり方」の落とし穴

女子バレーが予選落ち。北京で28年ぶりに銅メダルと復活し、今回もメダル獲得が期待されたのに、また暗黒時代に逆戻りでしょうか。

敗因として指摘されているのが、「速く低いトス回し」の象徴される日本の戦術が、世界の最先端の潮流から遅れていたということですね。要は、過去の成功体験にこだわって、時代遅れになってしまうという、日本が負ける典型的なパターンに陥ってしまったということです。

この典型的な負けパターンに陥らないことは、スポーツに限らず、日本にとって非常に重要です。タチが悪いのは、この負けパターンは、最初に成功することから始まっていることです。ゆえに、一度ハマると、なかなか立ち直れないのです。

こどもの頃、男子バレーがミュンヘン五輪で金メダルを取るまでのドキュメント「嵐と太陽」という本を読みました。これは、非常にいい本で、僕のスポーツ観を形作ったと言ってもいいほどのものでした。

そこに書かれていたのが、松平康隆監督をはじめとする日本の首脳陣が、世界に勝つためにどうしたのかの方法論と、それが実現するまでのプロセスなのですが、まずやったのが、大古、横田、森田のビッグ3など、世界標準の体格のある選手のスカウト。彼らは身長195センチ。それ以外にも佐藤はもっと大きかった。50年前なのに、今の代表のエーススパイカーより大きい選手を探したのです。

そして、彼らに、日本の速くてテクニカルなバレーができるように、徹底的にフィジカルトレーニングを課した。

最後は、ミスターバレーボール森田淳悟の「一人時間差攻撃」など、世界の先をいくオリジナルの戦術の創造。一人時間差は、最初に登場した時、相手も観衆も解説者も何が起こっているのか分からず、「森田とセッターの猫田のコンビが今日は悪いですねー、運がよく決まりましたね」と繰り返していたというわけです。

ここで言いたいことは、「日本のやり方」というんだけれど、それはまず、世界標準のスケールの選手というものがあって、そういうスケールの選手が、世界に勝つために編み出した「日本のやり方」を身につける。その日本のやり方も、過去の伝統しがらみとかそういうものではなく、むしろ過去の伝統しがらみはなく、全く新しいものを創造していたということです。

ここまでは、バレーに限らず、日本の成功体験として語られるよくあることです。「プロジェクトX」の数々です。でも、それがだんだん勝てなくなっていくのも、日本のよくあるパターンです。

勝てなくなっていくのは、成功体験を持った「日本のやり方」が聖域化することです。それは、例えば「一人時間差」が日本の戦術だっていうことになり、勝つためにはそれをやらなければならないとなっていく。そして、最初に「それができる選手」を選ぶことになる。

最初に世界水準のスケールを持つよりも、テクニカルな小型で器用な選手が選考されることになる。だんだんチームが、ちまちまとまとまったものになり、「日本のやり方」を守り、それを継承する血のにじむ努力をする「精神性」が重視されるようになる。

チームが小型化すると、相手にパワーで押されるので、だんだんミスが出るようになる。ミスが出るともっと「日本のやり方」を極めなければならないと、より血のにじむ努力をしようという「精神論」になる。

そして、最後には負け続けて、今回の五輪のように「日本はまだ、速いトスで一人時間差攻撃をやっている」と言われてしまう始末となると。

ちなみにミュンヘンやモントリオールの頃までの日本は、僕の記憶ではパワーで負けてませんでしたよ。大古、横田、その後継者の田中幹保は、世界のトップのパワーアタッカーでしたから。

まあ、これが日本の負けパターンです。これ、いろんな世界で起こっている。例えば、ヤクルトスワローズが、野村克也監督で強かった時。最初は、池山、広沢という豪快な選手が、ID野球を身につけて強かった。それが次第に野村野球に元々合う選手ばかりになっていき、晩年は4番古田のチームに。古田はすごい選手でしたが、中軸打者じゃないでしょって。そういう経緯で黄金時代が終焉していくことは多いんです。

監督とか、成功した人が偉くなりすぎちゃうんですかね。

日本はものづくりだと言って、どこか金融やデジタルを下に見て、気づいた時には世界に取り残されてるのも、同じだと僕は思いますね。

日本の素晴らしさは細かな芸だってことで、「動くピクトグラム」でドヤ顔になって、でもそれが表現する世界観はさっぱり何もないってのも、「日本やり方」が至る典型的な末期症状ではないでしょうか。

日本のやり方ってのは、まず世界と同じやり方に器を合わせてみて、その戦いから自分のいいとこ、悪いとこを理解して、誰もやってないことをやる想像力を発揮するときに力を発揮する。まず日本的な技術とか精神性とか言い出すと、ダメになると思います。

その辺を、考えていただくとうまくいくのだと思います。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?