法テラスについて考える(その1)

法テラス特措法が一部の界隈で話題になっていますが、法テラスとは何かについて簡単に確認すると共に、どのような制度がよいのか考えてみたいと思います。

まずは概要について。

法テラスのやっていること

法テラス(正式名称:日本司法支援センター)は、「司法制度改革」の流れで、総合法律支援法という法律に基づいて作られました。

長くなるので沿革には細かく触れませんが、簡単にいうと「今まで弁護士が手弁当で行ってきたものの一部も含め、組織を作ってそこで担うようにする」というものです。形式的には独立行政法人となります。

法テラスの業務は大きく分けると次のとおりになります(法30条)。それぞれもう少し多岐にわたるのですが、主だったところに絞ります。

  ①情報提供業務

主に「利用者が法テラスに問い合わせる→オペレーターが情報を提供し、必要があれば面談等を案内する」という業務になります。

  ②民事法律扶助業務

後ほど詳しく説明します。

  ③司法過疎対策業務

主に「弁護士が少ない地域などに、スタッフ弁護士という専属の弁護士を派遣して業務に当たる」という業務になります。

  ④犯罪被害者支援業務

主に「DV、ストーカー、児童虐待に関する『法律相談』」を行っています。平成30年に追加された業務です。

  ⑤国選弁護等関連業務

主に「裁判所から国選弁護人等の打診を受け、担当する弁護士に通知をするなどする」業務です。

  ⑥受託業務

他の団体、特に日弁連から委託を受けて、一部の業務を行っています。

例えば「初期段階の刑事弁護」「難民」「生活保護」など、法テラスがカバーしていない分野について、受付などの一部業務を行っています(委託援助などと呼ぶことがあります)。

ただ、これらはあくまで法テラスが対象としていないので、日弁連が費用を出して弁護士費用等を賄っています。

例えば前述の犯罪被害者対応では、大雑把に

  法律相談までは法テラス(場合により国費)

  それ以降の活動は委託援助(日弁連が負担)

という枠組みになっています。


民事法律扶助業務

民事法律扶助は、法テラスの行うメインの業務です。簡単にいえば弁護士・司法書士の費用を立て替える制度です。

  ①法律相談

弁護士等が原則無料で法律相談を実施します。同じ相談で3回まで。

  ②審査

法律相談の結果、弁護士等が受任する必要があると判断した場合には、費用を立て替えてもらうよう、法テラスに申込みをします。

申込みができる条件は次のとおりです。

   A 資力が一定以下であること(資力基準)

月収が一定以下であること(収入要件)と、資産が一定以下であること(資産要件)が必要です。

例えば4人家族の場合、月収29万9000円以下、資産300万円以下であることが必要です(大都市加算や住宅ローン、医療費加算などもありますがここでは省略します)。

ただ、実際には資産要件の審査は緩やかめなので、収入要件が主な条件ということになります。

   B 勝訴の見込みがないとはいえないこと

弁護士が扶助必要と考えても、時々これで切られます。法テラスが立替したくないときの口実に使われているような印象すらあります。

例えば最高裁に対する上告事件など、この要件で審査が通らないことがあります。

   C 民事法律扶助の趣旨に適すること

濫訴などの場合には審査が通らないことになっています。ただ、実際にはこの要件で審査が通らなかったことは私は経験していません(法テラスで濫訴をするほど費用が出ないですし。。。)。

  ③援助開始決定

法テラスが以上の条件を満たすと判断すると、援助開始決定を出します。

そこには着手金と実費が記載されています。

例えば300万円の損害賠償請求事件という典型的な事案の場合、概ね

  着手金:16万5000円、実費:3万5000円

となり、合計20万円となります。

これを、毎月5000円か1万円ずつ分割して法テラスに支払っていくことになります(これを法テラスに「償還する」といいます)。

  ④終結決定

最終的に金銭的利益が得られた場合、報酬金が決定されます。概ね獲得金額の10%ですので、上記事件で200万円得られた場合は20万円ということになります。

この報酬金も分割して支払っていってもらいます


民事法律扶助の特徴(問題点)

扶助には、次のような特徴(問題点)があります。

 ①結局「立替」であること

扶助は、弁護士等の費用を国が負担してくれるわけではありません。あくまで「立替」に過ぎないので、利用者が全て負担する必要があります。

医療費ならば「窓口○割負担」という風に一部だけ利用者が負担する制度がありますが、それもありません。あくまで10割負担です。

 ②分割の金額は増額されるおそれがあること

終結決定の際、償還を3年で終わるように調整されます。

したがって、今まで5000円で済んでいたところが、例えば1万円に増額される場合もあります(例:残金が36万円→36か月で払うので月1万円)。

 ③償還猶予・免除は狭き門であること

償還を猶予する、あるいは免除するということも制度上あり得ます。すなわち、法テラスに一時返さなくていい、または一切返さなくていいという制度があります。

ただ、生活保護か、それに準じるような状態でなければ、免除を受けることはできません。やはり、ほとんどの利用者にとって弁護士等費用は自己負担10割ということになってしまうのです。

 ④審査資料が煩雑であること

先に述べたとおり、収入要件を満たす必要があります。これがかなり煩雑で、住民票と給与明細だけを出せば足りず、賞与明細や医療費の明細、場合によっては「勝訴の見込みが分からないからあらかじめ訴状案を提出せよ」と言われることがあります。

 ⑤報告業務が煩雑であること

これは付随的でそこまで大変とまではいえませんが、着手報告、中間報告、終結報告と段階に分けて提出する必要があります。

 ⑥弁護士側の手間もかかること

審査資料や報告が煩雑であることに加え、例えば訴訟の場合には(和解で終わりそうな場合などほとんど意味のないときも含めて)訴訟救助の申立てが求められるなどします。

また、印紙等がかかれば、「一定以上かかってはじめて」支給されますが、その場合にも面倒な報告をする必要があります。

 ⑦分割払いの報酬は、弁護士が回収する必要があること

先ほどの200万円が、事件終了時に回収できればそこから差し引いて上納すれば問題ありません(厳密には、振込手数料なども弁護士が全て負担するので、問題ないとはいえませんが・・・)。

ただ、これが分割支払いという終わり方だと、弁護士が回収リスクを負うことになります。

すなわち、例えば10万円×20回払いと決まった場合、毎回支払われるたびに弁護士が1万円回収することになります。例えば1回で支払いが止まると、それ以上は請求できなくなり、報酬は1万円だけということになります。

 ⑧方針変更の場合、返金する必要があること

これは本来的な形なのでそこまで問題が大きくならないことが多いのですが、例えば弁護士の事情ではない場合でも、容赦なく返金を命じられます(依頼者がいなくなった場合など含めて)。

 ⑨弁護士費用は低額に抑えられていること

上記のとおり利用者にも負担がかかる制度になっていますが、その弁護士費用は低額に抑えられています。

例えば上記の例だと

法律相談料30分5000円+着手金24万円(8%で計算)+報酬金32万円(16%で計算) 

がいわゆる旧基準による算定になります。この中で、参考書籍を買い、必要な法令や判例を調べ、訴状を書き、何回か裁判所に行き、複数の書面を書き、時には尋問をして、半年で終わればいいですが何年もかかる場合もあります。

先ほどの例ですと40万円でしたので、3割カットされたことになります(報酬が1万円しか回収できなかった場合は7割カットになります)。


東日本大震災復興関連業務

以上のような扶助業務ですが、特例法により東日本大震災に関しては拡大されています。

具体的には、

①被災者(被災地域に住んでいたの)であれば

②資力がオーバーしていても

援助を受けることができます(無料の法律相談、弁護士等費用の立替など)。

そして、2012年から3年間の時限立法でしたが、その後何度も延長され、2021年までは資力があっても扶助を受けられるようになっています。

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